ブログで衝突するビジネスとフェアネスのゆくえ - (page 2)

信頼感を得る最強媒体の認知

 最近ブログは、そのジャーナリズム性が注目を集めるようになっている。新聞やテレビ、雑誌などのオールドメディアに対するアンチテーゼとしても語られるようになってきている。不祥事の相次ぐマスコミが元気を失いつつある一方で、アメリカではブログがマスコミ報道をひっくり返すような事態も起きている。ごく有名になった例としては、昨年9月の「60 minutes」事件がある。このCBSの人気報道番組は、ブッシュ大統領の軍歴について取り上げ、父親の縁故でベトナム戦争への徴兵や兵役を逃れようとしていたのではないかと報じた。番組では疑惑を立証する資料として、当時タイプライターで打たれた文書のようなものが紹介され、映像として流された。

 だがこの文書は、偽物だった。アメリカのブロガーたちの手によって、映像で紹介された文書には現代のワープロソフトでなければ入力できないような上付き文字が含まれており、30年前のタイプライター文書でないことを証明してしまったのである。

 このほかにもアメリカでは、ホワイトハウスの記者証がブロガーに発行されるなど、マスコミをブログが補完するような動きが次々と出てきている。ブログはジャーナリズムの一翼を担っているとみなされるようになってきているのだ。ブログに対し、「公平で客観的な情報を伝えるもの」と信頼する動きが、徐々に起きてきているということなのだろう。そして日本でもブログをジャーナリズムの一環として捉えようとする動きは、始まっている。

 その一方で、ブログは強力なビジネスツールとしても注目を集めつつある。最近は「ビジネスブログ」という言葉で呼ばれるようになっており、企業のウェブをブログ化したり、あるいはマーケティングにブログを利用するといった試みが一般化しつつある。

 たとえば、日産自動車は2004年に発売したティーダに関して、広報宣伝の一環として「TIDAブログ」を立ち上げている。TIDAというコモディティ的な使い方をされるであろうクルマについては、メールマガジンなどのセグメント化された媒体ではなく、ブログという日常感覚に近い媒体が適していると考えられたのである。TIDAブログはあくまで広報宣伝だが、しかしエントリーの書き出しは常に「日産自動車の山本です」という個人名で始まっており、親近感のあるブログらしさをうまくかもしだしている。

 ビジネスブログが注目されるのは、これまでの広報宣伝では決して伝えられなかった「個人と個人のつながりによる安心感」がブログでは演出できるからだ。昔の大量生産、大量販売時代はともかくも、いまやほとんどの人は企業の正面きった宣伝はまともには信じなくなっている。いくらテレビや雑誌の広告で「この製品は素晴らしいですよ!」とぶち上げても、はなから信用する人はいない。自分のまわりにいる信頼できる人が「あの製品はいいよ」と教えてくれなければ、購入にまでは至らない。人々は自分の周囲半径30センチの中の情報しか、信用しなくなっているのである。

 ブログが優れているのは、インターネットというバーチャルな世界の媒体であるのにもかかわらず、この「半径30センチ」を実現しているからだ。ブログは人と人の距離感を縮め、信頼感を育てることのできる媒体なのである。だからこそ企業は、これまでのマーケティングツールを凌駕する最強の媒体として、ブログに熱い期待を寄せている。

 実際、ブロガーの側にも、ブログのビジネス化によって何らかの対価を得ることで、みずからのインセンティブとしていこうという考える人が現れてきている。前出の青山さんも、その1人といえるかもしれない。青山さんはそもそも「ワーキングマザーズスタイル」を立ち上げた動機について、次のように話している。

 「会社員時代は、私自身が紹介したくない商品を、仕事としてしかたなく紹介しなくてはならないという場面も少なくありませんでした。でもそんなやり方じゃなくて、自分自身がいいと思ったものをきちんとビジネスとして紹介したいという気持ちはずっとあったんです。そんな中でブログが登場し、その運営コストの低さに注目したんです。雑誌は創刊に一億円、ウェブサイトでも企業が手がければ1000万円ぐらいはかかってしまうけれども、ブログなら数十万円で立ち上げられる。これなら損益分岐点を低く抑えることができ、そんなに大きく儲けなくても、じゅうぶんにペイすることができる。ブログは小さな儲けで維持しながら、自分がいいと思えるものをみなさんに伝えられる媒体だと思いました」

 現在、ワーキングマザーズスタイルはアフィリエイトによって維持されている。先に説明したように、企業から対価を得てエントリーを書くという行為は行っていない。だが青山さんは「でも今後は、企業から金銭的な報酬を得て、感想やレビューを書くことがないとも限らないと思います」と話す。「ブログにはいろんな可能性があるのだから、公平な意見をストイックに書くというのもひとつのやり方だけれども、それだけではないと思います」というのである。ビジネスブログという考え方が進化していけば、たしかにそうしたモデルが登場してくるのは、時間の問題だろう。

 そんなふうにしてブログは、一方では企業のビジネスとして取り込まれつつある。しかしその180度向こう側では、先に述べたようにジャーナリズムとしてのブログの存在感が増しつつある。それぞれの領域がどんどん増えていけば、いずれはどこかで衝突し、小爆発を起こすことになるのではないか。

 その小爆発のほんの小さな発火が、今回の「ワーキングマザーズスタイル事件」だったようにも見える。ビジネスとフェアネスの衝突を、今後ブロゴスフィアは回避していけるのか。

 たとえば検索エンジンは、キーワード広告の登場によってフェアネスを失うのではないかと思われた時期もあった。だがこの問題は、検索結果表示ページに「スポンサード」「広告」といった表示を加えることでほぼ解消している。ではブログについても、同様の共存共栄が可能なのだろうか。たとえばエントリーごとに「広告」「純粋な記事」といったカテゴライズを行うことで、果たしてビジネスとフェアネスが共存していけるようになるのかどうか。今後注目していかなければならない。

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