「不正アクセスとは何か」--office氏の判決を読み解く - (page 3)

立ちつくして無言でにらみ続けた

 こうして裁判所は、弁護側の主張をことごとく退けた。そして以下のように、office氏を断罪したのである。長くなるが、判決文で量刑理由について書かれている部分を転載しよう。

 『被告人は、プライバシー関係の情報を検索していた際に、ACCSのASKACCSのページを閲覧するなどして本件アクセスが可能となるセキュリティホールを発見し、これをACCS等に知らせないまま、自己の能力、技能を誇示したいとの動機もあって、セキュリティに関するイベントで発表するために、本件各不正アクセス行為に及んだのであって、このような犯行の経緯や動機に酌量の余地はない。被告人は、関係機関にセキュリティ対策を広く知らせるために本件各アクセス行為をし、その手法を発表したなどと供述するが、ACCS等に事前に報告せずに修正の機会を与えないまま公表し、攻撃の危険性を高めているのであって、供述するとおりの動機があったとしても、到底正当視できるものではない』

 『本件犯行の手口は、本件CGIが、HTMLファイルが改変されないことを前提としてプログラムされていたことに乗じ、HTMLファイルを巧みに改変し、本件CGIを本来とは異なる動作をさせて、本件CGIのソースコードおよび1180名以上もの大量の個人情報を含む本件ログファイルを閲覧したというものであって、巧妙かつ悪質な犯行である』

 『本件犯行により、アクセス制御機能に対する社会的信用は、大きく傷つけられたうえ、ACCSはASKACCSのページの閉鎖を余儀なくされ、ACCSおよびサーバ会社が社会的信用を失うなど、被害者らの被ったダメージは著しい。また、被告人がコンピュータネットワークに関するイベントにおいて、本件の手口についてプレゼンテーションしたため、被告人の手口を模倣した者まで出現したばかりか、本件ログファイルに含まれていた個人情報の一部がプレゼンテーション資料としてダウンロード可能になっていたことから、個人情報が不特定の人間に漏洩しているのである。このような結果が高度情報通信社会の健全な発展を阻害することは明らかであるし、被害者らが被告人の厳重処罰を求めることも当然と言わなければならない』

 『被告人は、当公判廷において、行為の外形部分についてはおおむね認めるものの、故意の存否等については不合理な弁解を繰り返すうえ、本件についてはむしろ不正アクセスを受けた被害者にこそ責任があると主張してはばからず、みずからの責任に思いを致し、真摯に内省する態度を看取することができない。そうすると、被告人の刑事責任を軽視することはできない』

 『他方、被告人は本件後、当該個人情報を含んだファイルの削除を依頼するなど、被害の拡大を防止する一定の努力をしたこと、従前も同様のセキュリティホールが存在することは報道されていたのであって、ファーストサーバ株式会社やACCSにおいても、個人情報を保存する以上それなりの対策がされていてしかるべきであったこと、被害者側が、正当な問題指摘行動はインターネット上の文化であり、被告人の指摘内容自体についてはありがたいとも述べていること、本件の報道によって社会的制裁も受けていること、被告人には前科のないことなど、被告人に有利に斟酌できる事実も存在する。そこで、以上の被告人に有利不利な事情のいっさいを考慮して、主文の刑を定めたうえ、今回はその刑の執行を猶予することとした』

 判決の言い渡しの際、office氏は被告席で立ちつくしたまま、無言で裁判長をにらみ続けていた。よほど悔しかったのだろう。

 閉廷後、北岡弁護士は次のように語った。

 「われわれの主張に対して、正面からの答えがなかったことは残念だ。被告の行為が不正アクセスにあたるかどうかという論点ではなく、管理者の主観的な意図を重視して判断しているように見える。非常に不満足な判決だ」

 office氏は判決を不服として、東京高裁に控訴している。控訴審では再び不正アクセス法の解釈をめぐって、office氏の行為が無罪か有罪かが争われることになるだろう。確定するまでにはなお相当の時間がかかりそうな雲行きだ。

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