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陽はまた昇る--2004年日本(後編)

2004/12/28 10:00
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 東京発--東京のNEC本社ビルを訪れ、その高みから外を眺めると、万華鏡のような景色が目に飛び込んでくる。あらゆる方向を向いてそびえ立つ超高層ビル、ひっきりなしに行き交う電車やタクシー、遠くにぼうっと浮かび上がる富士山のシルエット--そして、ずらりと並んだ机に向かい、夜更けまで黙々と働く大勢の社員たち・・・。

 この20年間で日本の経済環境は大きく変化した。それにも関わらず、戦後の産業発展の過程で植え付けられた日本人の労働観はまったく変化していない。社員は毎朝8時から9時の間に出社し、たいていは本来の終業時刻である午後5時半から6時をはるかに過ぎても会社に残っている。夜の9時、またはそれ以降に退社するのは日常茶飯事だ。その後、焼鳥屋でビールか日本酒をひっかけ、ストレスを発散してから、ようやく電車に乗って家路につく。

 一見すると、何も変わっていないように思えるかもしれない。しかし日本企業は今、大きな変革に取り組んでいる。この変化は日本の産業構造や企業の方向性を、後戻りできないほど変えてしまうかもしれない。

 大企業は日本の伝統である高い技術力と、西洋式の効率的でスピード感のある経営スタイルを融合させようとしている。ほんの20年前には、誰もが日本のコングロマリットをほめそやしていたことを考えると、これは劇的な変化といえる。当時は米国企業の方が、「朝の体操」といった純日本式のやり方を採り入れようとしていたのだから。

消えゆく「系列」

 こうした取り組みは、日本企業が進めている、かつては思いもよらなかった方向転換の一部にすぎない。日本企業は今、封建時代に端を発する「系列」の伝統が残した経営システムの妥当性に疑問を投げかけている。系列とは、特定の企業グループに属する各社が、グループ内の別の企業と優先的に契約を結ぶ排他的な関係を指す。日本貿易振興会(ジェトロ)によれば、5年前には契約の70%近くが関連子会社との間で結ばれていたという。しかし、この割合は現在では20%近くにまで下がっている。

 「日本型ビジネスの特質と思われていた長期的な取引関係は、音を立てて崩れはじめている」とジェトロ・サンフランシスコ・センターの原岡直幸所長はいう。

 企業関係が変化したのは世界経済の構造が変化したからだ。中国や韓国といった国々が競争力のある製品をより効率的に、しかもはるかに安価に生産できるようになったため、日本企業はビジネスを国内にとどめているわけにはいかなくなった。

 外国企業が台頭してきた大きな理由の1つは、こうした国々の大学が大量の技術者を供給できるようになったことにある。アジアではこれまで、人材養成は日本の専売特許だと思われていた。ところが、テクノロジー分野の頭脳流出により、日本では人口に占める技術者と科学者の割合が、成長する世界で高齢人口を養うために必要な水準を大幅に下回るようになったとエコノミストは指摘する。

 「これは非常に深刻な問題だ。日本政府はこの問題を認識しており、科学を志す若者を増やす政策を打ち出しつつある。そうしなければ、日本に未来はない。日本に天然資源はないのだから」とNEC基礎・環境研究所の曽根純一所長はいう。

「サラリーマン」を直撃する大きな変化

 過去数十年にわたり、日本の多くの産業を支えてきたのは「サラリーマン」と呼ばれるホワイトカラーの労働者だった。現在、日本の企業とテクノロジー業界で進んでいる大きな変化は、一人ひとりのサラリーマンにも直接的な影響を及ぼしている。なかでも物議をかもしているのは、年功ではなく、成果に基づいて給与を決定する欧米式の能力給制度だ。

 成果や能力ではなく、勤続年数の長さをもとに給与を決定する「年功序列」制度は、技術者と管理者の給与格差を拡大してきた。この10年間で複数の企業が能力給制度の構築に取り組んだが、この概念は今も完全には受け入れられていない。

 「成功した例もあるが、期待していたほどうまくいかなかった例もある。現在は改善に向け、見直しを進めているところだ」と富士通のサーバ事業を統括する山中明経営執行役はいう。「よりフラットな組織に移行し、各社員のミッションや職務内容を明確化していきたい」

 しかし、これこそ日本の企業文化を変革しようとする人々がぶつかる最大の壁なのかもしれない。それは、個人ではなく組織を重んじてきたシステムに、「自己」という西洋の概念を持ち込むことだからだ。

大きいことはいいこととは限らない

 こうした「匿名」の感覚に寄与してきたのが、日本企業の大きさである。現在でも、日本のコングロマリットの規模は他国のそれをはるかに上回っていることが多い。たとえば、松下電器の社員数は29万人、日立は30万人を超えている。IBMはほぼ同数の社員を抱えているが、利益ははるかに多い。Hewlett-Packardの社員数は約14万人、IntelとDellは10万人にも満たない。

 富士通は10月から、社員の職務内容を詳細に定義し、直属の上司を明確化する取り組みをはじめた(関連性は不明だが、富士通ではこの期間に外国企業に対するサーバの売上高が、もともとの額が小さいとはいえ、190%伸びた)。

 「日本では社員個人のミッションはあいまいにされてきた。むしろ、会社に属しているという感覚の方が強かった」と山中はいう。

 この自己発見の過程で、日本企業は社員に影響を与えているその他の問題にも気付くようになった。ワーキングマザーが置かれている厳しい状況もその1つだ。厚生労働省によれば、労働者全体に占める女性の割合は1980年から2003年にかけて60.8%上昇した。しかし、産休制度を設けていない企業が多いため、職場復帰を希望する女性は、元の仕事に戻るために再度就職活動をしなければならないとジェトロの原岡は指摘する。

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