スティーブ・ジョブズがいまだに重要な理由を教えよう - (page 2)

 JobsがAppleに復帰したとき、彼はこう言った。「ソフトウェアビジネスなんてくそくらえだ。我々独自のすばらしいアプリケーションを作ろう」。ミニコンの時代に逆戻りするようなこの古くさいコンピュータビジネス戦略のおかげで、1つのコンピュータ、1つのアーキテクチャ、1つのソフトウェアセットという、扱いやすくエレガントな世界が実現された。オープン性や互換性などどうでもよかった。標準準拠やサードパーティ製品との互換性といった縛りがないと、ソフトウェアをチューニングして、最大限に統合化しシームレスに動作させることができる。重たいAPIやオープンなドライバで、独自システムが持つせっかくの切れ味を鈍らせてしまうこともない。ソフトウェアさえ十分に魅力的なら、それを動かすためにユーザはマックを買うしかないのである。

 Macintoshは、オープンでも、業界標準でも、業界公認でもない。ただ、とにかく「良い」のである。

 Jobsは、デジタルドリームを実現させている。業界では、ソニーがつまずき、IBMはサービスに注力し、Intelは独占を守ろうとし、MicrosoftはレガシーOSのサポートに足を引っ張られているが、Jobsだけは、古きアナログの世界に替わる、思わず惹きつけられる素晴らしいデジタルの世界を実現し続けている。Steve Jobsは、GoogleのSergei BrinやLarry Pageが持つ創造性、Michael Dellが持つ経験、Carly Fiorinaが持つコネクションや説得力を兼ね備えている。

 これは何を意味するのだろうか。第1に、エンタープライズの世界にとって、Jobsのやっていることは何の意味も持たない。Jobsがデジタル化しているのは、個人ユーザーの世界である。大企業の社員が、小切手を精算したり、サプライチェーンを運用したり、在庫管理をするのに、Jobsのデジタル化が役に立つことはない。Jobsが大企業でのコンピュータの使い方を理解したことは一度もない。彼やAppleが「エンタープライズ」という言葉を口にしだしたら、見切りをつけたほうがよい。

 第2に、家電メーカー各社は、好むと好まざるとにかかわらず、再起したAppleおよび神のごとく遍在するSteve Jobsと競合することになる。Appleは、Forresterが行った2003 Tech Brand Scorecard(2003年テクノロジー企業採点表)で、最も認知度の高い消費者向けブランドのトップ5に入った。その後も業績は伸び続けている。

 第3に、Appleの新しいミュージック戦略(個人向けデバイス、デスクトップ管理ソフトウェア、オンラインミュージックストアのエレガントな統合)には要注意だ。スチールカメラやビデオカメラ市場は間違いなくAppleの攻勢を受けることになるだろう。携帯電話を使いやすくし、デスクトップとの親和性を高めるための製品では、Appleが独り勝ちする可能性がある。Bluetooth搭載のiSyncが登場すれば、アドレス帳のデータを捨てずに簡単に電話機を乗り換えることができるようになるだろう。

 第4に、AppleとLinuxの関係はどうだろう。どういうわけか、JobsはLinuxの魅力には逆らうことができないと誰もが思っている。Jobsとその開発チームが、その革新的なアイデアと創造性をデスクトップアプリケーションの開発に注ぎ込めば、市場に多くの新しい発想を吹き込むことができるだろう。それを"iWork"と呼ぶことにしよう。つまり、Linuxベースの統合デスクトップアプリケーションスイートである。AppleはiWorksをまずMacintoshの目玉として宣伝し、その後、Intelマシンにも移植するだろう。これにより、市場の5%のデスクトップがいきなりLinuxデスクトップに早変わりすることになる。Microsoft Officeの初めてのまともな対抗馬として、すばらしいスタートを切ることができるわけだ。ただ、これはMacintoshがLinuxではなくOpenBSDベースである事を考えると難しい。それでも、ここぞという時がくれば、Jobsは必ず動くに違いない。

 テクノロジー業界での返り咲きはそう多くはない。Phillipe Kahn、Fred Wang、Steve Case、Edson DeCastroに聞けばその難しさが分かる。そして、そのことが、Jobsのあくなきデジタル化推進の旅を、これほどまでにすばらしい大叙事詩にしているのだ。

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