WebFountainで次世代の検索に挑むIBM - (page 3)

答えを求めて

　ウェブ検索エンジンと同様に、WebFountainは干し草の山から針1本を探しあてることができる。ウェブ検索と違うのは、全体からトレンドを見つけ、「会社の評判」といった未知の問いにも答えられるように設計されていることだ。

　この能力はGoogle、Inktomi、Fast Search & Transferといった企業の検索エンジンをはるかにしのいでいる。従来のウェブ検索は重要なウェブページへのリンクやテキストの整合性を分析することで、検索語に合う文書をウェブから探し出すものだった。ユーザーはこうした情報を閲覧したり、別のページに飛んだりしながら、あるトピックに関する情報を仕入れていく。

　これに対して、WebFountainは大量のウェブデータから意味を見つけようとする。その基盤となるのがテキストマイニングで、「自然言語処理（NLP）」といわれるものだ。WebFountainはサイトをインデックス化し、ページ内のすべての単語にタグを付け、単語固有の構造を明らかにし、相互の関連性を分析する。規模は違うが、このプロセスは5年生の国語の時間に習う文章構造の分析とよく似ている。テキストマイニングはデータのかたまりを品詞ごとに展開し、相互の大まかな関連性を明らかにする。

　WebFountainに可視化ツールを組み合わせれば、業界のトレンドを図解したり、新しい競合企業群を特定したりすることも可能だ。過去5年の財務情報を分析し、経済が成長しているかどうかを判断することもできる。求人情報を分析して、雇用市場の新しいトレンドを正確にはじき出すことも不可能ではない。

　「現在のウェブは巨大な掲示板だ。この掲示板を眺め、その変化を観察していけば、“何がどうなっているのか”という問いにも答えることができる。WebFountainはテキストから予測可能な構造を読み出し、人間と同じように情報を分析し、分類し、理解する」と市場調査会社IDCのアナリストSue Feldmanはいう。

　しかし、WebFountainなどのプロジェクトが掲げる野心的な目標が、本当に実現するかどうかはまだわからないと指摘する者もいる。

　「IBMは20年の研究成果として、この大砲をぶちあげようとしている。これは巨大な大砲には違いないが、万能ではない」というのは、IBMのライバルMicrosoftと提携している検索企業Moreoverの社長Jim Pitkowだ。会社の評判やマーケティングの効果を分析するために、30万ものページを分析する必要はないとPitkowはいう。そこには関係のないページも数多く含まれているからだ。

　「雰囲気の分析は、そう簡単に自動化できるものではない」とPitkowはいう。

　しかし、すでに初期の試験運用では有望な結果が出ているとIBMは主張する。その例とされているのが、2002年に石油業界の大企業British Petroleum（BP）のために実施された市場調査だ。

　当時、ガソリンスタンドの客がガソリンの価格と洗車サービスに関心を持っていることはすでに分かっていた。しかし、WebFountainはシカゴ地域の小さなガソリンスタンドに警官の「立ち寄り所」ができたという情報を探し当て、ガソリンスタンドの客が「犯罪」も気にかけていることを発見した。現在、BPはガソリンスタンドの安全性を高めるために、警官にコーヒーやドーナツをふるまい、インターネット接続環境を無料で提供することで、スタンドに立ち寄る警官の数を増やそうとしている。

　この夏にはDow Jones & Reuters傘下の情報検索企業Factivaからも、WebFountainを採用したアプリケーションが発売される予定だ。Factivaは昨年9月にWebFountainのライセンスを取得し、企業の評判を判断するソフトウェアの開発に取り組んできた。

　企業スキャンダルが世間をにぎわせ、競争が激化している今日では、消費者にどう思われているのかを知りたいと考える企業が増えるのは当然だ。Gruhlによれば、WebFountainを試験的に導入したある企業は、「企業評判責任者」の職をもうけたという。

　「これまでのところ、問題は大量のデータマイニングをどうやって体系的に処理するか、重要な情報と些末な情報をどうやって区別するかだ」とReputation InstituteのエグゼクティブディレクターCharles Frombrunはいう。

　「この試みが成功すれば、紙ベースの古いデータと、ウェブ分析で得られた新しいデータを統合することによって、多くの新事実が明らかになるだろう」（Frombrun）