ドル安--本当に損か得か、よく考えてみよう

 ドルの下落が少しずつしかし着実に進んでいるが、米国のIT企業にはいまのところ、これを喜ぶだけの理由がある。

 2003年1月から12月の間にドルはユーロに対して20%下落した。このドル安の影響で、Amazonでは四半期ベースでの売上が急増し、おかげで同社は2003年に初めて黒字に転換できた。Microsoft、IBM、そしてCisco Systemsも、最近発表した決算のなかで、売上増の理由にドル安を挙げている。

 しかし、長期的な影響はどうだろうか。

 ちょっとワシントンに注目してみよう。ブッシュ大統領は2月2日(米国時間)に連邦政府の2005年度予算教書を発表した。それによると、来年度の財政赤字は、2004年の3750億ドルから大幅に増加し、過去最高の5210億ドルになると見られている。

 為替市場は誰もが知るとおり複雑だ。しかし、ドル安進行の原因として一番有力に思える理由は、米国の双子の赤字、つまり貿易と財政の赤字だろう。幸い、貿易赤字には自己補正の傾向がある。貿易赤字が膨らみすぎるとドルが下落し、その分米国から輸出品の魅力が増して、結果的に貿易赤字は縮小する。

 しかし、財政赤字のほうはそうはいかない。ブッシュ政権の浪費癖に米国議会の抑制の無さがあいまって、財政赤字はかつてないレベルにまで急増しており、しかもこれといった限度額も見えてきていない。こんな状態が続けば、IT株が悪影響を受ける可能性もある。

 「財政赤字が大きくなり過ぎると、海外投資家は、米国の安定性や(借金の返済に必要な)米国の今後の税率に不安を覚えるかもしれない。そのため、米国への投資の可能性が減少する。そして、投資のためのドルへの需要が減る」と、ジョージメイソン大学経済学部長のDon Boudreauxは述べている(Citibank元会長のWalter Wristonは、簡潔にこういっている:「お金は歓迎されるところに向かい、丁重な扱いをしてくれるところに留まる」)

 大手投資銀行のGoldman Sachs元会長で、クリントン政権の財務長官を務めたRobert Rubinも同じように感じていた。「ドル安になれば、それ相当の結果が伴う」と、Rubinは1996年のニューヨークタイムズ紙のインタビューで述べ、さらに自分がドル高維持政策をとるのは、ドル安になると投資家が米国の株式や債券、米国債を敬遠してしまうからだと付け加えた。「(結果が現れるまでに)時間はかかっただろうが、しかし必ずそうした事態になっていたはずだ」(Rubin)

 もしドル安が進むのであれば、急速かつ急激に進んだほうが、段階的に進むよりも望ましいという理由もそこにある。ドルの下落がゆっくり進めば、海外投資家には米国から資金を引きあげるための時間がそれだけ多く与えられることになり、彼らは価値が下がりつつある米国株や米国債の市場から、他の国の市場への資金移動を余裕を持って行える。これに対して、ドルが急速に下落すれば、「資産価値下落のリスクが一気に払拭され、海外のバイヤーにとっては米国の資産が再び安く魅力的なものになる」と、ユタ大学経済学部長のKorkut Erturkは昨年12月に発表した論文のなかで記している。

海外オペレーションにはマイナスの影響

 ドル安のマイナス面で、より明確なものがほかにもある。他の全条件を同じと仮定した場合、ドル安になれば、米国の企業や消費者が外国製品に支払う代金は高くなる。輸入品は米国の国内総生産の約12%を占め、また大量のコンピュータ部品が海外から輸入されている。

 影響を受けるのは外国企業だけではない。米国のIT企業は、事業の海外移転を進めてきたため、ドル安になれば、海外拠点での事業コストや海外の労働者の雇用コストが高くなる。Seagateはハードディスク製造部門の一部を海外に移転しているし、Advanced Micro Devicesは新しいマイクロプロセッサ工場をドイツのドレスデン近郊に建設中だ。またIntelも、中国の上海近郊にすでに製造拠点を持っているが、それに加えて成都にもマイクロプロセッサのテスト・組み立て工場を建設すると昨年8月に発表している。

 ドルの下落によって、米国企業が事業の海外移転から得られたはずのコスト削減効果も、次第に目減りしてしまうだろう。もちろん、それが短期的には米国内のIT企業従業員に役には立つかもしれない。だが、株主や消費者のためにはならない。株主にとっては得られる利益が減り、また消費者も支払わされる代金が高くなるからだ。

 「ドルの下落はアメリカのIT企業に直接的な打撃を与える。例えば、海外へのアウトソーシングのコストが増えたり、国外からの部品調達コストが上がるからだ」とジョージメイソン大学のBoudreauxは指摘する。「こうした影響を及ぼすのは、ドルの下落を起こすのと同じ要因--つまり、一般的にいえば、税率の上昇や財政赤字、貿易赤字などが引き金となって起こる投資環境の悪化だ」(Boudreaux)

 ドルが非常に弱くなると、連邦準備銀行は通常金利を上げ、米国への投資の魅力を増やそうとする。だが、これが特にIT業界にとっては悪いニュースとなる。既存企業以上に、若いIT企業では事業拡大のためにベンチャー資金と海外からの投資に依存する。それなりの規模の新興企業では、その創始者が資金を100%拠出している企業はそう多くはない。高金利条件の下では、企業家たちが貸付を得るためのコストは高くなる。また、投資家にとっては、普通預金や公債のほうが、株式市場よりも魅力的になる可能性もある。

 この金利上昇も実に好ましくない結果だが、インフレ傾向の急進、つまり常に政府支出増大を求めているワシントンの浪費家が生むもうひとつの結果のほうも、決して好ましくはない。たしかにインフレは避けられないものではないが、しかし歴史はそれが起こり得ることを物語っている。連邦準備銀行理事のBen Bernankeも、昨年11月のスピーチでこれを事実上認め、「米国政府には印刷機というテクノロジーがあり(今日では電子式だが)、実質的にコストなしで望むだけの米ドルを作ることができる」と語っている。

 これらはすべて、まだ回避することができる。もし議会が財政面で規律をただし、予算案の金額を削り、国の借金を増やさないようにすればの話だが。しかし、選挙の年であることを考えると、私は多くを望みすぎかもしれない。

筆者略歴
Declan McCullagh
テクノロジーと政治を専門とするCNET News.com記者。ワシントン在住。Wired Newsワシントン支局元チーフで、これまでにThe Netly News、Time magazine、HotWiredの記事も執筆。

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