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ストックオプション絶滅の危機

2003/07/28 10:00
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 Microsoftは先日、シリコンバレーでは考えられないことをやってのけた。ストックオプション制度を打ち切ったのである。

 将来の成功に賭ける傾向が強いIT業界では、ストックオプション制度が幅広く導入されてきた。それは従業員を一夜にして億万長者に変えるはずだった。しかし現実は、多くの従業員の手元に価値のない数千株のストックオプションと、やる気を削ぐような苦い失望の念だけが残された。

 「今後の見通しが鍵だ」と、米電気電子技術者協会の職業・労働者政策委員会の元会長Michael Garretsonは言う。ITブームの頃、多くの従業員は安全な株式譲渡よりもハイリスクなストックオプションを選択したものだったが、その結果ほとんどが苦い経験をしたというのである。「今、IT業界で働く者の大半が、価値のないオプションを大量に抱えている」(Garretson)

 業界では今、従業員にどう報酬を与えるべきか、新しい方法を模索中だ。しかし、各社が一斉にMicrosoftに追随することになるかどうかはわからない。その答えを左右する要因は様々だ。

 ストックオプションを廃止するにしても、株式ベースで報酬を与える場合、ストックオプション制度を株式譲渡制度に移行させるのは難しい。株式譲与の際の株価と株式の数を、これまでのオプション制度にどう当てはめればいいのかという問題があるからだ。

 「今回のMicrosoftの決断で、トレンドが変わる可能性がある。Microsoftのすることは全て他社のお手本とされるからだ」と求職サイトSalary.comの従業員報酬担当シニアバイスプレジデント、Bill Colemanは言う。「しかし、どの企業もが真似できることではない」(Coleman)

 Intel、Oracle、Sun Microsystemsなど他の大手企業は、ストックオプション制度を廃止する計画はないと言う。この制度は、従業員が自分たちの成功を分かち合う手段だからだ。

 Sunの広報担当者May Goh Petryによると、ストックオプションを通じて従業員が会社の所有権を持つことは、同社の長期的な報酬制度の中核的要素で、さらに広い意味では、革新的かつ起業家的な技術部門における重要な原動力になっているという。Sunは、一般従業員の株式保有に重点をおいており、オプションの87%は上級経営者層以外の一般従業員に配分されている。

 とはいえ表面的には、オプション制度から株式の直接譲渡への移行は理にかなっている。オプションが報酬制度としてうまくいくためには、株価が安定的に上昇しなくては意味がないのだが、ここ数年の株価ではそれが望めなかった。そこでMicrosoftは、ただの紙切れと化す可能性のあるオプションの配布を続けるよりも、現在の市場価格に応じた株式を従業員に譲渡する決断をしたのである。

 「株式譲渡なら少なくとも何かは残る」とMicrosoftに入社したばかりのある従業員は匿名でコメントする。

 ストックオプションと違い、株式の直接譲渡の場合、企業が倒産でもしない限りいくらかの価値が手元に残る。落とし穴は、オプションに比べて少額の利益しか手に入らない場合が多いことだ。

 ストックオプションの場合従業員は、事前に決められた「行使価格」で株式を購入する権利が与えられる。公開市場での株価が行使価格より高くなれば、株を行使価格で購入し高値で売却できる。しかし株価が下がった場合、株を購入しない限り損はしないが、利益もゼロとなる。

 株価上昇を想定すると、株式よりもオプションの譲渡を受けるほうが儲かることがある。

 例えば、ある従業員が行使価格10ドルで購入できるオプションを100株持っていると仮定しよう。もし公開市場での株価が25ドルまで上がった場合、その従業員は100株を行使価格10ドル、つまり総額1000ドルで購入し、すぐに市場価格である25ドル、総額2,500ドルで売却、結果として税込み1500ドルの利益を上げることができる。

 しかし、利益が生じるのは株価が上昇した場合のみだ。先ほど例に出したオプションがドットコムブーム最盛期に譲渡され、ブームが去って公開市場株価が1ドルまたはそれ以下となれば、そのオプション株の価値はゼロ、またはマイナスとなる。株式購入に必要な行使価格10ドルよりはるかに低い価値しかないからだ。

ストックオプションの利点

 しかし中には、バブル後の株価低迷期こそ、ストックオプション制度を継続すべきだという楽観論者もいる。

 そのひとり、Oracleの最高経営責任者(CEO)Larry Ellisonによると、バブル時からのOracleの株価下げ幅はMicrosoftよりも大きいため、同社がMicrosoftと同じ選択をすることはないという。それはOracle株のほうが利益をあげる可能性が高いからだ。Microsoftの大幅な株価上昇は続かないとEllisonは考えており、現在の価格で株を購入できるオプションはMicrosoft従業員にとって価値が少なく、新規雇用を促進する効果も期待できない。

 「Microsoftに有効であっても、我々には有効ではない。しかし、賢明なやり方ではある」とEllisonは評価する。

 先日Microsoftでは、社内文書でストックオプション制度と株式譲渡の違いについて従業員に説明している。CNET News.comがその文書を確認したところ、そこには通常1320株のオプションを受け取る従業員の場合、その人物が受け取る株式は325株となると書かれていた。報酬制度の専門家によれば、これは業界で一般的とされる「オプション3〜4株当たり通常株1株」という換算値と一致する。

 Microsoftの新人社員曰く、5年後にも株価が現在と同じ27ドルであれば、325株で8775ドルの利益が受け取れる。株価が倍になればその倍額の1万7550ドルが手に入ることになる。

 それに比べ、行使価格27ドルのストックオプションを1320株持っている場合、市場での株価が変わらなければ利益はゼロである。しかし市場での株価が倍になれば、少量の株式を直接譲渡された場合と比べ、ストックオプションの価値は2万6865ドル多くなる。

 しかしMicrosoft社員の多くは、今回の同社の決断に満足している。ここ数年の株価の激しい浮き沈みを経験した従業員に、表面的ではあるが安心感を与えることになるからだ。

 「Microsoftはハイリスク・ハイリターンの職場ではないが、長期的に安定して働ける良い会社だ」と、同社の次世代OSマーケティングを担当する従業員は語る。過去に彼は、株式公開が実現せず、ストックオプションの行使が見送られた他社の例を3つも見てきた。

 新しい制度で追加収入が保証されることはありがたいが、オプション制度の一攫千金的要素がなくなることを残念に思う従業員もいる。オプション制度にひかれてIT業界に入ってきた人たちだ。マイナス価値のオプションを持っているMicrosoftのあるプログラムマネージャーは言う。「賛成はするが、悲しいことだ」

 彼が言うにはこうだ。Microsoftはかつて大もうけを夢見ることができる型破りなテクノロジーワンダーランドだった。それが今やライバルのIBM同様、終身雇用とまではいかなくとも、10年以上は腰を落ち着かすことのできるやぼな会社へ変身してしまったと。

 「Microsoftは変わった。皆がそう思っていたのを公認したようなものだ」と、5年間務めた同社従業員は語る。

オプション制度を採点する

 しかし、Salary.comのColemanは、Microsoftの決断は決してやぼではないと評価する。Colemanによると、ほかの古い企業であれば株式の譲渡範囲について保守的になり、新しい制度を幹部にのみ適用し、残りの従業員は対象外とする可能性が高いとのことだ。Microsoftが株式による奨励金を全社的に与え続けようとしているのは、同社が新しいことを試すのに積極的であるということだ、とColemanは付け加えた。

 しかし、どんな企業でも同様の実験ができる訳ではない。Intelの広報担当であるBill Calderは、株式を直接譲渡する余裕のない比較的小規模な企業にとって、ストックオプションは重要な報酬ツールであり続けると言う。

 「創業したての小さな企業にとって、オプションは絶対に必要だ」というCalderは、ほかのオプション擁護者と同じ意見で、ストックオプションは優秀な社員を集めるために必要だという。そしてIntelは全オプションの97%を一般従業員に与えているのだと付け加えた。

 Calderたちが恐れているのは、WorldComのケースに代表される最近の企業幹部がらみのスキャンダルの原因がストックオプションにあると一般的に見られてしまうことだ。問題はむしろ企業幹部に対する過剰報酬や世間一般の強欲さにあるとCalderは言う。

 「ストックオプションを経費計上することで本当にこの問題が解決されるのか、問い直す必要がある」とCalderは言う。Microsoftは計画発表の際に、残りのストックオプションを経費として計上することを発表した。それは多くの企業が、売上に対して不公平かつ不正確な影響を与える方法だとして反論した会計手法だ。

 Amazon.comもストックオプションを経費計上し、株式譲与という売上に織り込む必要のある方法を始めると決めた。広報担当のBill Curryによると、7700人ほどの従業員のうち、その大半が昨年秋に導入されたこのプログラムに登録済みで、2002年だけで300万株が従業員のものになったという。

 Curryは、このプログラムは従業員を企業の所有者として扱い、社外株主の利益と従業員の利益をできるだけ近づけることを目的としていると語る。

 非利益団体Beyster Institute for Entrepreneurial Employee OwnershipのディレクターであるMartin Staubusは、各社が徐々に奨励金のバイキングと化し、オプションや株式譲渡、現金、最新の退職プランなど、色々な施策を提供するようになるだろうと言う。ひとつのトレンドを追って皆がストックオプションを取り入れた1990年代とは違うというのだ。

 「次の大ブームが起きるとは思わない」と、従業員株主の増加を奨励する立場であるStaubusは言う。「各社は様々なメニューから選択肢を検討することになるだろうね」

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