ブラウザ誕生から10年――ネットの現在・過去・未来

Paul Festa、CNET Japan編集部2003年04月28日 10時00分

 1993年4月22日、米国の研究機関National Center for Supercomputing Applications(NCSA)のサイトでウェブブラウザMosaicがリリースされてから、今年がちょうど10年にあたる。これにちなんで米CNETでは、「Mother of invention」と題して、計4回にわたるスペシャルレポートの特集を組んだ。今回お届けするのは、この特集の第3部にあたる部分である。

 第1部の「Legacy: A brave new World Wide Web」では、インターネットの加速度的な普及のきっかけをつくり、また主たる原動力ともなったアプリケーションであるWebブラウザが与えた計り知れない影響について、さまざまな角度から検討を加えている。このなかで目を惹くのは、次にデータである。

  • 全世界で約5億3300万人がネットを利用しており(Jupiter Researchによる調査)、米国内でも成人のおよそ3分の2にあたる1億3700万人がネットユーザー(Harris Pollの推定)
  • 全米の家庭の少なくとも4分の3で電子メールを利用、またネット利用者の40%以上がインスタントメッセージング(IM)プログラムを使っている(Nielsen/NetRatingの推定)
  • 2002年のクリスマス商戦の間に、消費者がオンラインショッピングに費やした金額は約137億ドルで、前年対比24%の伸びをみせた(Goldman Sachs Groupその他の報告)
  • ネットバブル崩壊から3年が経過した今年、IT関連への投資額は2兆ドルを上回ると予想され、前年度と比べて5%近く上昇(Gartner Groupの報告)

 Mosaicがはじめて登場した頃の、全世界のネットユーザー数が、多くとも1000万から2000万の間と言われていたことを記憶している人間にとっては、文字通り隔世の感がある。

 これほどの急激な発展をみせたネットだが、「社会全般に対しての影響の真価がわかるのは、むしろこれからだ」と、Mosaicの生みの親であり、またNetscapeの成功によって時代の寵児となったMarc Andreessenが語っている点も興味深い。つまり、ネットが当たり前という環境で生まれ育った世代が成人した時になって初めて、その真価がわかるというのが彼の考えだ。いまでもすでに「Generation ICQ」と称される世代が台頭しつつあると文中の別の箇所で触れられているが、テクノロジーの発展の可能性を考えると、それでもこの大きな変革はまだ始まったばかりということであろうか。

 第2部の「Victor: Software empire pays high price」は、あまりに良く知られた、しかしすでにその記憶すら人々の記憶から薄れつつある「ブラウザ戦争」について、Netscape対Microsoftの一騎打ちの過程を振り返り、またその結果が及ぼしたソフトウェア業界への影響に言及している。Internet Explorerの圧勝に終わったこの対決の過程で、Microsoftの用いた戦術・手段はあまりに強圧的であり、それが後に独禁法違反で訴訟を起こされる要因となった。この裁判の費用だけで1億ドル、またIE開発自体にも毎年1億ドル以上の資金を投入したMicrosoftにとっては、勝利の代償は非常に大きかったというのが、レポートの題名の示唆するところだろう。だが、全体を通読して受ける印象は、一般ユーザーも含めてMicrosoft以外の人たちが支払わされた代償のほうが、むしろ大きいのではないかというものだ。

 ソフトウェア業界の従来の枠組みのなかで、何か新しい企てを始めようとする時には、どうしてもこのシアトルの巨人を意識せねばならず、またその影に怯える場合も少なくない。そして何よりも、IEの勝利がほぼ確定した頃から、MicrosoftがIEの開発を実質的に止めてしまったために、ブラウザベースのイノベーションが停滞してしまった。こうした捉え方に対して、当然Microsoft側には反論を述べる人間もいる。「IEがWindows OSと別ちがたく結びつき、それがひとつの標準となったことで、サードパーティーの開発者にもメリットが生まれ、またユーザーの得る経験も豊かなものになった」と。だが、Marc Andreessenの語る次の言葉は、その後の展開を考え合わせた時、決して否定しようのない事実と言えるのではないか。「NetscapeがAOLに買収された時点で、ブラウザ上でのイノベーションを生み出そうとする商業的なインセンティブはほとんどなくなっていた」

 第3部「Upstarts: Evolution creates second wave」は、今回の翻訳記事にあるように、「ブラウザ戦争パート2」とも呼べる内容。PCという自社製OSが支配する独占市場で、ブラウザ戦争に勝利したMicrosoft。だが、その後技術革新の焦点が、携帯電話/携帯端末等の新たな分野に移ったため、さすがのソフトウェア業界の巨人も勝手がわからず、はかばかしい進展をみせていない。しかも、Netscapeの場合とは違い、今回は数多くの小規模な競合が割拠する一種のゲリラ戦であり、なかでも大きな勢力を占めているのが、Mozillaをはじめとするオープンソース勢。この「見えない敵」を相手にした戦いが、Microsoftに楽観を許さない状況を生み出している。

 第4部「Future: Is there life after browser? 」では、現在進行中の「ブラウザ後」のコミュニケーションツールのイノベーションを取り上げている。ソフトウェア業界の戦いが、IMプログラム、オーディオ&ビデオプレーヤー、ニュース&ブログリーダーなど多方面での「局地戦」に移ったいま、万能のスイスアーミーナイフにも例えられるウェブブラウザも、却ってその万能ぶりがあだとなり、小回りが効かないところが災いして、技術の流れから取り残されるのではないか。あるいは、元々静的なドキュメント閲覧を意図して設計されたものが、Webアプリケーションのようにダイナミックな情報の取り扱いを要するものに対して、はたしてうまく適合できるのか。こうした疑問を投げかけ、またそれをヒントに新たなイノベーションを志向・模索する数多の挑戦者たちのコメントが掲載されているが、そんな彼らも多かれ少なかれMicrosoftと関係を持たざるを得ず、何らかのかたちで折り合いをつけなければならないだろう。Netscapeの残した教訓を胸に刻んだこの挑戦者たちが、これからいったいどんなイノベーションを生み出し、ひいてはそれが社会全般にどんな影響を及ぼすのか。結びの言葉として引用されたMarc Andreessenのコメントからは、ある種の希望すら抱かせる、意味深い響きが感じ取れる。

「高速道路も鉄道も、ゲージ幅のようなハードウェアとしての限界がある。100年経ってもその点は変わらない。けれど、ソフトウェアの場合は(インターネットという)独自のキャリアの上を進むものだから、可能性はノーリミットなんだ」

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