買手市場に移行するIT業界 - (page 3)

Larry Dignan, Dawn Kawamoto and Margaret Kane2003年03月10日 10時11分

DAY1 マーケットの主役は顧客
DAY2 現在の注目商品
DAY3 キャッシュがモノを言う時代
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 ITメーカーの夢が1つ実現した。米ウィスコンシン州に拠点を置くトラック輸送会社、Schneider Nationalが今年のIT関連予算を25%増やし、新しいハードウェアとCRMソフトウェアの購入を計画しているのである。2001年とほぼ同レベルの支出とはいえ、景気停滞が続く中で多かれ少なかれ投資が増えるということはそれだけでとても重要だ。

 Schneider Nationalの年間収益は24億ドル。同社の最高情報責任者(CIO)Steven Matheysは「景気回復の見込みはあっても予算は厳しい。しかし今年は少し楽観できる年になる」と言う。

 永遠に続くのではないかと思われた不況の中、Schneider Nationalのような会社の出現は米国企業の積極的なIT投資再開を予感させるかのようだ。とはいえITブーム再来には程遠く、保守的な時勢において企業が興味を示す商品といえば、コスト削減に貢献するものかすぐに成長に結びつく商品、つまり最も確実な投資効果が見込めるものに限られている。

 ドットコムブームの頃に流行ったテクノロジー用語も今ではNAS(ネットワークストレージ)やアプリケーションサーバといった平凡な技術に取って代わられてしまった。NASはコスト削減やシステムのフレキシビリティ向上を実現し、アプリケーションサーバは開発を容易にし複雑さを解消するものだ。特に企業の関心が高いのはアプリケーション統合に関連する商品で、過去に勢いにのって購入した様々なテクノロジーを統合することができるものだ。

 ITサービス会社Concours Groupの最高技術責任者(CTO)Jay Williamsは「2002年は全く予算を取れかったが2003年は違う。昨年は支出を先延ばしにしてきた企業も今年はインフラ維持のために多少の投資を行うだろう」と言う。

 しかし相応の効果が見込める商品であっても、対イラク戦争の脅威、企業の不祥事事件や株式市場の大荒れなどによる経済変動の影響を受けるのは同じだ。Forrester Researchは、IT関連支出を押し上げるには国民総生産(GDP)が4.5%上昇する必要があると試算しているが、2003年には期待できない数字だ。

 テクノロジーはもはや贅沢なオプション品ではない。1980年には企業投資全体の20%に過ぎなかったIT関連投資も、今では3分の1を超えるまでに増加した(Economy.com調査)。これはIT関連投資もいずれ他の周期的な経済変動を反映するものになることを意味し、またそのため、IT関連予算の額が米国産業全体の動向を示すバロメーターとして使われるようになっている。

 CNET News.comが行ったCIOとCTOを対象とするインタビューから、この先1年間に最も注目されるものとして次のようなものが浮かび上がった。

アプリケーション統合製品

 IT責任者は、革命的といわれた割には期待はずれだったソフトウェアを数多く抱え込んでいる。さらに最高の組合せといわれたこれらのアプリケーションは、連携させることが出来ない。

 Webmethods、Vitria、SeeBeyondといったアプリケーション統合ソフトウェアメーカーが最近目立った動きをしている。アプリケーションの数を減らし、残されたテクノロジーを連携させるのが彼らの目的だ。

 また、統合を支援するWebサービスへの期待も集まっているが、この技術を取り囲む誇大広告に騙されぬよう顧客企業の態度は慎重だ。また、IT責任者は社内でのアプリケーション統合だけではなく、社外のパートナーやベンダー、また顧客との連携をも視野に入れたものを求めている。

 アプリケーション統合への関心の高まりはソフトウェア業界全体の動向にも変化をもたらしている。アプリケーション数削減とシステム統合を進めるまでは、企業は高額なCRMやERPの導入を控える傾向があるからだ。

 大企業であるKrispy KremeとSteelcaseの2社はそれぞれCRMとERPの導入を計画中だが、両社の最終目的もアプリケーション数の削減と1960年代に導入された古いシステムの整理だ。

 Krispy KremeのCIOであるFrank Hoodによると、ERPシステムは多角化したビジネスの経営に役立つと見込んでいるという。同社はフランチャイズ店に販売するためのドーナツ製造機からドーナツ生地までの全てを生産しているため、業域が拡大し続けている。そこで「よりパワフルなシステムが必要」(Hood)なのだ。

Linux製品

 個々のソフトウェアを有効活用するため、オープンスタンダードを求める企業が増えている。オープンであることが開発を容易にし、各メーカー技術間のインターオペラビリティを向上させるからだ。

 「WS-I(Web Services Interoperability Organization)に参画していないインフラ業者と仕事をする気は全くない」とMerrill LynchのCTO、John McKinleyは言う。WS-IはMicrosoftとIBMが先頭に立つWebサービス普及団体で、競合する個々のWebサービスソフトウェア間の相互接続を目的とするものである。「我々は各社が標準化を進めるよう、今まで以上に強く要求するつもりだ」(McKinley)

 Linuxプロジェクトに注がれる資金は増えているが、IT責任者は未だオープンソースOSに予算をあてたがらない傾向がある。Linuxは最も有名なオープンソースOSで、MicrosoftやSun Microsystemsなどのデスクトップ用OSやサーバ用OSにとってかわる安価な商品として人気を集めてきた。

 しかし、オープンソースOSの安全性や、それがプロプライエタリOSに対してどういった優位性があるのか疑問視している企業もいるのだ。またシステムの変更に高額を投じるほどの価値はないと考える企業も多い。さらには、無償で提供されるLinuxにとって最も深刻な問題は値段ではなく、改訂するごとに発生するサポート体制に対する懸念である。

 「Linuxのキーワードは実験だ」と言うCicala & AssociatesのPat Cicalaは、Linuxは完成せずに変わり続けるOSで、それがLinuxの導入を躊躇させる唯一の理由だと言う。

 ほとんどのIT責任者は電子メールやウェブサイトの提供といった簡単な用途にLinuxを採用している。最近のGoldman Sachsの調査でもLinuxは企業の中に確実に浸透し始めているが、知名度のわりには普及のスピードが遅いとコメントされている。

ストレージ製品

 予算が限られている時こそ、ストレージは理想の商品といえる。低価格化とハードウェア在庫が多いため、企業は格安な値段でストレージを手に入れることができるからだ。

 その結果、NAS関連の新プロジェクトの数が増えている。NAS装置は企業のネットワークに必要に応じてアクセスできるようにし、電子メールやウェブシステムのデータの滞りを解消するものだ。

 Krispy Kremeや広告業界の巨人Ogilvy & Matherでもストレージに関連する新しいプロジェクトが進行中である。特にOgilvy & Matherでは解像度の高い画像を含む文書のやり取りを世界中で常に行っており、「ストレージのニーズは毎年2倍3倍と拡大している」のだと同社CIOのAtefeh Riaziは言う。

 メーカー間の価格競争は厳しいが、ストレージは今後もさらなる需要拡大が見込まれる市場で、景気が回復さえすれば加速的に需要が伸びる可能性がある。

VoIP(Voice-over-IP)製品

 IPネットワークを使って音声のやりとりをするVoIPは数年前に注目されたキラーアプリで、長距離電話の低料金化を実現し、高価格な割に信頼性の薄かったビジネス電話システムに取って代わると大々的に騒がれた。しかし、標準化の遅れや信号の質が悪かったことなどが普及を遅らせる原因となった。

 しかし、コスト重視の機運が高まる中、VoIPの時代はこれからやってくるかもしれない。IT責任者はNews.comのインタビューに対し、VoIPによる電話料金削減には魅力を感じると答えており、CIOもVoIP業者が海外展開を進めれば2003年中にVoIPへの投資が拡大するだろうと回答している。

 急成長中のワイヤレス電話業者Wireless Retailも、新設したコールセンターではIP電話サービスを新しく導入する予定だと同社CIOのChris McMahanは述べている。

 Ogilvy & Matherでもアジアと欧州の15から20箇所の拠点にてVoIPシステムの利用を開始する予定である。電話料金が比較的安い米国ではVoIP技術の需要はあまり高くないが、少しずつ状況は変わりつつある。

ワイヤレス製品

 VoIPと同様に最近注目を集めているのはワイヤレスだ。Wi-Fiという名で知られる標準規格が注目されており、回線料とケーブル代の削減に効果を発揮するものとして認められつつある。

 General MotorsのCTOを務めるTony Scottによれば、GMの生産工場でも長年ワイヤレステクノロジーを使用してきたが、コスト削減のためにWi-Fiに切り替えようとしているところだという。「工場では従来のワイヤレス技術を採用していたが、Wi-Fiへの移行により市場に流通する商品や業界標準をずいぶん安く使えるようになる」(Scott)

 ところでScottと同様他の多くのCIOもWi-Fiのオフィス導入は考えていない。しかし、Steelcaseの例を見れば他社のIT責任者も興味を持つかもしれない。今後より多くのハードウェアがWi-Fiを基準に作られるようになれば、さらにWi-Fi導入が加速される可能性もある。

 Steelcaseはワイヤレスへの投資を毎年増やしており、ミシガン州の本社にもWi-Fi技術を導入済だ。同社はチーム単位で働くメンバーや移動の多い従業員にもWi-Fiを使わせている。

 同社が挙げるWi-Fi投資効果は、ケーブルコストの削減、ワイヤレス化による柔軟性アップ、そしてワイヤレスを利用する労働者の働き方を知ることでより良いオフィス家具の設計に繋がる、という3つの点だ。「最初はちょっと試してみようという軽い気持ちで始めたが、十分利用価値があるということがわかったので本格的に導入した」とSteelcaseのCIO、John Deanは言う。

 Wi-Fiネットワークの効果を見守りつつもまだ採用には踏み切れないと考えているIT責任者は多い。他の項目の優先度も高くWi-Fiに手をつけることができるのは2003年後半から2004年になるのではないかとみられている。

セキュリティ製品

 CIOの注目商品リストには載っていないが注目すべきテクノロジー、それはセキュリティだ。セキュリティは欲しい人が入手するという性質のものではなく、むしろ何よりも先に用意すべき必須要件と考えられるからだ。

 Schneider NationalのMatheysも、セキュリティがあって始めて他のことができる、自衛コストは必要経費だと語る。

 多くの企業にとっての課題は、これら製品にいくら投資できるのかということだ。業績が良くてもIT投資の必要性を役員に納得させるには心理学の勉強が必要だと冗談をいう業界人もいる。

 「2003年も控えめな年だが、直感的には各社の予測よりもいい数字を期待できると考えている」とOgilvy & MatherのCIO、Raiziは言う。「顧客は合理的でない行動をするものなので、どうなるか分からないがね」

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