半導体市場での生き残り政策を探る

Michael Kanellos (Staff Writer, CNET News.com)2003年02月04日 20時12分

半導体製造コストの高騰が業界に与えた変化とは?

世界の半導体メーカーにおける収益

 経営幹部やアナリストらの意見はこうだ。半導体製造施設、いわゆるファブ建設におけるコストの高騰は、次世代チップの設計にかかる技術的なハードルと相まって半導体産業の相貌を変えるような分岐点を生み出そうとしている、と。

 業界の一方には、米Intelなどの「選良企業」がある。このような企業なら、建設費用として2003年には推定25億〜30億ドル、2007年には推定60億ドルとなる自社のファブ工場を維持しながら、トランジスタの設計や新しいチップ素材に関する基礎研究を進めることもできるだろう。新しいファブでは、現行主流となっている直径200ミリの各タイプより、大型で複雑な直径300ミリのウエハを製造するだろう。

 もう一方には、他のすべての企業がひしめいている。これらの企業はファブを共有し、研究成果を溜め込み、技術を買うか外部ファウンドリにより大きく依存して助けを求めるかといった選択しかない。

 「IntelやTexas Instruments (TI)、NECといった大手より小規模な半導体企業にとって、自社で300ミリ用のファブをまかなうのはほぼ不可能になりつつある」と、米National Semiconductorの最高経営者、Brian Hallaは語る。「今後はさらに提携が相次ぐだろう。」

 これまで、企業は収益の20〜30%を設備投資にあててきた。つまり、ファブにかかかるコストが年間収益の約3分の1以下であれば適切とされる。2002年には、Intel(年間売上230億ドル)と 韓国Samusung(同90億ドル)だけが、新しいファブの建設に踏み切ることができた。

 昨今の厳しい経済状況にあって、Intelさえも2003年に予測される設備投資の規模を抑制し、半導体業界以外にも大きく影響をもたらした。ウォール街はIntelを先行指標として捉えているため、同社が資本見通しを発表してから株価は下落した。Intelが先週公表した四半期報告でアナリストらの収益予測を上回る数値を発表していたにもかかわらず、である。

 他の大手メーカーは、自社チップの製造に外部の援助を必要とするだろう。米TIや独メモリメーカーのInfineonは、製造工程の一部を上海のSemiconductor Manufacturing Internationalに外注する、と述べている。米Motorola、世界第三位のチップメーカーであるスイスのST Microelectronics、オランダPhilips、台湾Taiwan Semiconductor Manufacturing Co.(TSMC)は、さまざまな事業のなかでも、300ミリ用工場の建設方法、新タイプのメモリの設計、90ナノメートルチップの製造技術などにおいて、協力体制を敷いている。

世界の半導体機器メーカーにおける収益

 「こうした技術のロードマップを軌道に乗せて目標を達成するには大きなパワーが必要だ」と、Motorolaの半導体部門バイスプレジデントであり技術製造戦略担当責任者のAlex Pepeは言う。同部門は、コスト削減のために提携関係を増やしている。

 テキサス州オースチンに本拠を構えるMotorolaの半導体部門は、多くの意味でこの業界の傾向を象徴するような存在だ。1998年、同社はチップのテストと集積のために25のファブを操業し、15カ所の敷地を使用していた。だが今年の終わりには、8つのファブと2カ所のテストセンターが残るのみとなる。今後はいかなる工場も他社と共同で建設されるであろうし、現在約20%を占めている製造工程の外注も増えていくと予想されている。

 共同の研究開発も一般的になっていくだろう、とPepeは言う。Motorolaは財務上の利益を確保するため、自社技術をベンチャー企業や大企業、装置メーカーにもライセンス供与していくとのことだ。

 この状況下において自給自足体制を構えるIntelは、競争相手より価格を下げたり新しい市場に参入するチャンスが大きくなったといえる。また、TSMCをはじめとするアジアのファウンドリは力を強め、IBMは半導体企業にとって事実上の研究開発部門として位置づけられるようになるかもしれない。その他の半導体メーカーは消え去っていく可能性もあるのだ。

 「業界内では何らかの合併が行われるだろう」と、米AMDのCEO、Hector Ruizは語る。同社はIBMから製造技術を供与されており、次の工場をおそらく別の企業と共有する見通しだ。「Intel以外にどこが独自でやっていけるというのか。提携なしでは無理だろう」

高騰するファブ建設費用

 過酷な現状は、投資家Arthur Rockにちなんで名付けられたロックの法則の副産物としてもたらされた部分もある。ロックの法則とは、半導体ファブの建設費用は4年ごとに倍増するというものだ。米VLSI Researchの最高経営責任者Dan Hutchesonによると、この法則は半導体装置産業の推移をよく表している。

 Hutchesonいわく、1985年には直径5インチのウエハを製造するファブの建設に約1億ドルのコストがかかり、チップに埋め込まれる部品の平均サイズは1ミクロン、つまり1000ナノメートルだった。現在は、30億ドルの巨大ファブが、直径300ミリ、つまり12インチのウエハを製造し、そこに平均約90ナノメートルの部品が埋め込まれる。(1ナノメートルは1メートルの10億分の1)

 Hutchesonは、こうした新しいファブは、過去に建設されていた工場全体よりも費用がかかりかねないと言う。「コストはますますとんでもない額になってきており、基本的な構造変革を推し進めている」

 30億ドルというコストの多くは、各種装置によるものだ。IC回路をパターン転写するための機械には一台につき1700億ドル以上もする。重量は40,000ポンド以上で、こうした装置を設置するだけで何カ月もかかる。

Intel以外にどこが独自でやっていけるというのか。提携なしでは無理だろう

 その成果は、効率性の大幅な向上という形で表れる。新しく高価なファブは、はるかに大量のチップを低コストで製造する。半導体業界は、約2700のファブが稼動していた1985年当時、およそ220億ドルの収益をあげていた。2002年には、業界全体の収益は600のファブによって1390億ドルに達している。

 だが、生産性の向上には危険性も含まれている。ある企業が30億ドルの巨大ファブを建設する場合、その企業は自社が大量生産する安くて小型のチップをすべてひきとってもらえるよう、顧客を探さなければならない。さもなくば、操業コストで赤字に追いやられてしまう。

 米iSuppliによる最近の調査によると、IntelとSamsungを除き、世界中の半導体製造業者の二社に一社は収益が60億ドル以下で、チップ製造に外部の援助を求めるようになりかねないという。多くの業者は、前回の好況時に取得した工場や土地を売り払う努力をいまだ続けている。

 「業界が直面しているのは、膨大な資本コストと収益要求、そしてプロセス技術におけるごく基本的な変化だ」と、米IBM 半導体部門の戦略ディレクター、Sumit Sadanaは指摘する。「控えめに見ても、多くの企業の財務状態は健全とは言いがたい」

ファブ対ファウンドリ

 ならばなぜ工場を持つのか。それは自社の運命をコントロールするためだ。製品を進展させたり遅らせたり微調整するのも自由だし、製造過程を常に監視することもできる。

 「自社の生産能力を自分で決められるし、待つ必要がない。マージンを払う必要もないし、絶対に最低価格で製造できる」と、Intelの社長Paul Otelliniは言う。

 カリフォルニア州サンタクララに本拠を置く同社は、今年90ナノメートルプロセスでのチップ製造を始める予定で、これが始まれば工場を持っていても収益があがるだろうと信じている。同90ナノメートル工場は、マイクロプロセッサ、通信機器用チップ、次いでフラッシュメモリやその他の製品をも製造できるからだ。またIntelは、通信機能をプロセッサに統合しようとしている。つまりどのようなチップであれ、同社が望むように組み込むことができるのだ。

 同時に、同じ製造ラインをさまざまなチップに使うことによって、同社は稼動していない余剰なキャパシティを排除でき、コストを削減できる。

控えめに見ても、多くの企業の財務状態は健全とは言いがたい

 逆に、ファウンドリに製造を委託した業者は、台湾までの往復運送費がかかるのに加え、ファウンドリへの支払いも発生する。しかもファウンドリは時として、新しい技術や製造工程を導入するのが自社製造施設を持つ業者より難しい、とHutchensonらは述べている。TSMCが180ナノメートル用製造プロセスから130ナノメートルプロセスへと変えた時も困難を伴い、米Transmetaやその他の業者に遅れを取った。

 半導体設計業者も、ファウンドリに依存しすぎることで競争力を失いかねない。「0.13ミクロンプロセスを(ファウンドリから)引き継いでうまくやった業者を私はまだ見たことがない」と、米Cavium Networksの最高経営責任者、Syed Aliは述べている。同社は、チップにおけるセキュリティ機能を担うプロセッサの設計をしている。半導体ベンチャーの多くは「トランジスタを顕微鏡で見たこともない」技術者だらけだ、と彼は言う。

 CaviumはTSMCに製造を外注しているが、回路設計に力を入れている。同社はまた、古い時代を知る人々も採用している。Caviumの社員には、過去DECの半導体部門で働いていた者が多いとAliは言う。

 とはいえ、ファウンドリは技術を洗練させ、重要性を増している。ファウンドリ全体の年間成長率は31%、2010年までにおそらく世界の半導体生産高の40〜50%を締めるようになるだろう、とTSMCのワールドワイドマーケティング担当ディレクター、Chuck Byersは語る。Byersによると、TSMCはIntelとほぼ同じ時期に90ナノメートルチップの製造を始めるが、両社ともチップ縮小の難しさから逃れることができないだろう、という。

 ファブとファウンドリ間の格差が縮まっている理由の一部として、半導体装置メーカーが単に基本的な装置を売るだけでなく、製造ラインの速度を上げるより完全に近いソリューションを提供するようになってきたことが挙げられる。

 「もう誰も(単なる)ハードウェアは買わない。その代わり、複雑な処方箋を手に入れて、自分の望むように装置を微妙に調整するんだ」と、AMDのRuizは言う。「マシンガンみたいなものだ。今や、装置はとてもパワフルでね」

研究に推し進められて

 たとえ製造において同等な力を持ったとしても、チップ設計の変化が激しいこともあり、弱小企業は問題に直面するだろう。30年以上もの間、設計技術者らはチップを縮小しながら、同時に自社製品に搭載するトランジスタの数を倍増させることで、自社チップの能力を向上させてきた。いわゆるムーアの法則である。チップに載せられるトランジスタの数は2年ごとに倍増する、という例の法則だ。

 だが、トランジスタの縮小も頭打ちとなり、ムーアの法則のペースで成果を上げ続けるためには、設計者はストレインド・シリコン、SOI(シリコン・オン・インシュレータ)、ダブル/トリプル・ゲート・トランジスタなどの創造的な解決法を見出さなければならない状態に追い込まれている。

 「ファウンドリは今、不安定な時代に入っている。どの企業も資産状況は身軽になっていく一方で、IntelやIBMから引き離されないために、プロセス技術の大がかりな研究開発の努力を続けなければならない」と、IBMのSadanaは言う。「プロセスの技術革新を専門とする企業はますます減っていくだろう」

 ここでIBMが平衡を保つ役割を果たすかもしれない。IBMのマイクロエレクトロニクス部門はIntelの約8分の1程度しか収益をあげていないにもかかわらず、研究分野において両社は緊密なライバル関係を保っている。実際にIBMは多くの画期的な業績を最初にもたらし、そこから利益をあげるよういそしむようになってきた。

 IBMとChartered Semiconductorの提携で、両社は90ナノメートル用と65ナノメートル用製造プロセスを共同で開発するようになる。これは事実上、IBMの研究所をCharteredに公開するということだ。同様に、IBMが新工場の稼動生産分を新しい顧客に割り当てることができるまで、Charteredも300ミリ用ファブの稼動を遅らせることができる。なぜなら両社の工場は等しい立場になるからだ。

 Sonyもまた、次世代PlayStationに搭載される可能性の高い「cell」プロセッサの知的所有権と製造技術については、IBMに頼ることになるだろう。Sonyは東芝と共同で、PlayStation 2の独自のチップを設計した。

 問題は、IBMはその手の取り決めに相当額を請求するという点だ。ある業界筋によると、例えばAMDはIBMに数億ドルを支払うことになるかもしれないという。またTSMCに言わせると、世界中の研究開発所はもっと重要なことを忘れている。それは、いくつもの複雑な技術を自社チップに統合する余裕のある企業はないという点だ。TSMCの顧客のうち数社は、130ナノメートル製造に乗り換えるのを避けている。コストがかかりすぎるためだ。

 「技術革新の能力が、その技術革新によって利益をあげることのできる能力を越えている――そういう地点に、我々の産業は到達してしまった」と、Byersは言う。「技術はすばらしいが、コストはかかるし誰かがその代償を支払わなければならない」

提携が進む半導体業界

 企業がいかにこのジレンマを回避するかは、状況次第だろう。収益が15億ドル以下の小規模な企業は、製造部門と研究開発部門の大部分を外注に頼ることになるだろう。おそらく部品も、大手製造業者からのものに統合される可能性が高い。

技術はすばらしいが、コストはかかるし誰かがその代償を支払わなければならない

 30億〜50億ドル規模の収益をあげるような、大きくてより安定した企業であれば、ハイブリッドな製造工程が可能だ。例えばNational Semiconductorの場合、独自のチップを設計しているが、製造モデルとプロトタイプはTSMCに任せている。その後Nationalはチップを戻して大量製造に入るのだ。

 「以前は、知的所有権がすべてを駆り立てていたものだった」と、Hallaは言う。つまりNationalは、ある程度までチップを外注するが、すべてを外注することはないとのことだ。「今や、巧みな技術で製造しなければならない、ということだ」

 その目標に向けて、Philips、ST、Motorolaの三社による共同研究は、国連平和維持軍の派遣隊をどことなく連想させる。共同の研究施設は、各社から一人ずつ派遣された3人の重役によって管理されており、重要な技術プロジェクトには各社の主要技術者が携わっている。

 しかし提携関係が常に円滑にいくとはかぎらない。2002年、AMDはUnited Microelectronicsと製造技術を共同開発するため多層にわたる契約を交わし、シンガポールに共同でファブを建設した。今月AMDは上記の技術合意は終了したと述べ、新しい契約をIBMと結び、ファブ建設のために新しいパートナーを探している。

 合併は、多くの中小企業にとって避けがたい道となるだろう。だがHutchensonは、次のように言う。歴史を振り返ると、可能性が低いからといって新興企業が新ビジネスに取り組むのをためらったりはしないものだ、と。

「半導体産業は航空業界のようなものだ。魅力たっぷりだから、投資家は決まって航空業界に金をつっこみたがるものさ」

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