「無敵」ではなかったマイクロソフト - (page 5)

Mike Ricciuti, Alorie Gilbert and Joe Wilcox (Staff Writers, CNET News.com)2003年01月06日 11時30分

DAY1 オープンソース:迫り来る反乱者
DAY2 エンタープライズ:巨人たちとの衝突
DAY3 サービス:MSNの危険な賭け
DAY4 戦略:マイクロソフトVSマイクロソフト
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 米マイクロソフトのマーケティング戦略はいつでも時計仕掛けのようだ。新しいバージョンのソフトウエアが出荷されると、顧客は魅力的な新機能を取り入れるためにアップグレードに励む。

 .Netはマイクロソフトの戦略そのものだ。その遠大な技術は、生産ラインを再編成しようとしている。自社のオペレーションシステム、サーバーソフトウエア、デスクトップ製品などから莫大な収益を確保し続けるためには、.Net技術のアーキテクチャー開発に成功することが極めて重要だ。

 マイクロソフトの.Net技術は幅広く賞賛されてきた。目に見える形のプログラムとして初めて登場した開発ツールVisual Studio.Netは、あらゆる面で初期バージョンを飛躍的に超えるものだった。しかし今のところ、.Netの採用について顧客の反応は鈍いというのが実状だ。

 「.Netの大きな課題は、売ることに加え、.Netとは何かを説明することだ」とディレクションズ・オン・マイクロソフトのロブ・ホーウィッツは言う。

 公平を期して言うならば、今は不景気で全ての技術関連メーカーが売上を伸ばせずに苦しんでいる。しかし、マイクロソフトは、今、主要製品の全面的な改造を意味する.Netを立ち上げようとしている。つまりマイクロソフトの場合、タイミングが悪いのだ。

 現在マイクロソフトは創業以来最も悪い状況にあるともいえる。企業資源とビジネス手腕を揃えているにもかかわらず、マーケティングの混乱、ライセンスの強要、ソフトウエアの互換性の問題などで顧客の反感を買っている。これが.Net導入減速の要因なのかもしれない。

失敗を認めるバルマー

 マイクロソフトの最高責任者(CEO)スティーブ・バルマーは、同社がライセンス戦略に失敗したかもしれないことを認めている。マイクロソフトは.Netのマーケティングに力を入れ過ぎたというのだ。CNET News.comの取材に対し、「結果的に、一部の製品には.Netを搭載せずに出荷した。おそらく、それが混乱を招いたのだ」とバルマーは語っている。

 しかしながら、顧客は.Netを導入しているとバルマー反論する。少なくとも.Net開発ツールの導入は進んでいるというのだ。「実のところ、われわれは必要以上にライセンスの仕組みを難解にしてしまったのかもしれない。ただ、それは重要な問題にはならなかった。今や企業など多くの顧客が.Netプログラムに取り組んでいる」

 .Netは大きな博打だ。この壮大すぎる構想がマイクロソフトの現在と将来の全てを彩るのである。「顧客が前のバージョンのWindowsをまだ使いこなしていなかったとしても、喜んで新しい技術に金を払うだろう」と考えたマイクロソフトは、再び賭けにでたわけだ。業界全体が不況で、わずかの支出も惜しむこのご時世に、冒険的な試みである。

 「われわれはマイクロソフト製品を買う。誰もがそうであるように、マイクロソフトとは愛憎の関係にある」とユタ州政府の最高情報責任者(CIO)、フィリップ・ウィンドレイは指摘する。「マイクロソフトは昨年、われわれに大変苦痛な会計検査を強要した。結局、われわれがライセンスに過剰な支払いをしていることが分かったのだが、マイクロソフト側は超過分を一切返金をしなかった。しかし、もしわれわれの支払い額が少なかった場合、マイクロソフトは間違いなくその分をわれわれに請求していただろう」

 ウィンドレイを含め、マイクロソフトの顧客は.Netプログラムに急いでアップグレードする気はないと話しているが、彼らがそう言うのには理由がある。ライセンス契約によって僅かな金額でも徴収しようとするマイクロソフトの作戦が顧客に悪い後味を与えたのだ。論議を呼んでいる新しいライセンスプログラムSoftware Assuranceでは、顧客は後に入手するソフトウエアに対しても前もって支払いをしなければならない。そうすることによりマイクロソフト側は収益を確保し、新製品を購入する際の顧客の意志決定の遅れを防ぐことができるのだ。

マイクロソフトの全戦力
オープンソース エンタープライズ
MSN
.NET

 このプログラムは、購入方法を年金型モデルに切り替えることを強要するものだ。顧客は2〜3年ベースの契約を行い、その契約のもとアップグレードのために前金を毎年支払う必要がある。米調査会社ガートナーによると、これにより顧客が支払うボリュームライセンスの料金は33%〜107%も跳ね上がるという。

 この計画は紙の上では完璧に見えるが、1つ重要なことが欠けている。顧客の需要だ。資金繰りに困っている多くの企業は、もはや以前のようにアップグレードを自動的に行わなくなった。その結果マイクロソフトは、売上の減退に応じて異例の措置を取る必要に迫られている。

 .Netが羽ばたくためには、アップグレードをするよう顧客を説得する必要がある。「これはマイクロソフトにとって難題だ」とホーウィッツは言う。

 多くの顧客はこのライセンス計画に対して不満を漏らした。しかし一方でマイクロソフトと契約を結んだ顧客も多い。事実マイクロソフトは前四半期にソフトウエアの売上を伸ばしている。しかしそれは多くの企業が最新バージョンのWindowsにアップグレードしようと焦ったからである。こうして契約を結んだ企業は、将来ソフトウエアを割安でアップグレードできる権利を持っている。

 短期的にはマイクロソフトは増収を記録した。しかし、長期的にこの「アメとムチ」のような方法がうまくいくとは限らない。新しい技術をタイムリーに顧客に提供し続けるか、もしくは顧客がマイクロソフトとの契約を打ち切るかのどちらかである。

 「Windows 2000 ServerやWindows.Net Serverなどの製品で新版がリリースされる間隔は3年ほどだ」とホーウィッツは言う。「しかしそうしたアップグレードの間隔が長すぎると不満を抱く顧客に、マイクロソフトはどう対処するのだろうか? また顧客から『私のお金がどう有効に使われたのか明確に説明して欲しい』と聞かれたら、マイクロソフトはなんと答えるのだろうか?」さらにホーウィッツは言う。「これは時間制限の厳しい課題である。マイクロソフトにとっては初めての経験だ」

古い化け物

 新製品から顧客を遠ざけているもう1つの要因が、.Net製品と古いアプリケーションとの互換性の問題だ。

 ガートナーの調査レポートによると.Netは「前時代のWindows技術から、様々な分野において飛躍的な進歩と革新を成し遂げた」という。しかし、古いアプリケーションとの統合については努力が必要だ。

 ガートナーによると、古いアプリケーションを.Netに移行する場合、「驚く程多くの変更」を加える必要があるかも知れないという。例えば、Visual Basicの場合、VB.Netに統合することができるのは、既存のVisual Basic 6プログラミングツールのせいぜい40%程度だという。VB.NetとはVisual Basicの新版である。マイクロソフト側の説明によると「重要なデザインやコーディングの変更はない」という。

 ガートナーのレポートからこの現状を表している事例を紹介すると、SharePoint Portal Serverなどマイクロソフトの戦略的な製品の中に、.Netと統合されていないものがあるということがあげられる。少なくとも今後3年間は、.Net用のアプリケーションとしては製造されない。

 確かにマイクロソフトは、古いアプリケーションを.Netにリンクさせるためのツールを多く提供している。アナリストらも、性能の向上と安定性の面から多くの企業が.Netに移行すると指摘している。

 しかし最終的には、やはり「古い化け物」がマイクロソフトを悩ませることになる。マイクロソフトはWindowsサーバーソフトウエアをUNIXなどの大規模なシステムソフトウエアと同様に、安全かつ信頼性の高い製品にする必要があるからだ。こうした問題は、Windows.Net Serverと共に消え去って行く可能性があることをアナリストは指摘する。マイクロソフトの取り組み、Trustworthy Computingは、安全性と信頼性に対するこうした懸念を取り除くことを狙っている。

 とはいえ、まずマイクロソフトが行わなければならないのは、.Net Serverなどの製品を購入するよう顧客に働きかけることだ。長い間顧客に抵抗感を持たれていたクリティカルなビジネスシステムへのWindows導入についても克服していかなければならない。

 「マイクロソフトのサーバーソフトウエアは大幅に普及に向けた準備がすべて整っている、と同社は皆を説得している」とウィンドレイは言う。「そのような日が到来するかもしれないが、今はまだセキュリティーや信頼性の部分で多くを克服しなければならない。その意味において、WindowsXPは正しい方向への大きなステップと言える。しかしUNIXの安全性に比べれば、まだ足元にも及ばない」

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