FujiSankei Business i.
2008/11/25 11:10
ネットベンチャーの日本通信が、NTTドコモやKDDI(au)など大手の独占状態にある携帯電話業界に“殴り込み”をかけている。通信インフラを持たない同社は、ドコモの高速通信網を借り、廉価な海外の携帯電話を自由に組み合わせた企業向け情報通信サービスの提供を8月に開始、顧客を急速に開拓しつつある。日本通信のような企業と既存事業者を競わせ、地盤沈下する携帯業界の再活性化を狙う総務省の強い意向もあり、「インフラなし」の携帯事業者が今後さらに増える可能性が高まってきた。
≪総務省が「演出」≫
日本通信は大手事業者とは一線を画し、独自に格安の海外メーカー製端末を調達する
「大手製薬業者がこの端末の導入を決めた」
日立製作所やNECなど、大手企業が軒を連ねる東京都品川区南大井。その一角の小さなビルにある日本通信の本社で、福田尚久CFO(最高財務責任者)は胸を張った。
目の前には、量販店では見たこともない、USBメモリーのような超小型の携帯電話端末や、シンプルな端末が並ぶ。日本通信のように、自前の通信網を持たず、他社の通信網を活用してサービス提供する事業者は「MVNO(仮想移動体通信事業者)」と呼ばれる。
日本通信は昨年7月、ドコモの高速通信網の利用条件をめぐる争いで、異例ともいえる総務相による「大臣裁定」を申請。その結果、同11月に「従来の3分の1程度」(業界関係者)といわれる格安条件で通信網を利用する権利を獲得した。業界のガリバー、ドコモに勝利したのだ。これを受けて、日本通信は今年8月から、海外の廉価な携帯電話端末と、データ通信サービスなどを組み合わせた、格安の企業向け情報通信サービスの提供に乗り出している。
日本通信の勝利を“演出”したのは総務省だった。総務省は2007年2月、日本通信が勝ち取ったような透明性の高い方式で、MVNOが既存事業者の通信網を利用できるようにする「ガイドライン」を発表。このガイドラインが後ろ盾となって、日本通信は難航するドコモとの交渉を大臣裁定に持ち込むことができた。「事業者数を拡大することで、携帯業界を活性化させたい」。ガイドラインには総務省のこうした思いがにじむ。
≪勝利に2つの意味≫
日本通信の勝利には、2つの大きな意味がある。
一つは、事業者間で決められていた通信網の利用条件が大臣裁定に持ち込まれ、その契約が公開されたこと。総務省は今年5月、既存事業者に対し利用条件を約款として公開するよう要請。その結果、ドコモと日本通信との間で結ばれた条件も約款として公開された。現在はドコモの通信網の利用を目指すMVNOは、この約款に沿って、契約を結ぶことができる。これにより、他のMVNOも日本通信と同じ割安な条件で通信網を利用することが可能になった。
もう一つは、MVNOが増え、多種多様な端末が世に出てくる可能性が高まったこと。
日本の携帯電話市場は、ドコモやKDDIなどの通信事業者がメーカーから端末を買い取り販売する“商慣行”があり、海外メーカーが参入するには、まず通信事業者に採用してもらう必要があった。これに対し、日本通信は国内検査機関の検査をパスした海外メーカーの格安端末を中心に提供している。福田CFOは「ドコモの通信方式に対応し、一定の条件をクリアしていれば、どの端末でも日本で利用できる」と明かす。
ただし、端末調達力では「既存の大手携帯事業者には勝てない」(日本通信)という。裏を返せば、海外にネットワークを持ち、商品調達力に優れた有力企業がMVNOとして参入すれば、既存の大手携帯事業者と遜色(そんしょく)ないサービスを提供できるわけだ。端末メーカー大手のノキア(フィンランド)は来春、日本でMVNOに参入する見通しだ。日本通信のビジネスモデルは、大手携帯事業者がサービス内容や端末の仕様などを取り決める日本独特の「垂直統合型」のビジネスモデルを崩壊させる可能性を秘めている。
≪競争激化の一途≫
もっとも、MVNOビジネスが成功するかどうかは未知数だ。携帯市場は成熟化により、新規契約の獲得は容易ではない。ソフトバンクが米アップルの大ヒット端末「アイフォーン」を国内販売し、ドコモもカナダメーカーの人気機種「ブラックベリー」を投入するなど、競争は激化の一途。とくに法人向けの場合、「サービスの信頼性を重視し、最終的に認知度が高い既存事業者のサービスを選ぶ可能性が高い」(証券系アナリスト)との指摘は多い。
MVNO同士の競争激化も必至だ。今年に入って参入したMVNOは、ほとんどがデータ通信中心のサービスだが、すでに11社に上る。野村総合研究所は、国内のMVNO関連市場は2015年には2兆円規模に達すると予想しており、淘汰(とうた)は避けられない状況だ。
栄枯盛衰の激しい携帯業界では、先進的なビジネスモデルを打ち出しながら、その後の競争に敗れた企業は枚挙にいとまがない。日本通信はMVNOの先駆者として金字塔を打ち立てる存在になるか、それとも淘汰の嵐に巻き込まれてしまうのか、その真価が問われる。(黒川信雄)
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