展望2004:コンピューティング化が進むネットワーク市場

田崎堅志(ガートナー ジャパン リサーチ部門 バイスプレジデント)2004年01月02日 00時00分

 エンタープライズ周辺のネットワーク市場は大きく言って、企業などの構内とその外側とに分けられる。LANなどの構内ネットワークに関しては、ここ数年、動きがなくなっている。標準的な技術が確立してしまい、新しい技術が出てきていない。ベンダーも話の軸をセキュリティやQoS、ロードバランシングなどに持っていっているが、ギガビットイーサも構内ネットワークではまだまだという状況で、総じて新しい技術のインパクトが弱いと言える。ユーザー側に新しいニーズがないので、この分野では新しいビジネスのネタが見つけにくくなっている。基本的にはリプレース需要が中心だが、ユーザーも何にフォーカスしていいのか次が見えなくなっている。この状況は2004年も続くだろう。

 サーバー側ではWebサービスなどの新しい技術へ移行する変わり目にあるせいで、ユーザーとしてはネットワークの設計がしにくくなっている。従来のクライアント/サーバモデルであれば、ネットワーク内のトラフィックは予想可能だったが、Webサービスが広がるとどこからどこへトラフィックが飛ぶか分からない。この問題が今は表面化していないが、今後どうなるのか読めないだけに、リプレースする際にも何が正しいのか分からない難しいフェーズにある。次のデザインをどうすべきか分かりにくい不透明な時期だ。次善の策として、トラフィック管理、モニタリングがどこまでできるかということが2004年は重要になるだろう。

ネットワークの投資効果測定が課題

 IT業界全体のトレンドとして、ビジネスのためのITということが言われるようになっているが、ネットワークの分野でも、その上で動くアプリケーションのビジネスインパクトをどう測るかということが重要になってきている。これも2004年の課題と言えるだろう。

 Wi-Fiに関してはセキュリティの問題も解決されつつあり、構内LANでは導入が進んでいる。駅やホテルなどのホットスポットとエンタープライズのネットワークを組み合わせるサービスはまだ早い。2004年にいろいろ出てくると思うが、特定のアプリケーションで徐々に広がるという程度ではないか。携帯電話の方では、定額制のデータ通信サービスの幅が広がれば、モバイル接続のインフラとして選択肢に入ってくる。構内にWi-Fiを導入するところではVoIPのWi-Fi電話も選択肢にはなると思うが2004年はやはりトライアルという段階だろう。

VoIPブームは加熱し過ぎ

 2003年はVoIPバブルとも言って良いほどブームが加熱し過ぎた。今年は少し沈静化する可能性がある。VoIPのメリットとしてコスト削減が言われていたが、通常のVoIPはPBXの導入コストを考えるとそれほど安くはない。PBX機能の提供も含めてアウトソースするIPセントレックスくらいしかコスト削減にならない。ここで問題となるのがIPセントレックスで本当に良いのかということだ。中小企業では確かに即効性があるかもしれないが、せっかくIP化したのに音声ネットワークしかアウトソーシングしないというのではもったいない。

 音声とデータを統合すれば、今までシステム処理できなかったプロセスを統合したシステムを作ることができる。ただ、それをやろうとした場合、IPセントレックスのシェアード環境では好きなことはできず、自社で作るよりもかえってコスト高になる可能性もある。かといって、現段階では自社でVoIPのPBXを導入するにはまだコストメリットが薄く、結局、二の足を踏むユーザーが増えるのではないだろうか。狙えるのはリプレース需要だが、NECなどが出しているレガシーのPBXにVoIPを組み合わせたIPエネイブル製品は今のフェーズにあっているので売れている。また、日本企業の場合、社内端末としてPHSが普及しており、VoIPとWi-Fi電話という組み合わせよりもPHSの基地局をIP上に置くというのが現実的なソリューションになるだろう。

大容量化するバックボーン

 バックボーンのインフラでは、WDM(波長分割多重)の導入によってKDDIや日本テレコム、NTTコミュニケーションズなどのネットワークオペレーターが持つ光ファイバのネットワークが大容量化してきた。今年中には、これらのネットワークオペレーターが企業の拠点やデータセンター間の接続向けに光ファイバの波長貸し(ラムダサービス)を開始し、接続コストは現在よりも下がるはずだ。ユーザー回線を収容するエッジネットワーク部分では音声、データなどのサービスがIP化して統合される。

 日本は光ファイバーが多く、広域イーサーのサービスはIP-VPNと同じくらいまで下がって良いのではないかと考えている。ユーザーにとって重要なのは自社のテクノロジー投資のライフサイクルをどのくらいで見るかということだろう。3年くらいで見直しをして、その都度最適なものを選んでいくのがよい。

マネージドネットワークサービスが拡大する

 ただ、IT担当者はネットワークだけを見ている訳ではないので、テクノロジートレンドを追いかけるのは大変だ。ユーザーは何も考えなくてもコンセントにつなげれば最適なネットワークが利用できるというのが理想だ。NTTやKDDIなどのネットワークオペレーターはIP化した通信インフラの上でアプリケーションも含めた上流行程にビジネスを拡大しようとしているが、ネットワークの運用を全てアウトソースするマネージドネットワークサービスは顧客囲い込みの手段として今後拡大していくだろう。今まで日本のユーザーにはあまりなじみがなかった市場だが、今後この分野の拡大で、通信とコンピューティングがどんどん近づいていく。(談)

この原稿は、田崎氏の談話を元にCNET Japanで編集したものです。

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