ジャーナリズムはどう変わるべきかをエンジニアと探る--元Storifyの共同創業者

 インターネットが音楽や小売など、さまざまな業界を変えつつある。ジャーナリズムもその1つだ。日経新聞による英Financial Times買収が示すように、特に新聞社はこれまでの紙ベースの事業モデルからの転換が追いつかず、経営難に陥るところも多い。

 「変化に抗うこともできるが、変化を受け入れ業界の将来を一緒に作ろう」――そう呼びかけるのは、元通信会社のベテラン記者だったBurt Herman氏。同氏が結成したグループHacks/Hackersが6月末、ドイツ・ベルリンで初のグローバルイベント「Connect」を開いた。会場でHerman氏に話を聞いた。


Burt Herman氏

 Herman氏はAssociated Press(AP)で12年間、記者として日々のニュースを追い、世に伝えていったジャーナリストだ。韓国ビューローチーフも務めたという経歴を持つ。そのHerman氏が、インターネット、特にソーシャルメディアがニュースを伝える方法を変えると思ったのは5年以上前のことだという。

 スタンフォード大のジャーナリスト向けプログラムJohn S. Knight Journalism Fellowshipsで学んだ後、2009年にMeetupを利用して同じ関心を持つ人を集めて勉強会を開いた。「ジャーナリズムは今後、技術に大きく依存することになる。業界が生き残るためには、ストーリーを語ったり、情報を伝える方法を新たに創出する必要がある」と思ったからだ。そこで、これまでジャーナリストが直接交わることがなかった技術者と集まる場所を作り、話し合えないかと考えた。

 同じ時期に、同様の問題意識を持ち、技術をどのように活用できるかを考えている2人のジャーナリスト、Aron Pilhofer氏(元New York Timesの記者で、現在The Gurdianのデジタルエディター)、Richard Gordon氏と知り合った。そうやって3人で立ち上げたのが、Hacks/Hackersだ。Hacksとはジャーナリストのことで、Hackers(ハッカー)はプログラマを指す。

 Herman氏は2010年、スタンフォードで学んだ起業家精神を生かして、新しいジャーナリズムに挑戦するベンチャーStorifyも共同創業した。Storifyはすぐに注目を集め、投資家からの支持を得た。そして2013年、Herman氏らはStorifyをLivefyreに売却した。Storifyで学んだこととしては、柔軟性(スタート時からアイデアが変わることもあり、定期的に自分たちを客観視する必要がある)や、最初に多くの資金を投資家から得てしまうとビジネスモデルをしっかり考えることができなくなること、ビジネスの構築には時間がかかることなどを挙げた。

 Hacks/Hackersに話を戻そう。Herman氏は、なぜ報道側が技術者に歩み寄らなければならないかについて、次のように説明する。「読者は情報を得るのに技術を利用している。ウェブ、モバイルなどさまざまな技術があり、技術は新しい読者、視聴者へのリーチを可能にした。このように、技術なしにはジャーナリズムは語れなくなってきた。ジャーナリズム側は、自分たちの記事を読むために使われている技術をもっと学ぶ必要がある」。


Hacks/Hackersのグローバルイベント「Connect」の様子。初日は付箋に自分が問題に思うことを書いて壁に貼り付けた。

 Hacks/Hackersのメンバーは多くの場合、それぞれの仕事が終わった夕方に集い、話し合うという形態をとる。週末にはハッカソンを開催することもある。サンフランシスコで草の根的にスタートしたが、すでにロンドン、ブエノスアイレスと世界に70以上のグループが生まれており、合計の参加者は1万人を上回るとのことだ。まずはやってみようというところからスタートしたため、明確なビジョンがあったわけではないという。だが、ここにきてインパクトを与えられるような人が参加しているとHerman氏は満足顔だ。

 Herman氏はこんな風にも語る。「技術者はジャーナリストとはマインドセットが異なる。我々は“今日のニュースはなに?”とニュースを探して書くが、一歩引いて、そのネタをどのように書くのか、伝えるのかといった土台部分を考えない。ここはエンジニアが得意とするところで、ストーリーを伝えるプラットフォームをどのようにして構築するかに目がいく」。視点とアプローチが違うからこそ、「やりとりは非常にチャレンジングだし、刺激になる」という。

 この日、Hacks/Hackersは、初のグローバルイベントをベルリンのインキュベーターセンターFactoryを借りて開催した。ドイツのHacks/Hackersのメンバーとサンフランシスコからのチームが、100人以上の開発者やジャーナリストを招いた。金曜の夕方から土曜の夕方まで、1日半のスケジュールで、開発者とジャーナリストが具体的な問題点を挙げ、グループになってデザインシンキングを通じて解決の糸口を探した。


2日目はグループに分かれてデザインシンキング。課題を絞り込み、話し合った。

 最後に、Herman氏に将来の報道について聞いてみた。「新聞社の経営状態が苦しい。ジャーナリズムの将来に楽観している?」――答えはもちろんイエスだ。「いまはとても面白い時代だと思う。大手メディアはどこも大きな変革期にある」とHerman氏。特に興味を持っているのはソーシャルメディアだ。

 「ソーシャルメディアが何を意味するのか。ジャーナリズムがTwitterとFacebookに依存すればよいということではないと思う。メディアは単なる読者や視聴者ではなくコミュニティ、トピックに関心を持つメンバーの意識が必要。ただ自分が書いたものを読んでもらうのではなく、お互いがインタラクティブになり、双方向の関係になることができる」と言う。「インターネットは根本的にソーシャルメディアといえる。このインターネットがどのようにして人々を結びつけるか、これは始まったばかりだ」(Herman氏)。

 起業家へのアドバイスとしては、「とにかく始めること」を挙げた。「リスクは思っているほど大きくない。失敗しても失うものはないし、実際にやってみると周囲の人はサポートしてくれる。まずはアイデアを出して共有しよう」とHerman氏は語った。

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