江戸時代から続く真鶴町の“魚つき林”を守る--KDDIと多摩美大が協力

 神奈川県の真鶴町、KDDI、多摩美術大学は3月25日、産官学連携プロジェクト「真鶴スマート魚つき林」を4月に開始することを発表した。映像を自由な視点で見られる「自由視点映像」を活用して、真鶴の魚つき林をバーチャルに体験できるようにしたり、ARを使った観光イベントを企画したりすることで、魚つき林の保全や真鶴町の観光振興を支援する。アイデアは多摩美術大学の学生が考えるという。


左から、KDDIの村本伸一氏、真鶴町の宇賀一章町長、多摩美術大学の非常勤講師で博報堂 PRディレクターの北川佳孝氏

 真鶴町は神奈川県の最西部に位置する人口8000人弱の港町で、古くから漁業や石材業が営まれてきた。真鶴半島の先端には、クロマツやクスノキの巨木が生い茂る森林がある。江戸の大半が焼失した「明暦の大火」(1657年)の教訓から、建築資材の確保を目的に、野原だった土地に約15万本を植林して、育成・保全してきたものだ。明治維新後に「皇室御料林」となり、1937年に「魚つき保安林」に制定された。

  • 真鶴町の「魚つき保安林」

 魚つき保安林とは、魚群の誘致や漁場保全を目的に育てられてきた森林のこと。諸説あるが、枯葉の養分を含んだ水がプランクトンを発生させたり、流れ水で海水の温度が一定になることなどが、沿岸部で多様な海洋生物が生息する一助になっていると考えられている。この森林は天然記念物にも指定され、町民からは“お林”として親しまれているという。

 そんな魚つき林が危機に直面している。現在は、神奈川県の補助金などを得ながら真鶴町が管理しているが、松食い虫の大量発生や台風の直撃、交通量の増加などにより、木々が半分近くにまで減ってきているのだという。真鶴町の町長である宇賀一章氏は、「昔は(木が生い茂って)恐ろしいほど真っ暗だった。もうその状態に戻すことはできないが、次世代には残さなければならない」と思いを語る。

 この魚つき保安林を守るために、真鶴町は2014年4月にお林を屋久島のような自然遺産にすることを目指して、「魚つき保安林保全プロジェクト」を打ち出した。しかし、真鶴町の財源や人材には限りがある。そこで、社会貢献(CSR)を推進する企業と連携し、資金や人材などの支援を受けながらお林を保全するとともに、環境教育を実践したり自然を楽しむためのアイデアを募り、観光振興にもつなげたいとしている。

  • 「真鶴は魚が美味い!」とアピールする宇賀町長

  • 魚つき保安林は、皇室御料林や天然記念物に指定されている

  • 松枯れが深刻化しており保全が求められる

  • 真鶴町はお林を自然遺産にすると宣言

  • 学術グループや企業などと連携する

  • プロジェクトの3カ年計画

 このプロジェクトに賛同したのがKDDIだ。同社はこれまでも、沖縄離島に住む子どもの教育を支援するためにタブレット教材を提供したり、東北の被災地で仮設住宅の住民向けにタブレット教室を開催するなど、さまざまな形で地方創生を支援してきた。真鶴町とは2014年から連携しており、クリック募金「キボウのカケラ」の寄付金の一部を森林の保全に充てたり、KDDIのAR技術「SATCH VIEWER」を活用して、森に設置されたイラストにスマートフォンをかざすと森や海の説明を楽しめる子ども向けイベント「真鶴まちなーれ」を開催したりしている。

 2015年はさらに一歩踏み込み、KDDIがタブレットを貸し出すとともに社員ボランティアも派遣し、魚つき保安林の保全調査を夏と冬の2回に分けて実施する予定。実は真鶴町では財源不足のため1994年から科学的な調査ができておらず、木々が減少する原因を特定しきれていなかったのだという。今後はその調査結果をもとに、植林を始めより効果的な保全活動をしていきたいとしている。

  • KDDIのCSRの取り組み

  • 真鶴町とAR技術を使ったイベントなどを開催

  • タブレットと社員ボランティアを提供して保全調査を実施する

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