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二次創作やパロディを守るために--TPPの「知財」交渉に漫画家や弁護士が緊急声明

2015/03/13 16:54
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 TPP(環太平洋経済連携協定)の知的財産権に関する交渉内容の透明化を求める――3月13日、漫画家の赤松健氏や、青空文庫の大久保ゆう氏、ドワンゴ 会長室室長の甲斐顕一氏、著作権専門の弁護士である福井健策氏などが合同記者会見を開き、知財権についての米国提案に強い懸念を示した。


緊急声明への賛同者が集まった。

 TPPの交渉は大詰めを迎えているが、その中でも著作権など知的財産権を巡る条項が各国の最も深刻な対立点とされている。それは米国の要求内容が自国にとって有利な条件であり、日本がこの条件を飲んでしまうと“クールジャパン”を支える創作活動が大きく阻害される恐れがあるからだ。

 米国の海外特許・著作権使用料は2013年に15.6兆円にのぼり、年間で10.9兆円もの利益を生み出している。これは自動車や農産物を凌ぐ規模であることから、米国ではITやコンテンツ領域を最重要事項と位置づけている。TPPは秘密協議で進められているため、その内容は明らかになっていないが、告発サイト「WikiLeaks」などを通じてその一部が流出しており、その内容は「知財の『アメリカ化』」を推進するものだと、福井弁護士は説明する。

争点になる「保護期間の延長」と「非親告罪化」

 条項の中で最も懸念されているのが(1)著作権保護期間の大幅延長と、(2)著作権侵害による非親告罪化だ。

 日本では著作者の死後50年まで著作権が守られている。それは著作者の遺族や子孫が利益を得られるためだ。また、創作へのモチベーションの向上といった側面でもメリットがあるとする意見もある。欧米では1990年代にこれを70年に延長しており、TPPでは日本にも同じく延長を提案しているというわけだ。

 しかし、保護期間の延長にはいくつか危惧すべき点があると福井氏は指摘する。まず、大多数の作品は市場においては短命なため遺族の収入増加はわずかしかなく、むしろ権利者が見つからないことによる「孤児著作物」の増加が懸念される。国内外の調査によれば、過去作品のうち5割以上が権利者を探しても最終的に見つからないほか、保護期間を逃すとこれが激増するとされている。実際に、保護期間を延長した欧米ではこの孤児著作物が急増したことで、デジタル化の振興を害したとして、期間短縮提案が議論されているほどだ。

  • 著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム(thinkC)の世話人である福井健策弁護士

  • 著作権保護期間の延長

  • 過去作品の過半数が孤児著作物となっている

 また、権利処理が困難になることで、古い作品に基づいた新たな創作やアーカイブ活用が難しくなる。絶版になるなどして手に入れることが難しい書籍の著者に1人ずつ許諾を取ることは実質不可能に近く、これらの作品をインターネット上で公開して誰でも閲覧できるようにするといったことも、死後70年までできなくなる。さらに、日本では著作権に関する収支で年間に6200億円の赤字を出しており、「保護期間をのばしても支払いが増えるだけ」(福井氏)だという。

 もう一つ大きな議論を呼んでいるのが、作品の著作者でなくとも起訴・処罰ができてしまう「非親告罪化」だ。これまでは作品のパロディや二次創作をしても著作者が訴えなければ起訴することはできなかった。そのため、たとえば企業研修や教育機関、福祉施設などで、アニメのキャラクタなどが描かれたチラシを配ったり装飾をしたりしても、余程のことがない限り罰せられることはなかった。

  • 非親告罪化

  • 日本では古くから二次創作の文化が根付いていた

  • 「法定損害賠償」の導入など、各条項についての交渉内容は明かされていない

 しかし、非親告罪化してしまうと、たとえば悪意のある第3者が通報しただけで警察は動かざるをえない状況になる。そうなると、多くの創作者が萎縮してしまう可能性が高く、“クールジャパン”を支える同人誌即売会「コミックマーケット」や、動画コミュニケーションサービス「ニコニコ動画」など、クリエイターの創作活動の場が縮小してしまう可能性は十分にあるとした。

フォーラムが緊急声明--70団体が支持

 これらの多くの条項は、過去に日本では異論が強く、十分な議論を経た上で現状には合わないなどとして導入が見送られた経緯がある。日本は、米国で新ビジネスやアーカイブ、パロディ表現の原動力とされる「フェアユース」のような柔軟な著作権の一般的例外規定を持たない。また、弁護士主導・訴訟解決型とも言える米国型の各種ビジネスとは大きく異なるエコシステムを持つ。

 仮に日本にも導入すべきと映る個別の条項があるとしても、条約は国内法に優先するため、多国間の多角的貿易協定の一部として、そうした条項が義務付けられてしまえば、数年後に社会の実情に応じて見直そうとしても、国会すら法令を変更することはできない。そのため、十分な議論と国民への情報公開が求められる。

  • 「TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム」を発足した、ジャーナリストの津田大介氏(左)、弁護士の福井健策氏(中央)、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの渡辺智暁氏(右)

 しかし、秘密協議であることから、国内外のメディアでも著作権保護期間の延長や非親告罪化について、政府は譲歩の方針と報じる一方、交渉は難航しているとも報じるなど、情報が錯綜している状況だ。そこで、クリエイティブコモンズ・ジャパン、インターネットユーザー協会(MIAU)、thinkCの3団体からなる「TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム」(thinkTPPIP)は、交渉の透明化を求めて、2月23日に緊急声明を発表した。

 その内容は、各国の利害対立の大きい知財条項を妥結案から除外して海賊版対策のような異論の少ない分野に絞ること。また条項案を含む十分な情報公開を修正交渉が可能な段階におこなうことを強く求めるものだ。この声明には、3月13日時点で70団体・280人以上からの賛同を得ているという。

 また、同日の午前中には、西村康稔内閣府副大臣に、この声明を直接提出した。一部メディアでは非親告罪化を義務付けない方向とする報道もあったが、福井氏によれば「誤報でありまだ決まってはいない」という返事を得たという。その上で次のような前向きなコメントを得ることができたと語った。

  • 西村康稔内閣府副大臣に声明文を提出する福井氏

 「さまざまな懸念が知財のメニューについてあることは十分承知をしている。保護期間の延長も非親告罪化もその他についてもである。そういうことを踏まえた上で皆さんに納得いただけるような最終案になるべく交渉に全力をあげたい」

 thinkTPPIPでは今後も募集を続け、二次、三次のアピールを通じて、日本の文化に適した未来志向の著作権制度やルールメイキングの姿を議論していきたいとしている。

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