起業、チーム、失敗への恐怖--PayPal、Tesla、SpaceXのイーロン・マスク氏が語る

 起業がそれほど難しくない時代、世界に“起業家”は多数いる。だが分野を超えて複数の会社を立ち上げ、そして成功を収めている人物となるとなかなかいない。PayPalでインターネットにおける決済に革命を起こした後に、電気自動車のTesla Motors(Tesla)、宇宙船ビジネスのSpaceXを立ち上げたElon Musk氏は、起業家が憧れる起業家といえよう。そのMusk氏が10月末、アイルランド・ダブリンで開催されたイベント「WebSummit 2013」に登場し、自身の経験について語った。

 Musk氏が登場したのはイベント最終日の最後のセッションだ。千秋楽を迎えた会場にアイルランド首相のEdna Kenny氏、ベンチャーキャピタルのShervin Pishevar氏とともにステージに登場、地元ジャーナリストのMark Little氏が司会役を務めた。

 南アフリカ共和国で生まれたElon Musk氏の起業家人生は12歳のときに始まる。コンピュータが大好きだったElon少年は作成したビデオゲームを500ドルで売却した。その後Musk氏はカナダにわたり、カナダと米国で高等教育を受けて物理学や経営などについて学ぶ。後のPayPalとなるX.comを共同で立ち上げたのは1998年のことだ。Musk氏は27歳だった。

少年時代は「何がしたいのか分からなかった」

 「いつ世界を変えたいと思った?」というLittle氏の問いかけに対し、Musk氏は少し考えた後に「若い頃(ティーンエイジャー)は何がしたいのかわからなかった」と述べる。ビデオゲームで遊ぶことと、ソフトウェアを書くことが大好きな少年時代だったようだ。「プロとしてビデオゲームが書けるんじゃないかと思った。そうなったら、楽しいだろうな、ぐらいのものだった」とMusk氏は続ける。


Elon Musk氏。その華やかな経歴にはそぐわず、もの静かな人物だった

 「何かをやりたいと意識したのは21歳頃だった」「大学のとき、世界に影響を与えることができるものは何かと考えたときに5つが浮かんだ。そのうちの3つはポジティブな結果を生むもので、2つはクエスチョンマークだった」。3つとは、インターネット、持続性のあるエネルギー、宇宙の3つ。Musk氏は現在42歳、約20年の間に3つすべてで行動を起こしたことになる。

 Musk氏は2002年、約15億ドルでPayPalをeBayに売却する。その年の6月にSpace Exploration Technologies(SpaceX)を立ち上げた。PayPal(X.com)の前のZip2(ソフトウェア企業)を入れると、3社目となる。複数の企業を立ち上げるシリアル起業家はさほど珍しくないが、分野が全く異なるMusk氏は特異な例だ。PayPal成功の後に、再びオンライン決済分野で起業しようとは思わなかったのか? Little氏の質問に対し、「宇宙への期待が自分をモチベートしていた」とMusk氏は答える。

Musk氏はModel Sでステージに登場した Musk氏はModel Sでステージに登場した
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 アポロ8号が月に上陸し、世界中がその断片的な映像を映すTV画面に釘付けになったのは1969年。Musk氏がうまれる2年前のことだ。「アポロの夢の続きかもしれない――人類は月に到達して基地を作った。その後宇宙に“スペースホテル”ができて、火星にもミッションがあると期待していた」とMusk氏。

 だがなかなか火星探索に向けた動きは進展しなかった。「宇宙分野への興奮がなくなったのかと思った。その後、これは間違いだと分かったが」とMusk氏は言う。いまやっていることは「ロケット技術を少しでも改善すること。人を火星に連れて行くとは確約できないが、少しでも前進させたい」と述べた後、「火星に基地があり、自己持続性のある文明ができるといいなと思う」と目を輝かせる。

 「(宇宙分野の探索が進むことで)社会のスコープとスケールがもっと大きくなる――こんなことを考えると、とても興奮するし、インスピレーションが湧くと思う」「地球にはたくさんの問題や課題がある。でもインスピレーションが湧くようなものがあっていいと思う。毎朝起きて、明るい将来があると思えることは大切だと思う」(Musk氏)。

成功は「高揚」でなく「安堵」

 起業に失敗や苦労話はつきもの。無論、Musk氏も無縁ではない。SpaceXではロケットの打ち上げが連続して失敗し、次に失敗すると資金が尽きるという段階まで追い込まれたことがある。当時を振り返り、Musk氏は「2007年、2008年はタフな時期だった。2008年が最も辛くて、なんだかんだで2010年前半まで続いた」と語る。

 3回の打ち上げ失敗の後、2008年後半に最後の資金をかき集めて4回目の打ち上げをする――「これがいかなければゲームオーバーだった?」というLittle氏が振ると、Musk氏はだまってうなずく。「これが最後のチャンスだった」。打ち上げは無事成功する。そのときの気持ちを聞かれると、「とても緊張していて、成功したときに(よくいわれるような)高揚を感じることはない。感じたことはほっとした安堵の気持ちだけ」とMusk氏は静かに言う。

 自動車大国、ガソリン大国の米国市場で電気自動車をというTeslaも、平坦な道のりではなかったようだ。やはり苦しかったのは2008年――リーマンショックを世界中が覆った年だ――Musk氏は資金調達で壁にぶち当たった。「自分が持っていた資金は全部出したし、友人からも助けをかりた」という。クリスマスイブの夕方6時、期限ギリギリでクローズした。「もし間に合わなかったら破産していた」とMusk氏は言う。

 ビジネスのやり方も学んできた。ベンチャーは既存の企業からみるとアウトサイダーだ。だが、「ずっとアウトサイダーではいられない」とMusk氏。たとえばSpaceXではNASA(米航空宇宙局)を顧客とし、GPSサテライトのローンチなどもしている。

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