「アートと科学を融合する」--デジタルマーケティングを強化するアドビの戦略

怒賀新也 (編集部)2013年03月07日 20時24分

 米Adobe Systemsは3月6日、ユタ州ソルトレイクシティで自社イベント「Adobe Summit 2013--the Digital Marketing Conference」を開催している。

 Photoshopをはじめとしたクリエイター向けツール群「Creative Cloud」と、ここ数年で買収したウェブ解析ツール提供の旧Omnitureをはじめとしたデータ分析ツール群「Marketing Cloud」を統合することで、デジタルマーケティングに取り組む企業を支援する。27カ国から5000人の参加者が集まった。

 Adobeのシャンタヌ・ナラヤンCEO。クリエイター向けツールとウェブ解析ツールを連携させ、デジタルマーケティングソリューションの提供に注力する
Adobeのシャンタヌ・ナラヤンCEO。クリエイター向けツールとウェブ解析ツールを連携させ、デジタルマーケティングソリューションの提供に注力する

 基調講演でAdobeのシャンタヌ・ナラヤンCEOは、今後多くの企業が考えるべき基本的な指針として、Engage、Rocket Science、Connect the dotsという3つのキーワードを挙げた。

 1つ目はつながりを意味するEngage。従来、企業は情報発信メディアとしてPC向けWebサイトに意識を集中させていたが、今後はスマートフォン、タブレット、さらには自動車なども媒体として生かす必要があるとする。米Delta航空が、空港のキオスク端末やスマホ、PCサイトなどさまざまな入り口をシングルインターフェースにまとめ、顧客とのEngageを高めていることを紹介した。

 2つ目のRocket Scienceは、複雑に絡み合う大量のデータの意味を解析し、個人の好みに合わせた情報を提供するなど、データの意味を科学的にとらえようとする取り組みだ。「マーケターの肌感覚に意思決定を任せず、データを解析して科学的にやる」のが基本的な心構えという。

野球も科学の集大成

 Adobeのデジタルマーケティングユニット担当上級副社長兼ゼネラルマネージャーのブラッド・レンチャー氏は、「私は昔ピッチャーをしていて、本当はサンフランシスコジャイアンツに入りたかった」と冗談交じりに切り出した。

 レンチャー氏は「バッターなら、ピッチャーの投げたボールの軌道、スピード、回転を考えた上で、スイングしなくてはいけない。小さな球を細いバットで打つということ自体がもともと難しく、うまくやるには“Rocket Science”のようなミリセカンド単位のデータ分析が必要だ」と話し、プロ野球選手が無意識のうちに高度なデータ解析をしていると指摘。野球のたとえ話から、ビジネスの成功にもデータ解析が必要だとアピールした。

「野球の1つ1つのプレーはチェスのように分析が求められる」と話すレンチャー氏
「野球の1つ1つのプレーはチェスのように分析が求められる」と話すレンチャー氏

27製品を5つのカテゴリーに統合

 Photoshopなどのクリエイター向けツール群とデータ解析ソフトウェアを組み合わせる戦略を実現するため、この数年でデータ解析に関連する27製品を統合し、5つの製品カテゴリーに集約した。これにより、一連のストーリーの中に各製品群が位置づけられる形となり、分かりやすくなった印象だ。

 5つのカテゴリーはそれぞれ、アクセス解析ソフトウェアとして知られるSiteCatalystを含めた「Analytics」、コンテンツ管理の「Experience Manager」、ウェブサイトなどでパーソナライズした情報を提供する「Target」、ソーシャルメディア上の会話などがマーケティングに与える影響を把握する「Social」、広告キャンペーンの効果などを知るための「Media Optimizer」(日本ではMedia Manager)だ。

 なお、Adobeはカンファレンス開催にあたり、さまざまな製品アップグレードをした。これらの製品は稿を改めて紹介する。

タブレットのスクリーンバージョンの問題

コンデナストでマーケティング分析を担当するバイスプレジデント、クリストファー・レイノルズ氏
コンデナストでマーケティング分析を担当するバイスプレジデント、クリストファー・レイノルズ氏

 基調講演とその後のプレスセッションに、Adobeのユーザーとして、ファッション誌『VOGUE』や『WIRED』などを出版するコンデナストでマーケティング分析を担当するバイスプレジデント、クリストファー・レイノルズ氏も登壇した。

 出版社として世界に文化を発信するコンデナストだが、インターネットの普及への対応は必ずしもスムーズではなかったという。だが、iPadなどのタブレット端末が登場した時に「タブレットなら雑誌と同じ発想でいける」という話になった。

 広告が収益の柱の1つであるため、広告制作のほとんどは自社で手掛ける。今回、同社はAdobeのツールと連携して、自社が持つ読者データベースを分析し、消費者の嗜好を把握し、その情報を広告サービスを手掛ける企業などに提供するデジタルマーケティングサービスを開始するという。

 レイノルズ氏は現在の課題として、タブレットのスクリーンへの対応を挙げる。タブレットの選択肢は広がっており、スクリーンの仕様もさまざま。「11種類のタブレット端末で5万におよぶパターンがある」ため、スクリーンに最適化したコンテンツ作成が難しくなっている。

 プレスセッションでパネリストを務めたTime Warner Cableのインタラクティブマーケティング担当のバイスプレジデント、ロブ・ロイ氏も「スクリーンの違いにどう対応するかが大きな課題」と話した。その上で、あらゆる端末のスクリーンにレイアウト調整をすることなく、1つのHTMLでウェブページを制作できるレスポンシブウェブデザインの手法を取り入れた広告作成に注目していることに触れた。

Constellation ResearchのRay Wang氏。1月には日本のIT系調査会社であるITRとConstellationの提携を発表した
Constellation ResearchのRay Wang氏。1月には日本のIT系調査会社であるITRとConstellationの提携を発表した

 アドビのこうした戦略をアナリストはどう見ているか。カンファレンスに参加していた元Forresterの看板アナリストで、現在は独立してConstellation Researchを立ち上げたRay Wang氏に聞いた。

 「デジタルブランドの確立が現在の企業の共通した目標になっている」とWang氏。ビッグデータの解析技術の発達やスマートデバイスの普及により、ブランドイメージを高めるためにウェブ上の情報を解析するニーズが強くなってきているという。結果として、デジタルマーケティングの市場拡大が見えてきていると分析した。

 「同じ製品を持つIBMやOracleとAdobeが戦うことになると考えている」と同氏。ブランド価値を考えるにはアナログな感覚が必要であり、その意味で「Adobeがクリエイティブ系の製品群を持っていることには大きな意味がある」と語った。

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