リーチサイトの定義、いまだ定まらず--著作権、法制問題小委第6回会合

 著作権に関わる現行の法制度を議論する、文化庁の文化審議会の法制問題小委員会の2012年度第6回会合が12月13日、開催された。

 2012年度の本小委の中心議題は“間接侵害”。第三者が介在し、間接的に著作権を侵害する行為に対して差し止め請求権を法律で定めるべきか、その場合の対象となる定義や類型が同小委下の専門ワーキングチーム(WT)で検討されてきた。また、その結果を踏まえ、7~9月にわたって権利関係団体を集めて、実状の報告や意見・要望等のヒアリングがなされた。

 前回の会合では、間接侵害の立法化措置の必要性を委員の間で意見交換。議論は積極派と慎重派に二分したが、内容については、さらに整理・検討の余地があり、時間をかけて審議を続けていくべきという声が主流となった。

 今回の会合ではまず、差し止め請求の対象として位置づけるべき間接行為者についてWTがまとめた3類型について委員が意見を交換。3類型とは、(1)もっぱら侵害の用に供される物品(プログラムを含む。以下同じ)・場ないし侵害のために特に設計されまたは適用された物品・場を提供する者、(2)侵害発生の実質的危険性を有する物品・場を、侵害発生を知り、または知るべきでありながら、侵害発生防止のための合理的措置をとることなく、当該侵害のために提供する者、(3)物品・場を、侵害発生を積極的に誘引する様態で提供する者--の3つ。

 具体例としては、(1)は特定のゲームソフトを改変するメモリーカードの輸入・販売業者、(2)は権利侵害が発生し得るカラオケ店に通信カラオケサービスなどを提供するリース業者、(3)は無許諾の音楽ファイルのダウンロードを積極的に呼び掛ける者などが挙げられる。

 3類型について、東京地方裁判所判事(知的財産権担当)の大須賀滋氏は「裁判官側として、規範としての明確性が十分でなく立法化されると、実際の裁判では困ることが出てくると思う。現段階では直接侵害と間接侵害の切り分けが明確ではないので時間をかけて議論してほしい」と要望。また、「“場”という表現は比喩的表現としては理解できるが、条文ではもっと明確な言葉でなければ使えない。もう少し明確化する必要がある」(東京大学大学院法学政治研究家教授・森田宏樹氏)など、明確性に欠くという指摘や、対象を限定するための類型化が対象を広げてしまっている点への危惧が示された。

 後半は、“リーチサイト”について議論。リーチサイトとは、アップロードされた違法コンテンツへのリンクを集めたサイトのこと。リンクサイト自体は著作権を侵害していなくても、違法行為を教唆・ほう助する間接侵害行為として差し止め請求権を認めることが各権利団体から求められている。しかし、その一方で「ユーザーの通常のインターネット利用に重大な影響を及ぼすことになりかねない」(インターネットユーザー協会)、「リンク先が違法である場合にはいろいろな段階があり、線引きが難しい」(日本音楽著作権協会)など反対、慎重派の意見もある。

 WTの座長を務めた東京大学大学院法学政治学科研究科教授の大渕哲也氏は「WTではリーチサイト全体ということであれば、立法化が必要だという意見。ただし、そこに含まれるリンク単体についてはリンクによってダウンロードを伴うか視聴に限られるかなど様態や行為の内容が異なるので個別の判断が必要」と、WTでの検討結果を説明している。

 これを受け、立教大学法学部教授の上野達弘氏は「違法サイトにリンクを貼るというのは正当化できることではない。少なくとも違法サイトであるという認識のもとでリンクされたものに対して差し止め請求できるという考え方であるとは思うが、現状、FacebookとかTwitterとかYouTubeとかでユーザーが自分のお気に入りをリンクしているという状況で、必ずしもリンク先が違法でないという場合もある。検索結果のリンク先に違法コンテンツが含まれているといったこともあり、そうしたものを加えると萎縮効果が大きい。さしあたり個別の規定を設け、一定の条件に差し止め請求の対象になるというほうが無難」と意見している。

 そのほか、「リサーチサイトの定義が非常に広がりすぎていて、言葉の整理をもう少しすべきではないか。個人のブログのリンクやTwitterのつぶやきに対して問題になることはないという点をより積極的に担保していかないと、かなりの萎縮効果になってしまう」(神奈川大学経営学部准教授・奥邨弘司氏)、「立法化するとすれば、差し止めと損害賠償規定が当然必要だが、刑罰はどうするのか?」(明治大学特任教授、東京大学名誉教授、弁護士・中山信弘氏)など、改めて実態の把握と整理を求める声が続いた。

 一方、「法文化する際に、リーチサイトをどう定義するかは、どういう書き方をしても不明確になる恐れがある面は否めない。サイトの内容を見て判断するのではなく、一定の手続きを経ても相手が応じない場合などの手順を踏んで悪質性を確定する方法を用意して、間接侵害の対象か否かを判別するといった少し違った発想で知恵を出していくべき」と松田氏が意見している。

 そのほか「リーチサイトが海外に設置されているものが多いというのであれば、せっかく立法化してもあまり意味がない」(中山氏)、「リーチサイト規制の強制執行が可能なものなのか。相手が従わない場合はどうなるのか」、(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授・村上政博氏)と、改めて議論の原点を問う質問と、今後の課題が示された。


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