間接侵害は違法行為とすべきか--関係団体からさまざまな声が挙がった法制問題小委

 著作権に関わる現行の法制度を議論する、文化庁の文化審議会の法制問題小委員会の2012年度第4回目の会合が9月4日、開催された。利用者が直接的に著作権侵害を行うのではなく、第三者が介在して間接的に著作権侵害に及ぶ“間接侵害”をテーマに、第3回の会合に引き続き、関係団体の代表者が招かれ、ヒアリングが行われた。

 今回発表を行ったのは、日本放送協会(NHK)、日本民間放送連盟(JBA)、日本映像ソフト協会(JVA)、電子情報産業協会(JEITA)、インターネットユーザー協会(MIAU)の3組4団体。前回の会合では、日本音楽著作権協会(JASRAC)など、「間接侵害を違法行為に問える規定を著作権法に明確に盛り込むべき」と主張する関係団体が中心だったのに対し、今回の会合では慎重姿勢を取る関係団体が主流となった。

 日本映像ソフト協会はまず、直接的に権利を侵害する者に対して、行為者に差し止め請求権を行使できると定められている著作権法第112条について「対象者が著作権侵害者に限定されないとの結論を文化審議会報告書において公表することを要望する」としながらも、「立法措置については慎重な対応を要望する」と表明。その理由として、「現行法のもとでも間接侵害も差し止め請求の対象となる見解がある」、「民法にも間接侵害に関する規定がない」ことなどを挙げ、間接侵害も差し止め対象となりうることを公表した上で具体的判断は司法に委ねることを提言した。

 また、JBA知財委員会ライツ専門部会法制部会主査の笹尾光氏は「毎日のように権利侵害に対処するのに追われている」という現状を述べたうえで、2ちゃんねる事件ファイルローグ事件まねきTV事件などの過去の判例を挙げ、「これまでも現行の著作権法のもとで直接行為主体の弾力的な認定によって、個別の事案ごとにケースバイケースで妥当な結論を導き、差し止めも容認してきた」と現状認識を説明。「これまでのところ、間接侵害規定がないために、侵害行為や差し止めが否定されたという裁判例は見受けられない。裁判所の言う“管理性”や“支配性”といった概念については、これまでの判例の蓄積からも一定の相場観がある」との見解を明らかにし、立法措置の必要性については異議を唱えた。また、直接侵害と間接侵害の重複部分を生じさせることにより、利用者の混乱を招くことへの懸念も表明した。

 一方、間接侵害の早急な立法化を求めたのはJEITAだ。JAITA著作権専門委員会委員長の榊原美紀氏は、クラウドやメディア変換サービスの例を挙げ、「現在、多くの判例によって専門家による評釈が乱立している。このような状態が新規サービスに対するちゅうちょや萎縮効果をもたらしていることを認識してほしい。差し止め請求の対象となる間接行為者の類型が立法化されれば、萎縮効果が軽減され、新規ビジネスの推進が期待できると同時に、ユーザーが美術による利便性という利益を享受できる社会を作り出すことに貢献できる」と述べ、間接侵害にあたる行為、対象者を法律により可能な限り明確にすることを求めた。

 これに対して、利用者側の権利団体であるMIAU幹事の相馬拓郎氏は「間接侵害の創設には反対」と真っ向から否定。理由として「これまで日本には間接侵害という概念がなかったことから、著作権の直接侵害者でなくてもそれをなしうる機器や装置を管理・支配し、利益を得るものを侵害行為と認める“カラオケ法理”を用いて直接侵害の範囲を過度に拡張し、疑似的に間接侵害を作り出してきた。このような拡張的・擬制的直接侵害のよって、各種装置やプログラムといった著作物に多少なりとも関わる物品やウェブサイトなどの場の提供において予見可能性の欠如という大きな問題が生じている」と指摘。直接侵害、間接侵害として扱うべきものをそれぞれ明確に分類し、カラオケ法理によって過度に拡張された直接侵害を整理したうえで間接侵害を定義すべきと主張した。また、正当に取得した著作物を個人や家庭内などいわゆる私的利用の範囲内で複製される場合には、権利者に新たな経済的損失を与えることはないとし、個人向けのクラウドやメディア変換サービスは私的利用目的の範囲内での複製にあたり、間接侵害の範囲を過度に広げるべきではないというJEITAと同様の考えを示した。

 前回、日本レコード協会(RIAJ)などが強い危機感の意を表した“リーチサイト(リンクサイト)”の規制については、「リーチサイトと言っても、その形態は多種多様。リーチサイトへのリンク行為はどうなるのか、リーチサイトのURLがSNSを通じて転送された場合はどうなるのかなど予見できない状況が数多く発生する可能性があり、一般ユーザーの活動が委縮されてしまう可能性がある」とMIAUが反対姿勢を示したほか、JVAも「“物品・場の侵害発生を積極的に誘引する態様で提供する者”を間接侵害行為者とした、当小委の司法救済ワーキングチームがまとめた類型に、リーチサイトにおける著作権侵害が含まれるのかが不明。立法化により、その反対解釈としてリーチサイトへの差し止め請求が否定される懸念がある」とし、慎重な議論を求めた。

 これに対して委員からは、「間接侵害とリーチサイトは同列に扱えないのではないか。改正法を適用するか否かの判断は、最終的には裁判所であるということを忘れてはならない」(慶應義塾大学大学院法務研究科教授で弁護士の小泉直樹氏)、「リーチサイトの規制の基準にあたってはメインは盗品等に関するほう助行為にあたるか否か」(本小委主査代理で東京大学大学院法学政治学研究科教授の大渕哲也氏)など、間接侵害の解釈をめぐる議論の原点に立ち返るべきとの意見も上がった。

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