楽天のkoboは本当に挑戦的な価格だったのか? 専門家が分解して調査 - (page 2)

岩佐琢磨 (Cerevo代表取締役)2012年08月10日 13時02分

仕入れ価格は6000円台か? 挑戦的かどうかは意見がわかれる

 さて、これまで挙げてきた主要部品の価格を足し合わせ、組み立て費用やら輸送費やら何やらもろもろのコストを積み上げて原価を推定してみよう。ざっと計算してみると7157円。C/R類など結構高めに見積もってこれぐらいである。簡単に表にまとめてみたので興味のある方はこちらで試算表を確認してみてほしい。


E-Parts想定価格備考
Freescale MCIMX507CVM8B7.92ドル
Sub SoC TI MSP430F22721.8ドル
Wi-Fi Module CyverTan4.8ドル
EPD Module PVI20ドル
LiPo Battery5ドル
DDR Memory3ドル
SD Card4ドル
PCB4ドル
Power IC2ドル
Connectors3.2ドルmUSB、EPD用、MicroSD×2、各0.8ドル
Other small E-Parts13ドルC/Rの類
Mech Parts想定価格備考
Cabinet4ドル
Alloy frame2ドル
Package1.5ドル
Manual0.8ドル
Other fee想定価格備考
Assembly10ドル
Shipping0.2ドル40フィートを1本で30万、50パレ、1パレあたり500個として試算
USB Cable0.6ドル
subtotal87.82ドル
日本円7025.60円

 と、まぁ真面目に積み上げ式で計算したものの、Computex Taipeiなどの展示会に行って、iMX50x系SoCを使ったWi-Fi内蔵、タッチ形のEbookリーダーを展示しているところを探し、1万台でいくら?と聞いてみれば話はとっても早い。だいたいが85〜90ドル付近だねという回答をしていた。10万台時の価格ともなると相手も構えてしまってなかなか価格を言ってくれないので真相は闇の中だが、90ドルよりは安くなるのは確実だろう。となると、まぁ7000円は切ってるんだろうねという読みは当たらずとも遠からずといったところではないだろうか。

 さて、6000円台の仕入れ値だと仮定すると、7980円という価格は挑戦的なのだろうか? これが通常の家電製品同様に量販店中心で扱われるようなら挑戦的な価格といえる。まったく同じハードウェアを家電メーカーが仕入れて通常の店頭流通に流せば1万5000〜2万円前後のメーカー希望小売価格となるからだ。ただ、楽天市場での直販にほぼ限定することで、彼らが対外的に支払うのは200円程度の個別配送費とクレジットカード決済手数料数1〜3%(カード利用者に限る)となる。合算すると多めに見積もっても500円程度で、それでも500〜1000円以上は利益分があると推察できるため、このコストを関連人員の費用とコールセンターの運営費にあてて……という事業計画が見えてくる。チャレンジングな事業ですが端末そのもので赤はだしませんよ、という大変堅実な計画のように感じられるというわけだ。

 もっとも、Koboは一応店頭でも販売しているので、ここのカラクリというか量販店とのマージン率の交渉がどうなっているのかは大変興味深い。だが、ヨドバシカメラとビックカメラでの扱いはポイントが1%となっていること、ケーズデンキとヤマダ電機での扱いがないことなどを鑑みると、通常の家電製品同様の卸率になっていないことは明らかだ。マージン率の推定など具体的な数値はここでは避けるが、定量的な参考数値としてヨドバシとビックが揃って5%のポイント率としているのが、マージン率が薄いとよく噂になるApple製品。同じく卸し値との関係かと推察され、ポイントが安いことで有名な携帯用ゲーム機PlayStation Vitaやニンテンドー3DS LLも揃って5%だ。こう見ると、1%が如何に異常値であるかがわかり、量販店側が業界通例的には「無茶な数字」にOKを出したのだな、と見ることができる。とはいえ、ヨドバシカメラの旗艦店ともいえる秋葉原店店頭を視察してみたところ、45cm台1個でライブモック1台のみ、POPもA4モノが1枚だけでメーカー説明員もなしという状況だったことからも、現時点では店頭に力を入れるつもりがないことがわかる。量販店でも売ってます、と言うことに意味がある場面は多いので、そのために用意したのかな……と邪推してしまうぐらいだ。

真に挑戦的だと感じたところは

 というわけで、7980円の赤字覚悟の大セール価格でEbookの普及に貢献!というわけではなく、端末販売で赤は出さないように堅実に設定した価格、というのが真相ではなかろうか。ただし、家電量販店の物流を介さず配信事業者が端末を直接販売するのがメイン……という方式自体が「挑戦的」であり、結果的に7980円という手ごろ価格を実現できたのだ、とするとそれはそれで間違いではないといえる。米Amazonが5年前となる2007年11月に行ったことのコピーではあるが。

 ……と、まとめてしまいたいところだが、最後に1点だけ。ハードウェアでの事業に携わる身としては、挑戦的だよね、という部分は多いにあると思っている。それは「ほんまに10万台売れるんかい?」という点だ。これは、結論として10万台を初回出荷だけで売ってしまったあとでは何だって言えるのだが、一定台数をコミットして製造しなければ価格が下がらないというハードウェアビジネスの世界に対し、数千台しか売れないかもしれないところを何万台を(恐らく)コミットしたであろう楽天の心意気というか、気合というか、事業計画の立て方と実行力、そしてキーマンである本間さん(楽天執行役員の本間毅氏)の人選はすばらしいものであり、それこそが「挑戦的」であったといえるだろう。

 Koboのソフトウェアとサーバシステムはなかなかによく仕上がっており、国内唯一の「まともにネット連携するEbook」として今後の展開に期待したい。

岩佐 琢磨(Cerevo代表取締役)
松下電器産業(現パナソニック)にてネット家電向けネットワークサービスを得意とした企画屋を2003年から5年ほど担当。DVDレコーダー向け宅外予約サービスを作ったり、同社初のWi-Fi搭載DSCの実現に貢献したり。家電とネットがもっと近付いて、ネット利用者の生活が豊かにになってほしい、との想いのもとネット家電に特化した家電スタートアップ、株式会社Cerevoを起業し代表を務める。中国、台湾をはじめとしたアジアのEMSを活用し、小〜中ロットのネット家電を機動的に生産。日本だけに留まらず北米・欧州などで販売している。H.N 和蓮和尚の名で業界内では有名なBlog『キャズムを超えろ!』を綴り、マニアックな家電ネタを提供し続けている。
※本記事は所属組織を代表したものではありません

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