JASRACとの戦いに敗北した公取委が考えるべきこと

 6月15日付で日本音楽著作権協会(JASRAC)が出したプレスリリース「公正取引委員会の審決について」および同日の会見は、正しく「勝利宣言」であった。2009年2月に独占禁止法違反排除措置命令(私的独占)が出されてから約3年半。公取委審判では異例の「措置命令取り消し」は、文字通りJASRAC側の完全勝利である。

 JASRACがまとめた審決の概要はこちら(PDF)。

 「審決取り消しは公取委としての決定。審査局としては、結果を真摯に受け止める」とは、いわゆる原告の立場で審判を主導してきた公取委審査局の弁。立場としてはあくまで委員会の一部であり、その決定に従わざるを得ないという面もあるためか、本件における反省点を具体的に挙げてもらうことや、JASRACに対し次のアクションを起こすつもりがあるかどうかを明言してもらうことはできなかった。

 13回にわたった審判内容を詳細に見てきたものからすれば、その反省点は明らかである。特に2010年9月に行われた第9回以降については、もはや「審査局調査のずさんさ」を毎回証明していくだけに終始したと言っていい。

 6月12日に公取委から示された審決結果も、およそそれを裏付ける内容が数多く盛り込まれた。最大の争点であった「放送事業者による新規参入管理事業者管理楽曲の利用回避」は「FMラジオ局の自主制作番組に限定する理由に合理性がない」「FMラジオ局以外の放送局が利用を回避した事実を認めるに足りる証拠がない」などと断じられ、唯一「(利用について)慎重な態度をとったことが認められるにとどまる」とされたのみ。

 その慎重になった理由も「主たる原因は新規管理事業者が不十分な管理体制のままで放送利用に係る管理事業に参入したため」と、JASRAC包括契約との関連を否定。放送利用回避を訴えていた楽曲が実は相当回数放送されていたり、新規参入事業者が契約直前の段階でも管理楽曲リストや楽曲利用報告書を明確な形で作成できていなかったりといった事実が、審判の段階でようやく明らかになったことを考えれば、それこそ「真摯に受け止める」しかないというのは自明の理だろう。

 審判中における対応にも不味さが目立った。第10回審判、参考人として出廷した複数の民放局担当者から「(審査局の)供述調書はこちらの説明が十分に反映されていない」と指摘を受けると、反対尋問で「あなたは供述調書をとる際、脅されたと感じた部分はあったのか」といった露骨な印象操作をその都度繰り返した。これが審決にどう影響したのかは不明だが、少なくとも傍聴席で見ていた側には「無理やり供述調書を作ったわけでない、という言質をとるためだけのつまらない法廷戦術」と映った。

 排除措置命令の取り消しは、本件におけるJASRACの勝利を示すものであることは間違いない。一方で、著作権管理団体事業法が施行され音楽著作権団体に新規参入が認められた市場において、依然として既存団体たるJASRACが圧倒的シェアを誇っている状態が「健全である」と言い切るのは早計だ。

 楽曲委託者である権利者にとって、また利用するユーザーにとって「最適な著作権管理市場」とはどのようなものなのか。今回の審決結果は、それを考える機会を永遠に奪うものではない。関係省庁を含む当事者たちが、環境の変化や世論などを考慮に入れながら「最適な市場」を考えていくことは今後も求められ続けるだろう。

 もちろん、その中で公取委が果たすべき役割も残されているかもしれない。「真摯に受け止めた」公取委が、今後も何らかのアクションを起こす気があるのであれば、くれぐれも世間の流れに水を差すだけに終わることのないよう注意を呼びかけておきたい。

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