モルフォの「人類日本人化計画」--スマホカメラの焦点は「色数」

平賀督基(モルフォ代表取締役社長)2012年01月04日 12時00分

 2011年は、iPhoneやiPadに続いてAndroid端末も相次いで登場し、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末が一気に拡大した年だった。国内外問わず、こうしたモバイル端末の機能向上や技術競争は今後さらに激化するだろう。

 そこで、画像処理技術に特化して研究開発主導型の事業を展開しているモルフォの代表取締役社長である平賀督基氏に、モバイル端末のカメラや画像技術の進化や見通しなどについて寄稿していただいた。


モバイル端末カメラ「1兆色」への挑戦

 日本でのケータイカメラの普及は2000年の写メールから始まりますが、それ以降、ケータイカメラの性能向上には目を見張るものがあります。2000年当時、11万画素しかなかった画素数も最近では1000万画素を越える機種も珍しくありません。画素数の向上にともない、オートフォーカス(AF)や手ブレ補正、顔検出、といった技術がケータイカメラに搭載されていきます。

 私たちモルフォが最初に製品化したのは2006年の静止画手ブレ補正技術ですが、それ以来、カメラの画質向上技術を広く展開させてもらっています。

 そんな中、2011年はフィーチャーフォンからスマートフォン(スマホ)への過渡期となり、カメラ機能の性能向上競争が一服した感があります。ただし、中にはフィーチャーフォンのカメラ機能の方がスマホより良いケースもあり、さすがにこれはよろしくないということで、2012年は各メーカーともスマホのカメラ機能に力を入れてくることでしょう。

 カメラや表示デバイスの画質を向上させる重要なファクターとして、解像度や画面サイズがありますが、その中で、まだあまり手が付けられていない領域の一つとして「色数」があります。現在のデジタル画像は1677万色での表現がほとんどですが、人間は1兆色程度まで知覚できると言われています。

 つまり現在のデジタル画像では人間の視覚には不足があるのです。1兆色を表現するためには撮影側も表示側も技術的に超えるべき課題はありますが、「色数」はデジタルカメラやテレビ、スマホ、タブレットなど様々なデバイスを巻き込んだ非常にホットな分野になると思います。もちろん私たちもこの領域にチャレンジしていくつもりです。

国内外メーカーの競争

 スマホやタブレットの普及は日本に限った話ではなく、グローバルで起きている現象です。海外メーカーのスマホカメラも8メガピクセルを超え、一部では裏面照射型CMOSセンサーを使って感度も格段に向上されています。同時にタッチパネルによる大画面化と高画素化も進み、タブレット端末にいたってはHDやフルHDを表示できるものまであります。解像度が上がると「よりきれいな画質」に対する需要は当然強くなるので、スマホやタブレットの画質向上は必須項目です

 日本メーカーは、フィーチャーフォン時代からカメラ機能では先頭を走っており、それはスマホになっても変わらないと思いますが、海外メーカーも猛烈な勢いで追い上げてきています。実際、AppleのiPhone 4Sのカメラ機能はレンズ、センサーの性能向上により画質が大幅に上がり、起動速度などの使い勝手も大幅に向上してきています。

 グローバルで競争がますます激しくなるスマホ業界のなかで、日本メーカーが世界で存在感を示すには、得意とするカメラ機能によって差別化することではないでしょうか。私たちモルフォもそのお手伝いをできれば、と思っています。

ソーシャルフォトのさらなる発達

 ケータイカメラの特徴の一つとして「通信機能」が最初から付いていることがあります。つまり、撮影した写真をソーシャルメディア上で誰かと共有して、コメントやいいね!をしてもらうことが簡単にできます。写メールがケータイカメラ普及の出発点というのも象徴的ですが、デジタルカメラとケータイカメラの使い方の決定的な差がここにあります。画質が良いデジタルカメラは、運動会や入学式などのイベントをきれいに記録する、通信できるケータイカメラは撮影した写真をすぐに他の人に見てもらう、という用途の違いが出てきます。

 近年、スマホになってこの傾向はより強くなってきています。というのも、スマホにはフルブラウザを搭載しており、FacebookやTwitter、mixiなどのソーシャルメディアとの親和性が高いからです。

 さらに、他人に写真を見せるのに一工夫したいユーザーにとって、写真にエフェクトをつけたり、位置情報を付した写真を共有できるInstagramPathSnapeeeといった魅力的なサービスも立ち上がっております。今後も、このようなユニークな新しい写真のサービスが次々と出てくるでしょう。

ベンチャーとIPOの意義

 私がモルフォを立ち上げたのが2004年です。2006年にケータイカメラに手ブレ補正が採用され、ケータイカメラの発展とともに事業を拡大してきました。周囲の方々にも支えられ2011年に無事IPO(新規株式公開・上場)も果たしました。ベンチャー企業の醍醐味は、大企業がやらないような分野を開拓し、やがて世の中を変えていくところにあります。モルフォ設立時には、携帯電話のカメラは「おもちゃみたいなもの」と言われていましたが、現在は高度な画像処理をスマホで行うのは当たり前になっています。

 私たちがやっていることは、当時はニッチでしたし、今でもそうかもしれませんが、新しい領域で新しいことをやるのは楽しいことです。そして事業が拡大していくと、その先にはIPOをするべきか否か、という議論が出てきます。

 モルフォは、IPO審査を通じて社内の管理体制を整備することができましたし、巨額ではありませんが研究開発をする資金の調達もできました。何よりも永続的な事業発展のために、パブリックな会社になるという社会的意義があります。ベンチャー企業で世の中を変えたいと思っている人は、いずれ自分たちの会社がどうあるべきかを考えるときが来ます。その理想を実現するための手段のひとつとしてIPOを考えてもらいたいですし、そうしたベンチャー企業がたくさん出てくることが日本再生につながることだと信じています。

モルフォの向かう先

 ステレオタイプな日本人像で、首からカメラをかけて観光地でやたらと写真を撮る、というのがあります。人それぞれでしょうが、写真を撮ってそれを友達や家族に見せたりすることは、やっぱり楽しいことですよね? その楽しさが、携帯電話やスマホの進歩で世界中の人たちに知ってもらえる環境が整いつつあります。

 モバイル端末の中で画質を向上させることももちろんですし、さらにクラウドと組み合わせれば今までに無い新しいサービスを提供できると考えています。世界中の人が日本人並に写真を撮る、モルフォとしてはそんな「人類日本人化計画」を推進していきます。

平賀督基(ひらが まさき)

モルフォ

代表取締役社長

株式会社モルフォ代表取締役社長。1974年東京都生まれ。1997年に東京大学理学部情報科学科を卒業。2002年、東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻(博士課程)修了。博士(理学)。2004年5月、画像処理技術の研究開発や製品開発を行う株式会社モルフォを設立。モルフォの静止画手ブレ補正ソフトウェアは2006年6月にNEC製携帯電話端末に搭載されたのを皮切りに、国内外メーカーに幅広く採用されている。現在、製品化しているソフトウェアは約20製品。2011年7月、モルフォは東京証券取引所マザーズ市場に上場。
 2008年に「Dream Gate Award」受賞。2009年に「Entrepreneur Of The Year Japan」の「Challenging Spirit」部門大賞を受賞。2010年に日経BP社主催の「日本イノベーター大賞」優秀賞を受賞。

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