アジア全体の電力をつなぐ「スーパーグリッド構想」--孫正義氏が語る

 9月12日、太陽光や風力などの自然エネルギーの普及拡大を目的とした「自然エネルギー財団」の設立イベントが都内で開かれた。イベントの冒頭で挨拶した財団設立者の孫正義氏は、将来的なエネルギーの方向性や2030年へ向けた新エネルギービジョンについて語った。

  • 「自然エネルギー財団」設立者の孫正義氏

 孫氏はまず、過去に起きたエネルギーのパラダイムシフトを振り返った。1970年代、日本のエネルギー源の約7割を石油が占めていたが、1973年に発生したオイルショックにより石油依存からの脱却が求められた。その後、原子力や天然ガスの比率を増やしたことで、2008年時点の日本の石油依存度は当時と比べて約4割減少したという。孫氏はこれを第1のパラダイムシフトだったと語る。

 また政府が策定した「エネルギー基本計画」では、2030年までに原子力発電の比率を53%まで高めるという目標が掲げられていたが、福島第一原発事故によりこれを見直さざるを得ない状況となっていることから、第2のパラダイムシフトが必要だと説明する。

 孫氏は今後のエネルギーの方向性として、(1)地震のリスクなどを鑑みた「原発のミニマム化」、(2)原油の高騰やCO2の削減などによる「火力発電の依存度低下」、(3)再生可能エネルギー買取法案の成立による「自然エネルギーの本格普及」の3点を挙げる。また、2030年には自然エネルギーが約6割を占める時代になると語った。

2030年の新エネルギービジョン

 続けて第2のパラダイムシフトを実現するための提言として、(1)自然エネルギーの普及拡大、(2)電力取引市場の活性化、(3)送電インフラの強化を挙げる。

 まず自然エネルギーの普及拡大については、自然エネルギーの買取価格と期間を世界の常識並みにすることや、発電に必要な用地を確保するための規制緩和がポイントになると説明。また現在は高額な太陽光発電や風力発電も、徐々にコストダウンしていくと予測されていることから、「自然エネルギーは20年単位でみれば最も安いエネルギーコストになる」(孫氏)と語る。

 自然エネルギーの比率が高くなることで重要になってくるのが電力の取引市場だ。日本でも電力小売りの自由化は進んでおり、電力需要量の3分の2が自由化している。しかし実際には既存電力会社の寡占状態となっており、2009年の自由化対象市場の新規参入事業者のシェアはわずか2.8%と1割に満たない。

  • 新エネルギー政策への提言

  • 自然エネルギー普及拡大へのポイント

  • 電力取引市場(自由化対象市場)のシェア

 孫氏は日本の電力取引市場が活性化しない要因として、既存の電力会社が発電だけでなく送電も行っていることで、託送料(送電費用)が高額になっているためと説明。発電部門と送電部門を分離した中立的な立場の送電網が必要だと訴え、託送料の適正化を求めた。

 送電網の強化も課題となる。自然エネルギーは天候によって発電量が変動する。また東京電力と関西電力など各電力会社の送電網が整備されていないため、一方の電力会社の電力に余裕があっても電力が足りない会社に送電することができない。

 そこで孫氏が解決策として打ち出したのが「スーパーグリッド構想」だ。高圧で直流の海底ケーブルを日本海側に引くことで北海道から九州まで送電が可能になるというものだ。「コストは2兆円で済む。原発のほんの数基分のコストで北海道から九州まで電力をつなぐことができる」(孫氏)。

 さらに、将来的にはアジア全体を送電線でつなぐ「アジアスーパーグリッド構想」も考えているという。アジア諸国をつなぐことで、時差や気候によるピークシフトが可能になるほか、国ごとに異なる電気料金を適正な価格にできると説明。そのためにも、既存電力会社を1本化した中立的な運用体制の会社を国が中心になって作っていくべきだとした。

  • ジャパンスーパーグリッド構想

  • アジアスーパーグリッド構想

  • アジア諸国の1kWhあたりの電気料金

 孫氏は、「私が自然エネルギーについて力説すると、ソフトバンクの利益のためにやるんだという見方をする人がいるがいい加減にして欲しい。本来は本業だけに集中したい」と語気を強める。自ら自然エネルギーのモデルケースを作ることで新規参入者が入ってくることを心から願っていると、自然エネルギー事業に取り組む理由を語った。

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