極端な人材こそが価値を持つ時代--古川享氏、夏野剛氏らが議論

永井美智子(編集部)2008年11月20日 21時22分

 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)が研究成果を発表するイベント「SFC Open Research Forum(ORF) 2008」が11月21日から22日までの2日間、六本木アカデミーヒルズにて開催される。前日の20日には、オープニングセッションとして前マイクロソフト日本法人会長で現在は慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授を務める古川享氏、慶應義塾大学大学院の政策・メディア研究科で特別招聘教授を務める夏野剛氏、慶應義塾大学SFC研究所長で総合政策学部教授の国領二郎氏らが、現在起きている世界の変化や今後の活動などについて語った。

 今回のORFのテーマは「clash of eXtremes」。極端なものや人がぶつかることでこそ、価値が生まれるという考えだ。国領氏は昨今の金融危機の状況から、「平均値を見ていてもダメで、極端なことがなぜ起こるのかということを考えたときにこそ、新しい発見があるのではないか」と今回のテーマを選んだ理由を話す。

 夏野氏は慶應義塾大学で「IT革命論」という講座を担当していると紹介した上で、「ここ20年間は世の中の動きが速くなっていて、経営も極端な事態を想定していないとダメと言われる。商品開発もそうで、今のユーザーの平均値に対して“アンサー”などとやっている場合ではない。テクノロジーの限界で何ができるか、この会社の限界値で何ができるか。極端でなければ経営者になれない時代になっている」と古巣のNTTドコモの戦略を皮肉りながら、常識的な行動では企業が競争に勝てないと話す。

 一方の古川氏も、「夏野さんとはお互い、会社を辞めて良かったねと話していた。あのまま続けていたら、自分をアピールしたいときに足かせになっていたかもしれない。本来やりたかったことを原点に戻ってやれるチャンスを慶應にもらった」とした上で、同大学の教授に就任する際の条件が、「企業内でくすぶっている人やほかの大学にいる人と一緒に何かをしても構わない」ということだったと明かした。

 「どうほかの人とコミュニケーションするべきかをわからないまま、起爆剤のようなものを抱えている人が多い。圧力が吹き飛ぶ前に社会とつなぐ役割ができたらと思っている」(古川氏)

 古川氏の目から見ると、同大学には知られていない多くの価値ある研究成果があるのだという。「特許化も記号化もされていないものを鶴岡近辺(※編集部注:慶應義塾大学の先端生命科学研究所がある)で見つけた。何とか世の中にデビューさせて、後押しをしたい」(古川氏)

 米国のStanford大学は特許ライセンスなど知財関連の収入が年間213億円あるのに対し、日本では一番多い名古屋大学でも1億4000万円で、LED関連の特許がほとんどであること、2位の慶応義塾大学も7000万円程度しかないと古川氏は紹介。「賢さでは負けていないと思う。ただ、どう活用するか、社会の人々にどう使って喜んでもらえるかというところが見えていない」と苦言を呈した。こういった隠れた資産の活用や支援を、古川氏は手がけていきたいと話す。

 夏野氏は「授業で一番前に座っている学生の女の子が1990年生まれだった。小学校に入るころには携帯電話がブレイクしていて、中学生になったときはメールをPCやケータイでやるのが当たり前、水のようにメールを使っていた世代だ」と話し、自分たちの常識とまったく違う感覚を持った世代が世の中に出てきていると語った。

 「アベレージ(平均)が存在しないのが現在の姿。そういった状態を直そうとか何とかしようというのではなく、そういうものだと思ってやる、楽しい時代が来た」(夏野氏)として、変わるべきは自らのほうにあるとの考えを示した。

古川享氏と夏野剛氏 古川氏(左)と夏野氏(右)。どちらも慶應義塾大学常任理事の村井純氏に声をかけられて教鞭をとるようになったという

 会場ではこのほか、SFCの「極端」な存在として、総合政策学部長の阿川尚之氏らが紹介された。阿川氏は「最近までケータイを持っていなかった、ある意味エクストリームな存在だ」と笑わせた上で、安全保障などの専門家の立場から現代を生きる上での独自の見解を示した。

阿川尚之氏 独自の見解で会場を盛り上げた阿川尚之氏。エッセイストの阿川佐和子さんは実妹にあたる

 「世界のガバナンスについて考えるとき、2つの立場がある。1つは世の中をもっと良くしていこう、何とか問題を解決しようという立場だ。こうやって現代の人はみんな走っている。しかし、こういうときこそ、走るのを止めたらどうだろうか。過去を振り返って、同じようなことがあっただろうと振り返ってみるのだ。私たちは何とかしながら、その歴史の瞬間を生きている。未曾有(みぞう)の難しさに向かっている、コンテンポラリーという共通点を持っている」(阿川氏)

 さらに、「私にとってSFCほどエクストリームなところはない。プレゼンテーションソフトは使うのを止めたほうがいいんじゃないか。センテンスをきちんと書かない文化というのはどこか欠けている。文章はきちんと書こう。日本語ができないのに外国とか言うのはやめよう。私は誰が何と言おうと、SFCで古典、教養、歴史を教えていく」とIT環境の整ったSFCの教授らしからぬ発言で会場を沸かせていた。

撮影する古川享氏 カメラ好きで知られる古川氏は、壇上から講演者を記念撮影。阿川氏同様、「エクストリーム」な姿を見せた

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