島田昇(編集部)
2008/02/21 01:56
国内の技術系ベンチャーは、球団やテレビ局買収騒ぎで注目された元ライブドア社長の堀江貴文被告に代表される起業家たちが国内外の耳目を集めていた。2004〜2005年のことだ。
それが2006年1月、堀江被告の逮捕をきっかけに、国内ベンチャーに対する世間の期待と評判は地に落ちた。その後、捜査当局の本格的な調査が始まりIT企業の不祥事が多数発覚。ITではなくマネーゲームを軸としたベンチャーが多いとの指摘を各方面から受け、今後は真に技術力を持ったベンチャー企業の登場が望まれる情勢となった。
経済産業省商務情報政策局情報政策課企画官である村上敬亮氏
しかし、村上氏はITのインフラ普及が企業成長をけん引した後となる2004〜2005年から、「ITインフラの普及からITをどう使うのか」というトレンドが表面化してきたと指摘。このトレンドに日本企業、さらには日本の産業構造全体が乗り切れていないことが、米Googleや米AppleのようなITインフラをうまく活用した高付加価値提供かつ業界全体を巻き込めるような軸となる企業が日本に誕生しない大きな理由の一つであるとした。
“ライブドアショック”で帰結した国内のITの話題に隠れ、「思考停止状態」で既存の商習慣から抜け出せていない国内産業全体の問題がIT業界全体における真の問題であり、この論点におけるインフラ分野の問題が「脱インフラ」、マーケティング分野が「脱マスマーケティング」と村上氏は独自の危機意識を説明した。
さらに、ベンチャー企業をサポートするベンチャーキャピタルを始めとした支援層や優秀な起業家や技術者を紹介し合う人材ネットワークという部分においても、日本は米国と比べてその母体が極めて脆弱であると指摘。世界に飛躍するベンチャーの創出には、政策や文化、消費者の意識などビジネスを支えるさまざまな基盤に問題があり、この解決に取り組まなければならない必要性を訴えた。
村上氏が指摘する国内産業構造における問題の一方で、国内ベンチャーの起業家たちの意識や姿勢も大きな問題となる。中でも、「海外に通用するサービスが出てこない」「海外に出て行こうする起業家がいない」という論点は重要。これについて議論したのが、「今必要とされるグローバル・アントレプレナーシップ」と題した対談だ。
LUNARR社長の高須賀宣氏
登壇したのは米LUNARR社長の高須賀宣氏とマイクロソフト執行役で日本・アジア担当最高情報責任者の鈴木協一嚴=B司会は三菱UFJキャピタル投資第6部次長の渡辺洋行氏が務めた。
高須賀氏は東証一部に上場したサイボウズ創業者として知られ、2005年に「世界に通用する企業を本気で作りたい」として同社を退職。2006年にLUNARRを設立した人物だ。一方の鈴木氏は建設業界で技術者として勤めた後、「今後有望なIT業界で尊敬できる技術者と机をともにしたい」と決意して渡米。世界を舞台に技術者、ベンチャー企業への参画を経て、帰国後にマイクロソフトに入社した。
マイクロソフト執行役で日本・アジア担当最高情報責任者の鈴木協一嚴
2人に共通しているのは、世界規模での技術やサービスの存在を意識し、それを扱う本場で自分が活躍する姿に強烈な憧れを抱き、後先を考えずに渡米してしまったことだ。一言で言ってしまえば「勢い」だが、実際に世界を標的とした行動に移すためには、それが欠かせない大切なことだったということだろう。
しかし、海外に出ることだけがすべてではない。そこには当然、メリットもあればデメリットもあるし、海外展開だけが国内ベンチャーに欠けていることではないはず。
「海外に出ることだけがいいことなのではない。本気になって国内でやりたいことがあるのなら国内でやればいい。しかし、実は海外でやりたいという気持ちがあるのなら、それは海外に出なければ駄目。国内と海外、どっちがいいという話ではない」(高須賀氏)。
「例えば、わたしの経験ではロシアの小国に開発を依頼するなど、ITにおいてロケーションは関係ない。確かに、人材の流動性など国内との環境面で違いはあるが、日本の技術は優秀で、世界に通用するものはいくつでもあると見ている」(鈴木氏)。
要は、「海外に出る出ない」の問題が2人を動かしたのではないということだ。グローバルな視点で技術が人の生活を大きく改善するということに畏敬の念を抱き、技術の世界で自分が本気でやりたいことがあれば、その気持ちに正直になり、「海外」という選択肢を消してしまう、あるいは最初からその考えがないことにこそ、今の日本のベンチャー企業の大きな問題があるということだろう。
さらに2人が口をそろえたのは、米国では「皆が楽しんで技術やサービスを開発している」ということ。「俺たちが世界のすべての技術を牛耳っちゃおうぜ!」などと米国の尊敬する技術者たちと語り合ったと鈴木氏。2人の議論からは、海外に通用する技術やサービスを生み出すには、国や人種や文化といった既存の枠組みに捕らわれることなく、純粋に「世界を変える技術」への興味を追求し、その気持ちに正直になることが何よりも重要であることが、浮き彫りにされた。
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