ブランド作りは「相手の脳みそに刻印を押すこと」:BtoBブランド経営セミナーにて

藤本京子(CNET Japan編集部)2004年03月10日 19時45分

 企業がブランド力をつけるには何が大切なのか。企業のブランド構築に特化した支援組織として2004年3月に活動を開始したBtoBブランドセンターは9日、「グローバル時代のBtoBブランド経営」と題したセミナーを開催した。基調講演に立った東京大学経済学部教授の片平秀貴氏は、「BtoB、BtoCに限らず、ブランド作りの基本は、これまでにないものを届けるという“驚き”、顧客にいかに思いを伝えるかという“哲学”、そしておつきあいの後に気持ちよく帰ってもらうという“おもてなし”が重要だ」と語る。

東京大学経済学部教授、片平秀貴氏
 片平氏がBtoB、BtoCに境界はないとしたのは、例えばコンシューマー相手の商品を取り扱う食品メーカーなどでも、直接取り引きを行う相手は流通業者などであるためだ。顧客が企業であってもコンシューマーであっても、ブランド作りにおいては共通部分が多いという。

 片平氏はまず、企業の美学として「やらないことを決めることが重要だ」と語る。例えばDisneyではコンテンツに暴力、セックス、ドラッグを一切禁止していることや、ホテルオークラのロビーではコーヒー1杯でさえ販売行為を行わないといった理念を保っていることを例にあげる。この企業理念が顧客に企業イメージとして伝わり、それがブランドにつながるというわけだ。

 片平氏はさらに、顧客に驚きを与えるにはイノベーションが大切だと述べ、DisneyがImageとEngineeringを組み合わせた「Imagineering」を実践していると説明する。同社は現在、最先端ロボット研究者を集め、本格的な恐竜のロボットを開発しているのだという。「Disneyでは、自分にしかできないことを持っているか、リスクを取ることができるかを重視している。例えば同社は最初に映画を作るときにスタジオ用のビルを建設したが、スタジオだというのに数多くの部屋をつくり、映画が失敗した場合は病院として売りに出そうと考えていた」と、同社がいかにリスクを冒して映画に取り組んだかを述べた。

 また片平氏は、ブランド作りにおいては顧客の脳みそに刻印を押すことが大切だと述べ、「顧客の悩みを理解し、陰で手を差し伸べる。それを継続することで相手の脳みそに自分の存在を刻みつけることができる」と説明する。同氏は、花王の営業社員がドラッグストアに対して季節ごとに棚割りの提案書を持っていったという実例を紹介し、「自社製品を売り込む営業そのものよりも、このようにおせっかいとも思えることで顧客の悩みを解消している。顧客の期待以上のものを提供し、しかもそれを継続することで刻印を押すことができる」という。

 BtoB、BtoCに境目はないとする片平氏だが、ビジネス顧客の場合は1点だけ異なる部分があるという。それは、コンシューマーの場合は購買決定権が個人個人に与えられているが、ビジネス相手の場合は決定権を持つ人が限られているということだ。そのなかで「誰に訴えかければいいのか、それを見極めることも重要だ」と片平氏はいう。「キーパーソンを見つけ出し、その相手に対して積極的にアプローチする。ビジネスには真面目さも重要だが、インテリジェンスも必要だといわれるのはそのためだ」(片平氏)

Intel Inside実現までの道のり

元インテルジャパン会長で現在はモバイル・インターネットキャピタル社長の西岡郁夫氏

 後半のパネルディスカッションでは、自らがブランド構築に関わった経験を持つ元インテルジャパン代表取締役会長で現モバイル・インターネットキャピタル代表取締役社長の西岡郁夫氏などが加わり、ブランドづくりにおける体験談などを語った。いまや誰もが知るキャッチコピーとなった「Intel Inside」だが、これが日本のテレビCMとして受け入れられるには、いくつもの山があったようだ。

 まずインテルは部品メーカーであり、直接同社の顧客となるのはパソコンメーカーなどの企業が相手だ。その部品メーカーが顧客であるパソコンメーカーに対して宣伝するのではなく、直接エンドユーザーに語りかけるという点からも、インテルの宣伝手法は異色だ。これはパソコンメーカーにとって面白い話ではない。しかしインテルは、パソコンメーカーの宣伝費を一部負担し、同メーカーの製品の中にインテル製品が入っているとする共同宣伝を提案、パソコンメーカーの同意を得てIntel Insideキャンペーンは実現した。

 こうしてパソコンメーカーの承諾は得たものの、「1コマのテレビCMで2社の製品を宣伝するとなると、今度は広告代理店が納得しなかった」と西岡氏。広告代理店の主張は、例えばNECのパソコンにインテル製品が入っているというCMは、松下の冷蔵庫の中にアサヒビールが入っていると宣伝するようなものだ、ということだった。そこで西岡氏は、「アサヒビールは一般消費者が小売店で買えるものだが、インテル製品は小売店で買えるものではない」と主張し、相手を納得させたという。

 その後、このCMが大成功を収めたのは周知の事実だが、「これを過大評価すべきではない」と西岡氏は警告する。「インテルの本来の強みは、圧倒的な生産能力にある。何億個にもおよぶマイクロプロセッサを生産する能力は、(競合の)AMDなどにはないすばらしい能力だ」とし、宣伝広告だけがすべてではないと語る。

 前半の基調講演で片平氏は、ブランド形成には必ずそのブランドやサービスに名前があることが重要だとし、ネーミングの大切さを述べていた。ネーミングの良し悪しが成功につながるのでは、との意見もあるが、西岡氏は「名前そのものは何でもよい。品質のよいモノ、サービスを提供すれば、その名前がよく聞こえてくるものだ」と語り、本質あってのブランドだという点を強調した。

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