グーグルが広げる携帯電話の可能性--Andoroidファーストルック

清水亮(ユビキタスエンターテインメント)2007年11月13日 20時21分

 Googleの携帯電話向けプラットフォーム「Andoroid」の開発ツール(SDK)が米国時間11月12日に公開された。Linux OSのカーネルを利用し、Javaプログラムでアプリケーションが開発可能というこのプラットフォームの魅力はどこにあるのか。

 NTTドコモ向けの多人数同時参加型ゲームアプリ「メルルーの秘宝」の開発元で、携帯電話向けJavaアプリの開発に詳しいユビキタスエンターテインメント代表取締役社長の清水亮氏に聞いた。清水氏はブログ「港区赤坂四畳半社長」の著者で、「shi3z」というハンドル名でも知られている。


 Androidは予想以上に興味深いアプリケーションプラットフォームになりそうだ。これはJavaのMIDP(Mobile Information Device Profile:Sun Microsystemsが定める携帯電話向けJavaの標準規格。au、ソフトバンクモバイル、ウィルコムが採用している)やBREWと比較されるべきものではなく、Googleの主張する通り、SymbianやLinux、Windows Mobileと比較されるべきものだろう。

 僕がAndroidを評価できると思ったポイントはいくつかある。Javaを中心としていること、データベースを内蔵しているということ、そしてバックグラウンドプロセスが作成可能なことの3つだ。

 まず1つは、Javaを中心としたフルスタック構成であるということ。Eメールクライアントやカレンダー、ブラウザなどのアプリケーションはすべてJavaで書かれている。これはNTTドコモとSun Microsystemsが共同で行っているJavaプラットフォーム開発プロジェクト「Star Project」で目指す形に近い。

 Androidでは電話機能そのものですら、Java VM上で動作するようだ。この点は新しい。

 2点目としてSQLiteのようなデータベース管理システムを内蔵している点も秀逸である。

 僕は以前から携帯電話に汎用的なデータベースを内蔵すべきだという主張をしてきたが、それを初めて本格的に導入したのがAndroidと言えるだろう。

 携帯電話のような操作の限られたデバイスは、ファイルシステムよりもデータベースの方がより扱いやすい。画面が小さいため、ユーザーから見ればデータを探す際にディレクトリ構造で探すよりも検索したほうが早い。実際、PalmなどのPDAではかねてからデータベースが内蔵されてきた。

 また、データ構造があらかじめ規定されていれば、アプリケーション同士を協調させることも容易になる。

キャリアの「聖域」にも手を伸ばせるように

 そしてAndoroidで最も重要なのはバックグラウンドプロセスの可能性だ。Androidでは、

  • フォアグランドプロセス
  • 可視プロセス
  • サービスプロセス
  • バックグラウンドプロセス
  • 空プロセス
という4つのプロセスの分類がある。

 従来、携帯電話アプリの世界ではセキュリティ等の観点から、バックグラウンドで常時動いているようなソフトウェアをWindowsやMac OS Xのように自由に開発することは不可能だった。それがアプリの可能性を狭め、拘束していたことは間違いないだろう。

 バックグラウンドプロセスの活用によって、従来は夢想するしかなかったリアルタイムノーティフィケーション(即時通知)が可能になる。

 本来、携帯電話の持つ可能性の最大値はこのリアルタイムノーティフィケーションにあり、僕はこれを活用したコンピューティングを「アテンションコンピューティング」と呼ぶことにしている。携帯電話が出現して初めて登場した、新しい概念だ。

 携帯電話は他のどのコンピュータとも違い、人間が常に電源を入れたまま持ち歩き、サービスの側から任意のタイミングでメールを送ってアテンションを引きつけることができる。

 ただし従来の携帯電話ではメールを送信するくらいがせいぜいだった。この部分は通信キャリアの持つ聖域(サンクチュアリ)であり、端末メーカーとキャリアの意に背くような使い方はできなかった。

 Androidによってバックグラウンドプロセスが実現したことで、初めてアテンションを本格的に活用したサービスが提供できるようになる。これは携帯電話の登場以来、ずっとアテンションサービスを提供してきた僕などにとってはとても歓迎すべき事態だ。

 まだSDKをインストールして、ドキュメントを10分ほど読んだだけなので今解るのはそんなところだが、この新しいプラットフォームは、単にWindows MobileやSymbianの代替ではなく、携帯電話というサービスプラットフォームに新たなサービスパラダイムをもたらす可能性さえ秘めていると評価できる。

清水亮ユビキタスエンターテインメント
代表取締役社長

1976年新潟県長岡市生まれ。1998年から1999年まで米MicrosoftでゲームSDKの開発と普及活動に関わる。1999年9月のCESA DEVELOPERS CONFERENCEの立ち上げを経て、11月にドワンゴにて携帯電話コンテンツ事業を立ち上げる。2002年、日本人として初めて米国ゲーム開発者会議(GDC)のモバイルトラックでスピーチを行い、それをきっかけに渡米。米DWANGO North Americaコンテンツ担当副社長を経て、2003年ユビキタスエンターテインメントを設立。2004年情報処理推進機構(IPA)未踏ソフトウェア創造事業において次世代文章アプリケーションプラットフォームの研究開発を行い、2005年天才プログラマー/スーパークリエイターに認定される。 2006年、同研究に基づく独自のコンテンツ管理システム「ZEKE CMS」を考案し、製品化した。著書3冊。

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