米国では合法化の動き--個人間の宿泊仲介「Airbnb」(後編)

 前編では、サンフランシスコなどでAirbnbを合法化する条例が通過した動きを紹介した。Airbnbは日本では「空き部屋シェアサイト」とうたっているように、そもそも自宅の一部を貸す「シェアリング」として始まったのだが、サンフランシスコでは「まるまる貸切」物件は掲載物件の3分の2にのぼる。「たまに自宅を貸す」はずが、半年以上賃貸に出されている物件による売上が売上全体の4割近くにのぼっている。筆者はつねに貸切物件しか検索しないが、各国各市を見てもまるまる貸切件数の方が圧倒的に多く、Airbnbが主張する「自宅の部屋貸しが87%を占める」という数字はあり得ない。

 ニューヨークではAirbnb掲載物件の3割が複数の物件を掲載する貸し手によるものであり、何十軒という物件を掲載している管理会社もある。売上の4割近くが6%の貸し手によるものであり、5年で680万ドル売り上げた業者もいるという。なお、新条例施行後、サンフランシスコでは、複数物件の掲載は違法となる。

 個人間のシェアリングであるはずが、昔からあるバケーションレンタル的な物件が多く、また個人を装った違法業者や初めから短期賃貸目的で不動産を購入するセミプロのような人たちが金儲けに利用する場ともなっているのである。

個人事業主間に募る不公平感

 こうしたシェア型ビジネスは、既得権者や既存の仕組みを破壊するヒーローのように描かれることが多い。現実には、やはり個人経営であるB&B(民宿のような小規模な宿泊施設)経営者の場合、衛生や安全面で各種法律の遵守を強いられる。しかし、流行の「シェアリング」という名がつけば宿泊施設を一定の水準に整えなくてもよければ、宿泊税や売上税も払わなくていいのだから、同じ個人事業主の間でも不公平感が生じている。

 州や自治体だけでなく、連邦公正住宅法など連邦政府の法律にも従わなければならない長期賃貸物件の大家らに関しても同様である(米国では賃貸物件の有料登録、定期的検査を義務付けている州や自治体は数多くある)。賃借物件を大家に内緒で短期賃貸し、入居者が賃貸契約違反で大家から提訴されるケースも出ているが、違反に対し罰金を課せられるのも、宿泊者に何かあったときに訴えられるのもオーナーであり、オーナーは知らないうちに、とてつもない賠償責任を負わされているのである。

 ニューヨークやサンフランシスコのように家賃が恐ろしく高い都市では、自治体によって家賃制限が設けられている地域があるが、市場相場より格安の家賃で借りている物件をAirbnbで市場価格で貸し出し、利ざやを稼いでいる入居者もいる。

 サンフランシスコで新条例が通過した後、バケーションレンタル広告サイトのHomeAway(本社:オースティン)が条例施行の阻止を求めて市を提訴した。新たな条例はAirbnb(本社:サンフランシスコ)のために作られたものであり、HomeAwayの顧客である別荘(セカンドホーム)を丸ごと貸している人たちは違反者とされ、不当に差別されるという理由だ。HomeAwayは物件を掲載するだけで仲介はしないため、宿泊税を徴収することもできない。両社は、州上院選で、それぞれに有利な法律を擁護する候補者に献金をして支援していた背景がある。

 また、身障者の団体では、Airbnbが虚位の物件掲載をし、米国障害者法に違反していると連邦政府やニューヨーク州政府に調査を依頼している。バリアフリーと掲載しながら、宿泊客が物件に着いてみると階段しかないなど、宿泊費を支払ったにもかかわらず宿泊できないケースが出ているからだ。Airbnbの立場は一貫して「仲介者」であり、掲載情報の責任はあくまでも貸し手にあるとしている。

 煙感知機など最低限度の安全設備すらない短期賃貸物件もあり、いったん人身事故が起きれば、結局、法律で縛られることになるだろう。「シェアリング」だからといって野放しというわけにはいかず、現在、ロサンゼルスなど他の都市でも一定の規制が検討されており、今後、同様の形での合法化が広がると見られる。

影響を受ける第三者--“利益”の衝突

 家賃が高い地域ではとくに、低所得者住宅支援団体も短期賃貸には反対を唱えている。短期賃貸物件が増えて長期賃貸物件が減れば、家賃の高騰につながるからだ。彼らは、地域自治会やホテル業界の労組とともに、サンフランシスコの新条例をさらに厳格化し、Airbnbがこれまでに支払われるべきであった宿泊税2500万ドルを支払うよう、呼びかけている。

 賃貸物件が売春や乱交パーティに使われるといったケースも生じており、隣人が物件を短期賃貸して、海外からの旅行者に入れ替わり立ち代り出入られて不安を感じる住人がいるのは無理もないだろう。ニューヨークでは、ビルの6割が、半年以上、短期賃貸として使われているアパートもあり、ビルの入口の鍵やセキュリティコードが不特定多数の宿泊客らに渡されることに対し、住人らは反発している。

 こうした背景から、新しい経済の形としてもてはやされる「シェアリングエコノミー」に対し、最近は批判も出てきている。シェア型ビジネスの長期持続には、恩恵を受けるサービス提供者と受給者だけでなく、それによって影響を受ける第三者の権利も考慮される必要があるだろう。「自分たちが儲かればいい」「自分たちが節約できればいい」では、第三者の権利を守るために規制が加えられても仕方がない。

有元美津世(ありもと みつよ)
大学卒業後、日米企業勤務を経て渡米。MBA取得後、独立。16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。現在は投資家。在米26年。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』(ジャパンタイムズ)、『図解米国のソーシャルメディア・ビジネスのしくみ』(あさ出版)、『英語でもっとSNS! どんどん書き込む英語表現』(語研)、『英語でTwitter!』『プレゼンの英語』『面接の 英語』(ジャパンタイムズ)
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