第6回:全部署・全社員を巻き込めるかが成否を握る

三宅隆之(インテグレート)2013年05月01日 12時27分

 前回前々回と、以下の2点を説明しました。

  • 潜在需要を喚起するために、生活者の深層心理を見つけていく“インサイト探索”が必要であること
  • その重要なポイントとして
    ◆「買う時の“論理”(商品特徴)」だけでなく「買う時の“感情”(購入時 の生活者の思い)」にも着目すること
    ◆「カテゴリー内商品だけを競合と見るのではなく、“生活者視点”での競合」 を想定すること

 今まで説明してきた通り、マーケティング(=自社商品の売り上げ拡大)を成功させるのに「生活者(商品を買ってもらいたい人)」のインサイトを把握することは、非常に重要です。しかし、この把握した「生活者インサイト」を活かし、マーケティングを実際に機能・成功させるには、この連載のテーマでもある「関係する社内の全セクション・全社員を巻き込んだプランニング」をしていくことが不可欠と私は考えています。

 この仕事をしていて感じるのですが、メーカーをはじめとする日本の企業は、縦割りの組織になっていることが多く、同じ企業に所属していても、他部署との接触が極めて薄い場合がよくあります。当社の場合、事業部、商品開発部、宣伝販促部といったセクションの方から相談を受けることが多いのです。しかし彼らはモノづくりの原点であり、その企業の研究や技術の粋が詰まっている研究所や、売り場のコントロール権を持つ流通の意向をもっとも熟知している営業部との距離が遠いケースがよく見られるのです。

 このような状態は、マーケティングの実行において大きなリスクを抱えることになります。今まで私が見聞きしたケースでいけば、事業部と研究所のコミュニケーションが不十分だったため、実施直前で「マーケティング部が研究情報を捉え違えていた」ことが発覚し、コアの部分のプランニングの修正ができず、結果キャンペーンが中止になったというケースがありました。

 一方、営業部とのディスコミュニケーションでは、直前になって営業部から「こんなマーケティングプラン、現場では実施できないよ」という反発を受けるのはもちろん、場合によっては営業部独自の店頭販促プランが並行して進んでしまっていたというケースも耳にしたことがあります。

 マーケティングプランがいかによくできていても、このように「社内の関係各所」との連携ができていなければ、それは実施・運用できない「絵に描いた餅」にすぎません。本当に機能するマーケティングとするためにも、生活者だけでなく「社内の関係各所のインサイト」を把握し、プランニングに反映していくことは不可欠だと思っています。

 このような事態をさけるためにできることは、当たり前のことですが、主管部署(例えば事業部/宣伝販促部)だけでプランをするのでなく、初期仮説でいいので関係各所が登場する「マーケティングの全体像」を早めにつくり、他部署の方とのディスカッションを持つことに尽きると思います。

 「まだ仮説なので、いろんな方々のご意見を頂きながら、詳細を詰めたい」という意図を伝えながら各セクションのキーマンに打診し、ディスカッション、ブラッシュアップを重ねるというプロセスが非常に重要なのです。ただ当たり前のようなこのプロセス、日本の企業では難しいケースも多々あるらしく、私達のような外部コンサルタントが依頼するので、担当者としては「嫌々その機会を設ける」ということも、ままあります。

 しかし今までの経験からも、一度この「社内・関係各所のインサイト」を把握しようとし始めると、事態が急速に成功に近づいていくケースが多々あります。

 ある健康食品メーカーとのプロジェクトの場合、その食品素材の効果を証明する実証実験がどうしても欲しいということになり、我々の依頼主だったマーケティング部長から、研究開発所長にアプローチしてもらうことがありました。そのマーケティング部長曰く、研究開発所長は実は同期入社で、20年以上一緒の会社にいてお互い要職にあるのですが、自社の研究開発について、きちんと話をしたことが一度もなかったそうなのです。

 ですから、そのマーケティング部長としては「どんな反応をされるか」とおっかなびっくりだったのですが、当社とマーケティング部長とで研究開発所長に実証実験の話を持っていったところ、開口一番「こんな機会を待っていた。ぜひやりたい!」という反応があり、その後は2時間にわたってその企業がもつ研究ストーリー(マーケティング部長いわく「一度も聞いたことのない話」)が披露され、実験実施も一気に話が進んだことがあります。

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