いよいよその時が…VRがもたらす世界

上床光信(カドカワ マーケティングセクションマネージャー)2016年10月24日 13時00分

 ついに、10月13日に「PlayStation VR」が発売されました。これから年末に向けて、VRの話題は今まで以上に盛り上がっていくことになるでしょう。

 しかし、一方で、普及はどのくらいまで進むのか?どこまでユーザーに根付いていくのか?対応するVRコンテンツに大ヒット作が生まれていくのか?…などと、「話題としての盛り上がり感」と「どこまで実際のマーケットの形成ができるのか?」は、やはり別の問題のような気がします。

 では、「VR元年」というものは本当に到来するのでしょうか?

 前回のコラムでは、この問いに関して「もはや、VRの流れは止めることはできない」とお伝えしました。

 なぜなら、VRの後には、AR、MR、AIといった技術が控えており、VRは今後も大きく進化していくことが予想されること。

 さらには、HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)という視覚系のVR機器にとどまらない触覚や力覚など、よりさまざまな感覚を駆使した「マルチモーダル・インターフェース」がすでに存在しており、これらを取り込んだ大きな波こそが、VRの今後を見定める上での本質だからといった理由でした。

 「VR元年」という意味では、今後に続く一歩を確実に踏み出したといってよいでしょう。

 ところで今回は、前回言及した「AR、MR、AI」を一旦外し、HMDに特化した視点で、VRというものを改めて読み解いていきたいと思います。

 現状のVRのトレンドを分析していくと、大きく2つの要素が見えてくるようです。

(1)現状HMDはおおまかに、専用型とスマホ型の2つのタイプに分類できる。

 先日のGoogle社の新製品発表会では、スマホを利用した「DayDream View」を発表していました。

 このようにスマホを利用したさまざまな「モバイルVR」というものが1つのグループを形成しています。

 これらスマホ型は、「PlayStation VR」や「Oculus Rift(オキュラス・リフト)」などの専用型と比較した際、手持ちのスマホを利用し、新たな投資を最低限に止めることによる圧倒的な導入コストの低さから、マーケットの拡大の大本命として注目されています。

 例えば、中国版の東京ゲームショウといわれる、7月に上海で開かれたチャイナジョイでは、ありとあらゆるアイデアによってひねり出したモバイルVRコンテンツが所狭しと展示されていました。

 また、日本でも、スマホに段ボール製のビューワーを組み合わせた「モバイルVR」に、ソフトはスマホアプリで供給するというスタイルが定着してきており、地上波CMなどでも大々的に展開しているタイトルも出てきています。

 ※スマホ型VRのケーススタディー

 コンテンツ企業側にとっても参入障壁が低く、この混沌とした世界からキラーコンテンツが出てくると専用型のプラットフォームもうかうかはしていられません。

(2)VRの登場は「映像の進化」と「CPUの進化」を後押ししている

 VRの登場と共ににわかに注目を浴びてきているキーワードに、HDR(ハイダイナミックレンジ)というものがあります。

 HMDでVRコンテンツを楽しむ上で懸念されているのが3D酔いというものですが、よりリアル感が増すことによってこれを軽減し、快適なVR体験を得ることができるようになります。

 高画質画像というのは、「解像度」と「フレームレート」そして、「輝度」という3軸のバランスで成り立っています。その中の「輝度」という項目に対応しているのが、いわゆるHDRというものということになります。

 11月に発売予定の「PlayStation 4 Pro」が、HDR対応とうたっているのも記憶に新しいですが、このような専用型のHMDは、この3軸の高次元でのバランスが売りであり、スマホ型と比べた場合との体験クオリティーの差が大きいことも事実です。

 そういう意味で、「PlayStation VR」と「PlayStation 4 Pro 」の上で稼働するVR世界が、体験すれば2度と戻れなくなるようなものなのであれば、今後も着実に市場を広げていくことになると思われます。

 さらに、実はこのVR業界に対して、CPUメーカーが大きく注目しているのです。「解像度」と「フレームレート」そして、「輝度」の実現。さらには、VR空間を創り出す、360度のリアルタイムレンダリングを可能にするのは高性能CPUが存在するからこそだといえます。

 CPUメーカーのロードマップには、このVR業界の成長が織り込み済みなのです。VRの登場は、映像とCPU業界に新たな活躍の場所を提供しているというわけです。

 いかがでしょうか?

 VRは、ローテク、ハイテクの両極から攻めてきます。また、周辺産業成長誘因にもなっているということを記憶していただければと思います。

 最後に、VRがもたらす、今後予想される世界の一例として「メディアの変革」を挙げておきます。

 実は、VRという世界は、現在一般的な通常のTVモニターでは表現しきれません。VRで見えるものや、VRで体験できるものは、VRモニターを通してしか正確には伝わらないのです。

 今後、VRコンテンツが普及していった場合、メディアのVR化も否定できません。例えば、VR録画されたものが、VR再生されるVRTVが登場し、YouTubeなどの動画サイトのプレイ動画も、HMDを装着して見る日が来るかもしれません。

◇ライタープロフィール
上床 光信(うわとこ みつのぶ)
カドカワ株式会社 マーケティングセクションマネージャー。
「ファミ通ゲーム白書」の編集長として10年間務めた後、現在はエンターテイメントマーケティングのeb-i事業を推進中。ゲーム業界、エンタメ業界のマーケットアナリストとして業界の前線を走り続けている。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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