社会的インパクトとNPOの成果

長浜洋二(NPOマーケティング研究所)2015年11月12日 06時30分

 2015年は、NPOをはじめとするソーシャルセクターにおいて、「社会的インパクト」がキーワードになっている。評価と証拠に基づく政策形成を提唱する「国際評価年」であることに加え、9月の国連総会では「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」が採択された。

 また、G8社会的インパクト投資タスクフォース国内諮問委員会が、社会的インパクト投資を日本で推進する上での課題と施策をまとめた報告書を公開。さらに、「社会的インパクトとは何か―社会変革のための投資・評価・事業戦略ガイド」と題する書籍が刊行されるなど、ソーシャルセクター全体で社会的インパクト、つまり事業の結果の先にある成果とその評価が大きな注目を集めているのだ。

 一般的に、企業における成果とは何かと問われたら、ほぼ全員が「売上や利益を上げること」と答えるだろう。もちろん、売上や利益を上げることだけが企業のミッションではない。仕事を通じて従業員に様々な社会的・個人的な体験をさせること、従業員に一定の生活基盤を提供すること、地域に雇用を創出すること、国の税収へ寄与することなど、様々なゴールはある。

 しかしながら、売上や利益は、社会のだれもが最も理解・納得しやすい尺度といっても過言ではないだろう。企業の社長は、自社のビジョンや具体的な事業内容を語りながら、売上や利益の目標金額を宣言し、株主総会などを通じてその進捗・達成状況を報告する。

 最終的に目標を達成した場合には、単純に言うと、会社に対する評価や株価は上がるだろう。逆に、目標を達成できず、その理由に妥当性がないと判断されれば、株価は下がり、場合によっては社長を含む経営陣が退陣するということもありうる。

 一方、NPOにおける成果とは何だろうか?経営学者のピーター・ドラッカーは、「NPOは自らを定義する(self-defining)組織である」と述べている。つまり、良くも悪くも、NPOをはじめとする公益組織は、何(成果)を、どのような手段で、いつまでに、どの程度まで達成するのかを自分で決め、それを社会に伝え、共感と納得を得なければならないということだ。

 ここでいう納得とは、単に「良い活動ですね」と感じてもらう、知ってもらうだけでなく、働きかけた人の意識や行動を変えることを指す。 つまり、この意識や行動の変革がNPOの成果だ。

 とかくNPOは、社会に良いことをしているという“善意”の有無に関心が集まりやすいため、その先にある成果について問われることはあまりなかった。しかし、個人や地域、社会に対して、どれだけ新しい価値観や体験、ライフスタイルなどを創出することができたのか、もしくは社会に蔓延する課題がどれだけ改善されたのかによって判断されなければならない。

 ドラッカーは、NPOの自己評価のために5つの質問を投げかけている。

  • われわれの使命は何か?
  • われわれの顧客は誰か?
  • 顧客は何を価値あるものと考えるか?
  • われわれの成果は何か?
  • われわれの計画は何か?

 なかでも、成果については「NPOなどの非営利組織の成果は常に組織の外にある」と述べ、ミッション達成に向け、何が価値あることかを判断し、成果を得るために、資源を集中させることの必要性を説いている。

 確かに、企業における売上や利益のように誰もが理解しやすい共通の物差しはない。しかしながら、事業の対象である個人や地域が何に価値を置いているのか、どのような生活上の課題を抱えているのかという実態を把握したうえで、ニーズや欲求を満足させるような事業を展開していく、という一連のプロセスは本質的には企業と同じだ。顧客満足の追求は、成果の定義が難しいNPOにこそ必要な視点だろう。

◇ライタープロフィール
長浜 洋二(ながはま ようじ)
NPOマーケティング研究所 代表。富士通勤務の傍ら、NPOマーケティングで社会を変える!『草莽塾』の主宰をはじめ、コンサルティングや講演活動を行う。米国にて公共経営学修士号を取得後、非営利シンクタンクでロビーイングやファンドレイジングなどに従事した経験を持つ。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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