「マーケティング」と「報道」をつなぐ戦略PR--広告排除からPR発想の“つながり”へ

本田哲也(本田事務所代表取締役)2015年08月12日 16時28分

 いわゆるステマ(ステルスマーケティング)やノンクレ(ノンクレジット広告記事)の問題がなかなか鎮火しない。

 先日は、「いよいよヤフーが排除に動いた」と大きな話題になった。排除宣言との関係はともかく、実際にヤフーは「Yahoo!ニュース」の一部のニュース提供社との契約を解除した。

 この手の話はここ2~3年続いているわけだが、今年の3月にJIAA(一般社団法人日本インタラクティブ広告協会、旧インターネット広告推進協議会)がネイティブ広告の推奨規定を策定してから、よりすったもんだが具体化してきている印象だ。

 要は(大きなマーケットとなる)ネイティブ広告の定義の問題であり、さらにその上位概念にはブランドジャーナリズムという考え方がある。つまるところ、どうしたら企業は生活者や世の中と「自然に」つながれるか、受け入れてもらえるか、ということである。ブランドや商品の良さを打ち出しながら、だ(ここが難しいわけだが)。

 ところで、「戦略PRとは、『マーケティング』と『報道』をつなぐプロセスである」とある講演会で話し、ついでにソーシャルメディアでもつぶやいたところ、意外にもけっこうな反響があった。

 企業の営利活動であるマーケティングと、報道という社会システムを成立させているジャーナリズム。このふたつは異なる目的のもと、異なる人種が従事し、互いにあまり交わることなく存在してきた。

 マーケティングは近代経営を代表する概念であり、ジャーナリズムもまた、近代社会になくてはならないファンクション(機能)だ。これをつなげるところに、戦略PRの本質的な価値がある。「商品の広告をメディアに出稿する」という「取引」を超えた価値を生み出して、はじめてPRの成功だと言えるのだ。

 番組や記事によるPR露出、それを見てたくさんの人が動く――こうした成果は結果論である(もちろん企業が求めるのは結果なわけだけれど)。本質的な成果は、ブランドや商品と社会を結びつけたこと、商品の持つ社会的なポテンシャルに気付けたことだ。そして、このつながりこそが、「新しい時代のプロセス」なんじゃないか。

 ブランドジャーナリズムしかり、ソーシャルメディアによる高度な情報社会を背景に、マーケティングもジャーナリズムも従来の姿を変えようとしている。これは世界的な潮流だ。

 日本におけるステマやノンクレの騒動を見ていると、潜在的にネガティブなパワーが増幅しているようで気にかかる。もちろん、排除されるべき、撲滅されるべき対象はあるだろう。そもそも企業や読者のリテラシーだって試されている。しかし、この「新しいプロセス」は、本来メディアにとっても企業にとっても生活者にとっても、みんなに有益な未来を示唆しているはずだ。近未来の情報消費の姿だ。

 「安価な広告」に始まり「空気をつくる」まで、PRもいろいろ言われてきた。「(メディアを)買うのが広告。買わないがPR」という線引きも、いよいよ意味がなくなってきた。戦術としてではなく発想としての戦略PR、Public Relationsが、これまで以上に必要とされていくだろう。

◇ライタープロフィール
本田 哲也(ほんだ てつや)
ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長。フライシュマン・ヒラード上級副社長兼シニアパートナー。
1970年生まれ。セガの海外事業部を経て1999年、フライシュマン・ヒラード日本法人に入社。
2006年、グループ内起業でブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。
2009年に『戦略PR』(アスキー新書)を上梓し、広告業界にPRブームを巻き起こす。P&G、花王、ユニリーバ、アディダス、サントリー、トヨタ、資生堂など国内外の大手顧客への戦略PR実績多数。
著書に『その1人が30万人を動かす!』(東洋経済新報社)、『ソーシャルインフルエンス』(アスキーメディアワークス)など。
最新刊『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)が発売2ヶ月で5万部を超えるベストセラーに。
2015年2月からは公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)マーケティング委員会の委員も務める。アドテックトーキョー、カンヌライオンズ2015公式スピーカー。世界的なアワード『PRWeek Awards 2015』にて「PR Professional of the Year」を受賞。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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