最終更新時刻:2008年9月5日(金) 23時13分

暗号界の天才児、セキュリティを語る

Michael Kanellos and Charles Cooper(CNET News.com)

2004/05/13 10:01  

 Cryptography Research社長兼チーフ・サイエンティストのPaul Kocherは、暗号解読で名をはせた人物だ。

 1998年、同社はスマートカードの内蔵マイクロプロセッサが消費する電力量をモニターして、そのセキュリティを破ることに成功した。Kocherはまた、暗号化された文書を解読する専用マシン「Deep Crack」に搭載されているソフトウェアも開発した。

 もちろん、Kocherは守る側でも活躍している。同氏はここ数年で、知的財産の保護を目指す金融業界や映画会社から厚い信頼を寄せられるテクノロジストの1人となった。先頃、CNET News.comはKocherにインタビューを行い、プライバシー、著作権侵害、情報盗難の現状について話を聞いた。

---暗号の分野で、最も重要な議題は何ですか。

 その前に、重要でない議題がどのようなものであるかを申し上げておきましょう。どの暗号アルゴリズムを使うか、鍵のサイズはどうするかといったことは、もはや議題ではありません。これらの問題について、あれこれ考える必要はありません。これらは単純な問題です。

 技術の観点からいうと、複雑さにどう対処するかが大きな課題です。システムは複雑化の一途をたどっており、バグを根絶する方法は誰にも分かりません。

---それはソフトウェアの話ですか、それともハードウェアの話ですか。

 ソフトウェアもそうですし、ハードウェアもそうです。ネットワークや個人用PC、各種デバイス、マイクロプロセッサ--どれも昔に比べるとはるかに複雑になっている。機能を追加する者はあっても、削除する者はいません。セキュリティの観点からいえば、古い機能には必ずセキュリティ上のリスクが存在します。

 コンポーネントが1つしかなく、しかもその中身を知り尽くしているのであれば、管理をするのは簡単です。しかし、コンポーネントが600あり、それらがすべて相互にデータを交換している場合はどうでしょうか。心配の種が600倍になるだけでなく、コンポーネント相互の関係にも配慮しなければなりません。

 この場合は36万のインタラクションが存在するわけですから大変です。もちろん、1人ですべてを理解することはできない--デバッグにとりかかることすらできないでしょう。何人かで分担して、個々に対応すればいいと思うかもしれませんが、大勢が別々の視点からことに取り組めば、全体像を見落とすことになりかねません。

 このようなケースでは、まずは物事を単純化するようにしています。当社のソリューションを見ていただいて、内容を理解していただくと、それが他のものに比べて単純だと感じられるはずです。そうすることで、見落としをなくすようにしているのです。

---Cryptography Researchの事業を簡単に説明してください。

 大まかにいえば、最新の技術手法を用いて、複雑なセキュリティ上の課題を解決することです。どんな新しい技術にも、その使い方を誤れば大きな損害をもたらす可能性があります。これまで取り組んだなかで最も成功を収めたのは、主にクレジットカード会社など、金融機関のセキュリティ問題です。最近は著作権侵害防止の分野にも力を入れています。またワイヤレスのインフラシステム関連の問題にも積極的に取り組んでいます。

 収益の柱は技術ライセンスですが、最も時間をかけているのはサービスですね。

---プライバシーに関する状況は悪化していますか。

 センサーやデータ収集技術はムーアの法則に従って進化していますから、プライバシーの問題は時間の経過とともにますます大きくなっていくでしょう。データを集めている人々は、集めたデータで何をするかや、それをどう廃棄するかまでは考えていませんから、結局大量のデータが蓄積されることになる。プライバシーの面からいうと、これは深刻なリスクです。

 私たちは今、一生分にも相当する音楽ファイルを保存することができます。数年もたてば、動画ファイルでも同じことが可能になるでしょう。位置追跡用チップもどんどん小型化しています。私の携帯電話にもそうしたチップが入っているので、知識のある人なら、私の居場所を特定することができるはずです。「情報は概して有害なものだが、それを必要としている人にとっては宝だ」という考え方があります。この問題には多くの人が強い違和感を持っているでしょうが、私にもその違和感を解く方法は分かりません。

 著作権侵害の状況は相変わらず深刻です。映画会社は機器メーカーを責め、機器メーカーは映画会社に責任を押しつけようとしています。

---決着はつくのでしょうか。

 映画会社の主張、つまり機器メーカーは自社製品のセキュリティ強化に十分な投資をしていないという言い分はもっともです。しかし、あなたの家を守るのは私の役目でしょうか。私は映画会社が何らかのセキュリティコードをディスクに埋め込むべきだと考えています。そして機器メーカーはそのコードを実行できるプレイヤーを開発するべきです。

---映画会社にとって、コンテンツの保護は至上命令です。それにも関わらず、こうしたシステムがいまだに実現していないのはなぜでしょうか。

 このシステムを実現するためには、技術的な難問をいくつもクリアしなければなりません。また、技術者はコストを度外視して問題解決にあたる傾向があります。ほとんどの人は、安全か否かの二極論でセキュリティを捉えています。このような考え方では、リスクの分散という考えを理解することもかなわないでしょう。

 クレジットカード業界での豊富な経験は、当社の研究部門が持つ強みの1つです。リスクの概念を持つ業界での仕事は、貴重な見識を与えてくれます。一般的なクレジットカードは、ビデオテープとアイロンがあれば偽造することができます。クレジットカードは安全とはほど遠い技術であり、被害にあう可能性は常にあります。

 しかし、問題は偽造の有無ではなく、偽造が発生する確率です。Visaはこの確率を0.07%から0.08%と発表しました。つまり、ほとんどの人にとってカードは有益だというわけです。この確率があと10ポイント高ければ、そうではなくなるでしょう。

 この考え方はスパム、PCのセキュリティ、著作権侵害といった他の未解決の問題にも適用されるべきです。問題の発生率を下げることも重要ですが、著作権侵害やスパムを完全になくすことはできないと理解することも重要です。著作権侵害による損害が収益の1%未満なら、事業コストと捉えることができます。

---エンターテインメント業界はリスクをどう捉えているのでしょうか。

 われわれは日本に音楽会社を担当するスタッフを1名置いています。これまでも日本とロサンゼルスには必ず誰かを常駐させるようにしてきました。現在、私はスケジュールの半分を映画会社の仕事にあてています。声高にアピールすることはありませんが、多くの映画会社は当社の業務を非公式に、しかし強力に支援しています。

 映画会社のなかには、社の著作権侵害問題を一手に引き受ける専任の担当者を置いているところもあります。その他の企業も、ある程度技術の分かる人材を揃えています。

---音楽会社と映画会社、リスクが高いのはどちらですか。

 映画業界は突然、危機的状況に直面することになるでしょう。一般の人が映画の違法コピーを手軽に、安価に入手できるときが必ず来ます。音楽業界はすでにこの段階に達しており、違法コピーは音楽業界に壊滅的なダメージを与えています。

 映画が音楽と大きく違うのは、データのサイズが桁違いに大きく、ダウンロードに時間がかかることです。メガバイトではなく、ギガバイトの世界ですからね。しかしムーアの法則に従えば、この状況は変わるでしょう。そうなれば、著作権侵害の発生率は飛躍的に高まります。ハードディスクのサイズは約12カ月ごとに倍増しています。2013年、遅くとも2015年には、80ドルのハードディスクにすべてのハリウッド大作を高解像度で格納できるようになるでしょう。そうなれば、映画の違法コピーや格納のブレーキとなってきた技術的な障壁は消えてなくなります。

---なぜ暗号の仕事に関わるようになったのですか。

 オレゴンで運転免許も持たずに育ち、家の中にPCがあった・・・これも理由の1つでしょう。スタンフォード大学では生物学を専攻したので、学歴的には何の関係もないのですが、在学中にMartin Hellman(Public Key Cryptographyの共同開発者)のところでアルバイトをしました。私が卒業した年にHellmanも引退し、コンサルティングの仕事を回してくれるようになったのです。

 暗号のおもしろいところは、社会のあらゆるものと何かしらの関わりがあることです。政治、スパイ活動、軍事はもちろん、個人の自由や選挙も例外ではありません。暗号と縁のない問題を見つける方が難しいのです。

特集

「Chrome」が持つウェブ新興企業への可能性
グーグルの話題の高速ブラウザ「Chrome」はウェブ新興企業にとってどのような意味を持つのかを検証した。
グーグルが「Chrome」を作った理由--高速ブラウジングがもたらす利益
グーグルが新しいウェブブラウザ「Google Chrome」を発表したのは、高速化されたブラウザがグーグルにとって2つの面で利益をもたらすためだ。

オピニオン

■インタビュー

米国人アーティストが語る中国当局による拘束--チベット支援活動の結末米国人アーティストが語る中国当局による拘束--チベット支援活動の結末
米国人アーティストのJ・パウダリー氏は、オリンピック期間中、チベットを支援するメッセージをレーザー光線で映し出すことを計画していたが、中国警察に逮捕された。同氏が、その経緯と拘束中の様子を語った。
「検索市場の3強にならないと、ヤバイかな」--百度社長、井上氏「検索市場の3強にならないと、ヤバイかな」--百度社長、井上氏
元ヤフー検索事業部長の井上氏が日本トップになった百度、同氏の掲げる「検索市場の3強」という明確な目標に、どういった戦略でアプローチするのか。

■コラム

リコー、攻めの大型買収で世界市場へ活路リコー、攻めの大型買収で世界市場へ活路
複写機など事務機器の国内需要が飽和状態となる中で、精密機器大手各社は欧米を中心とした海外市場の開拓に活路を求めざるを得ない状況となっている。
モバイルSEOに有用なデータの収集方法モバイルSEOに有用なデータの収集方法
PCのSEOでは「site:」や「link:」といった特別構文を用いて施策を進めるが、モバイルではうまくいかないのが実情だ。そこで、1つの指標として用いることができるのが、Google「ウェブマスターツール」と、「Yahoo!サイトエクスプローラー」だ。
中国ケータイは理屈ぬきにオモシロイ!中国ケータイは理屈ぬきにオモシロイ!
「3度のメシより携帯電話」。24時間365日、海外ケータイのことばっかり考えている、香港在住の携帯電話研究家、山根康宏が、500台を超えるコレクションからとっておきの“トンデモケータイ”を紹介する。

企画特集

サーバ仮想化・グリーン化の利点を最大化!サーバ仮想化・グリーン化の利点を最大化!
多機能・高価値なNetAppストレージの秘密とは

ブログネットワーク

アルファブロガー

ケータイ時代のスタンダードiPhonista Nightの事後報告
ケータイ時代のスタンダード
佐々木俊尚 ジャーナリストの視点ストリートビューは新デジタルデバイドを生む
佐々木俊尚 ジャーナリストの視点
クロサカタツヤの情報通信インサイト北京オリンピック
クロサカタツヤの情報通信インサイト
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance新サービスをローンチしました
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance
村上敬亮 情報産業の未来図コンテンツ市場14兆円の中身と行方
村上敬亮 情報産業の未来図
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」場所・空間を増幅!?「ロケーション・アンプ」
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」
鈴木健の天命反転生活日記パラレルワールドとしての電脳コイル
鈴木健の天命反転生活日記

読者ブロガー

夢幻∞大のドリーミングメディア「あなたとは違うんです」首相の存在感
夢幻∞大のドリーミングメディア
素人サーバ管理者のボランティア業務日誌我が家のD4もようやく機能強化に旅立ちます
素人サーバ管理者のボランティア業務日誌

リサーチ

■リサーチコラム

ジェネレータコンテンツに関する調査--ジェネレータコンテンツはユーザーの興味喚起に効果的?
ジェネレータコンテンツの利用が企業やサービスのイメージにどのような影響をもたらしたかについて調査を実施したところ、提供企業の認知率はわずか11.1%にとどまることが分かった。
ジェネレータコンテンツに関する調査--キャンペーン成功のカギはクチコミと・・・
ジェネレータコンテンツに関する調査を実施したところ、利用経験率は31.6%でSoftBankユーザーにおける利用率が最も高く、auユーザーが最も低いことが分かった。認知経路は、「友人・知人からの紹介」ということも明らかになった。
クロスメディアに関する調査--30代が最も「指定検索キーワード広告」に接触
クロスメディアに関する調査を実施したところ、30代が最も「指定検索キーワード広告」に接触していることが分かった。また、世帯年収が高いユーザーほど、テレビCMの「指定検索キーワード広告」を閲覧していることも明らかになった。

■調査レポートダウンロード

Lucene のスコア計算
インターネットと英語

■調査発表

調査結果「薬の使用期限、7割は『把握していない』」
「携帯電話の未来〜進化の方向性と「オープン化」による生き残りをかけた争い〜」無料レポートを発表
第21回価格.comリサーチ 「ブルーレイレコーダー買った?買わない?」結果

イベント情報

「Webディレクション集中講座」
主催:株式会社クリーク・アンド・リバー社
4大特典付! 【アメリカ不動産投資成功法】 低金利融資GETでらくらく遠隔不動産投資!
主催:SBIホールディングス株式会社
コーチ・トレーニング・プログラム説明会 in 名古屋
主催:株式会社コーチ・トゥエンティワン

CNET Japan セレクション

フォトレポート:注目の「iPhone 3G」アプリトップ10
「iPhone 3G」発売から時間がたち、App Storeが充実してきた。ここでは、注目のアプリケーション10種を紹介する。
フォトレポート:コスプレーヤー、コミックの祭典に集合--Comic-Con 2008
Comic-Con 2008が7月にサンディエゴで開催された。このコミックの祭典とも言えるイベントで見つけたコスプレーヤーたちを画像で紹介する。
フォトレポート:絵で見る「Internet Explorer 8」ベータ2
マイクロソフトがこのほど、「Internet Explorer 8(IE8)」のベータ2をリリースした。このリリースにおける特長はユーザー志向の機能だ。
若者がモノを買わない理由--インターネット依存、低い上昇志向・・・
M1・F1総研が首都圏在住のM1、F1層の消費行動に関する調査レポート「若者がモノを買わない要因の考察と消費を促す方法論」を発表した。若者がモノを買わない要因として「低い上昇志向」、「インターネットへの依存」など5項目を挙げている。
フォトレポート:「グッドデザインエキスポ2008」で見つけた気になるモノ
8月22〜24日まで、東京有明の東京ビッグサイトにて行われた「グッドデザインエキスポ2008」。2008年度グッドデザイン賞の審査対象デザイン展示が一堂に介するほか、企業によるデザインの取り組み、デザイン専攻大学生の作品などが集結された。この会場で見つけた、かわいく、かっこよく、おもしろいデザインプロダクツを紹介する。
iPhone 3Gの陰で売れたもう1つのもの--iPod touchの販売動向を見る
話題のiPhone 3Gが7月11日に発売され、1カ月半が経過した。徐々に電車の中でiPhone 3Gらしきものを見かけるようになってた印象を受ける。しかし、それはもしかするとiPod touchかもしれない。

今日の見どころ

Google Chromeを支えるブレーンたち、ローンチイベントで集合

「Google Chrome」の機能をチェック--米CNET Newsの視点

新型PSPに搭載された機能を写真でチェック

プレスリリース

pixiv、ユーザー数が30万人を突破
クルーク
あなたが変われない「8つの理由」。常識だと思い込んでいる考え方を取り除いて、今感じている「壁」を突破しよう。話題の書籍『「心の翼」の見つけ方』(フォレスト出版刊、浜口隆則著)が、インターネットラジオ番組サイト『BizPro.FM−ベストセラーズチャンネル−』(起業
特定非営利活動法人起業家大学
自分の中にある素晴らしい可能性に気づき、すべてが豊かに手に入る魔法のルール。これを知っている人こそ、「感動の億万長者」。話題の書籍『感動の億万長者30のルール』(サンマーク出版刊、平野秀典著)が、インターネットラジオ番組サイト『BizPro.FM−ベストセラーズチャ
特定非営利活動法人起業家大学
その頭のままでは仕事がなくなる!「感性とビジネスの第一人者」が送る、「さびないビジネス人になる道」。話題の書籍『ビジネス脳を磨く (日経プレミアシリーズ 6) 』(日本経済新聞出版社刊、小阪裕司著)が、インターネットラジオ番組サイト『BizPro.FM−ベストセラーズチ
特定非営利活動法人起業家大学
『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い 禁じられた数字〈下〉』(光文社刊、山田真哉著)が、2008年9月7日(日)放送のFMラジオ番組『ベストセラーズチャンネル』(起業家大学制作、パーソナリティ主藤孝司)に取り上げられます。
特定非営利活動法人起業家大学

レビュー

今週の新製品総チェック:ノート、デスクトップ、UMPCまでPC秋モデルが続々
富士通、NEC、東芝などのPCメーカーから続々と新製品が登場した。ノートPC、デスクトップPCに加え、注目の
今週の新製品総チェック:薄さ13.9mmのサイバーショット登場!NEC「LaVie」はデザインモデルが
最薄部13.9mmのソニー「サイバーショット」、ニコンのGPS内蔵デジカメ「COOLPIX」など、機能性、デザイン性

CNET_ID

メンバー限定サービスをご利用いただく場合、このページの上部からログイン、またはCNET_ID登録(無料)をしてください。