「プラズマテレビはパナソニックの顔」--松下電器山田喜彦氏に聞く

文:Michael Kanellos(CNET News.com)
編集校正:坂和敏(編集部)
2006年02月01日 18時38分

 2004年半ばに松下電器産業の北米法人(現「Panasonic Corporation of North America」:以下、パナソニック)CEOに就任した山田喜彦氏は、着任早々幹部用の駐車スペースを廃止した。同氏は次に、フロアを占有していた幹部用オフィスを取り壊した。新しくなったフロアには、パーティションで区切ったスペースが並んでいるだけだった。

 同氏のとった措置は、かつて北米の家電業界で最有力ブランドの1つに数えられていたパナソニックの企業体質を強化し、市場競争力を取り戻そうとする計画の一環だった。同社の親会社はすでに日本で大規模な事業再編を敢行していた。

 パナソニックの米国における改革は、これまでのところ奏功しているようにみえる。同社のテレビは飛ぶように売れている。

 CNET News.comは、1月初めにラスベガスで開催された「Consumer Electronics Show(CES)」において、30年以上にわたって日米の松下電器で働いてきた山田氏にインタビューを行った。同氏は、プラズマテレビの今後や同社のデジカメ戦略、そして一部の米国企業が家電市場を理解できない理由について話をした。

--パナソニックは過去4年間で大規模な変革を遂げましたが、CNET News.comの読者はそのことをほとんど知りません。どんなことが行われたのか、簡単に説明していただけますか。

 日本では、2000年に中村(邦夫)氏の社長就任以後、大規模な事業再編とリストラが行われました。そして組織は大幅に変更されました。これは大きな痛みを伴うものでしたが、結果は大成功でした。過去3〜4年間の変化は非常に大きなものでした。

 私が2004年7月に米国に赴任した時には、日本の親会社はすでに大きく変化していたものの、海外の会社はどういうわけか以前のままでした。社員のビジネスマインドも、ビジネスのやり方も、すべてが昔と一緒でした。米国に赴任した私は、ある種のショックを受けたのでした(笑)

 私は80年代のほとんどを米国で過ごしました。当時私は多くの問題があると感じていました。ところが、2004年7月に再度赴任してみて、20年前と同じような問題がそのまま残っていることがわかりました。競合する米国勢の多くが大きく変化していたのに、パナソニックでは社員のマインドも社風も、まったく変化していなかったのです。そのことが非常に奇異に思えました。

--幹部の数が多すぎたのですか。それとも意思決定が遅かったのでしょうか。

 本当に遅かったです(笑)。(米国の)販売代理店のある幹部に会った際に、「パナソニックは何をすべきだと思う」と質問したことがありました。その人物は(当社が向かうべき)方向性を大変明確に示してくれました。彼は「パナソニックは、新製品、新技術、他社との競合、ビジネスプロセスという点でとても、とても動きが鈍い。すべての点において遅すぎる」と言ったのです。私はショックを受けましたが、率直な意見を聞いてとても嬉しく思いました。

 その時のパナソニックは恐竜のようだったのです。

--それをどのようにして変えたのですか。

 私が最初に行おうとしたのは、組織再編を行うことによって、意思決定に関わる階層を削減することでした。それまでは、プロジェクトが承認されるまでに7人から8人の署名が必要でした。私はこのやり方を変更し、署名が必要な人数を多くても2人にしました。これはすなわち人員削減を意味します。最も難しいのは人々のマインドセット(考え方)を変えることだということを私は学びました。人は自分たちのやり方に慣れてしまうものです。仕事のやり方を変える必要があることを理解したとしても、それに抵抗します。こういったことは、私がいまだに多かれ少なかれ遭遇することです。

--組織再編はほとんど終わったと思いますか。

 はい。赴任してから18カ月以上が経ち、組織再編はほぼ終わっています。しかし、この再編には当初考えていたよりもはるかに長い時間がかかりました。

--米国市場でパナソニックブランドを再生するために、どういったことを行いましたか。

 一番初めにやったのは、社名を変更したことでした。それまでの「Matsushita Electric Company of America」から「Panasonic Corporation of North America」に変えたのです。これが最初の大規模な変革でした。2番目に行ったことは、注力する製品カテゴリーを明確にすることでした。

 これはとても簡単です。一にプラズマ、二にプラズマ、三にプラズマです。あなたもすでに(CESに出展した)われわれのブースをご覧になったでしょう。われわれは100台を超えるプラズマディスプレイを展示していますし、ブース中央には65インチのプラズマディスプレイを40台、壁一面に配しています。また、103インチのプラズマディスプレイも展示しています。

 「パナソニックはプラズマテレビのメーカー」というのが、米国の消費者に向けた当社のメッセージです。2004年8月以降、マーケティングのリソースおよび人的リソースをそれまで以上にプラズマに振り向けました。当社の市場シェアはその頃、週によって2〜4位あたりをうろうろしていました。しかし2004年9月以降は、米国市場で毎月1位の座をキープしています。2005年の年末商戦期には、米国市場における当社のシェアが40〜50%にまで達しました。ちなみに、2位につけたメーカーのシェアは12〜15%でしたから、当社のシェアはほぼ3倍にあたります。

 方向性を明確に示し、それに注力したことが、市場シェアの伸びにつながりました。ブランド認知度を向上させることができたのも、注力する製品カテゴリを1つに絞り込んだからです。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]