ソニーのロケーションフリーは放送と通信の壁を壊すか

永井美智子(編集部)2005年11月15日 20時03分

 2005年は放送と通信の融合が始まった年として、後世に残ることになりそうだ。テレビ局が本格的に番組配信サービスに乗り出したことが1つの理由だが、もう1つ、ネットワークを利用して家庭のテレビがどこにいても楽しめる機器が、急速に普及する兆しを見せているためだ。

 10月1日に発売されたソニーの「ロケーションフリー」(関連記事)が市場で話題になっている。ロケーションフリーは、ブロードバンド環境があれば、外出先や海外でも自宅で見られるテレビ番組やHDDレコーダーに保存した映像などがPCで視聴できるというもの。具体的には家庭にベースバンドを設置し、PCに専用のソフトウェアをインストールすれば、ベースバンドで受信したテレビの映像をネットワーク経由でPCから視聴できる。

 10月13日にはファームウェアのバージョンアップにより、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)の携帯ゲーム機であるPSP(プレイステーション・ポータブル)にも対応し、PSPでもテレビ番組が見られるようにした(関連記事)。これで、一気にロケーションフリー旋風が巻き起こった。工場は増産体制を敷くが、供給が追いつかない状況が続いている。

 ロケーションフリーはかつてエアボードという名称で販売されており、「いつでもどこでもテレビ番組が見られる」という機能は注目を集めていた。しかしベースバンドと専用ディスプレイがセットで10万円以上したため、価格がネックとなって販売は低迷していた。今回、専用ディスプレイをなくした狙いや今後の事業展開について、開発者のソニー ビデオ事業本部 LFX事業室長の前田悟氏に話を聞いた。

--ロケーションフリーが市場で人気ですね。販売状況はいかがですか。

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ロケーションフリーのベースステーション「LF-PK1」(左)

 10月1日の発売以来多くの注文がありましたが、10月13日にPSPに対応したことで余計に在庫が足りなくなってしまいました。米国でも同時に発売しましたが、PSP対応のアナウンスは少し遅れた(編集部注:米国では11月2日に発表)ので、11月からはもう少し積極的に宣伝していきます。

 米国ではベースステーションのLF-PK1を発表してから、ユーザーからの問い合わせが一気に増えました。ロケーションフリー用のコールセンターには今まで1日に20〜30件の電話がありましたが、LF-PK1発売後は1日100件近くの問い合わせが寄せられています。今、コールセンターは2人体制でやっていますが、これでは足りない状態です。

 日本でも同じ状況が起きています。ソニーの顧客窓口には、ユーザーが購入前に相談するための「お客様ご相談センター」のほかに、購入後に技術的な問い合わせをするための「カスタマーサポートセンター」があるのですが、お客様センターに電話が繋がらなくてカスタマーサポートセンターにも問い合わせがかかってきているような状態です。

--ソニーのオンラインストア「SonyStyle」でも入荷待ちという状態が続いていました。

 生産を2交代でやっているんですが、追いつかないんですよ。初めてですね。今までは作ってもなかなか出なかったのに。早く生産量を増やしたいのですが、11月いっぱいまでは品薄状態が続きそうです。冬のボーナス商戦には間に合わせたいと思っているのですが。

--これだけ売れるのを予想していましたか。

 一度火がついたら大きく売れるだろうとは思っていました。ただ、こんなに早く火がつくかどうかまでは分からなかったですけれども。

--ヒットした要因はどこにあるのでしょう。

 価格とわかりやすいということですね。ロケーションフリーという商品は、業界では知っている人もいます。しかし、一般の人に販売員が機能を一言で説明するのは難しかったんです。

 これまでのロケーションフリーは10万円以上する商品でしたから、商品特徴がうまく伝わらないとどうしても高いと思われてしまった。だけど、今回の場合は「ロケーションフリーを使えば、手持ちのPCがすぐテレビになりますよ」と言えばいい。価格も3万円台ですから、手軽に買えるようですね。

--ロケーションフリーの元となるエアボードは2000年に発売され、高い機能が注目されながらもなかなかヒットには結びつきませんでした。今回、急に生産が追いつかないほどの人気となったことについて、開発者としてどのような気持ちですか。

 1つは、単純に嬉しいですよね。私だけでなく大勢で苦労してやってきたことが、こんなに早く火がついたことに対する思いがあります。しかしもう1つ、店頭の展示がまだ追いついていないことへの心配があります。入荷待ちの状態が続いていて、店頭に展示する商品もない状態ですから。

 今はロケーションフリーを知っている人が購入してくれている。この状態が終わってからでも売れていくように、これからのマーケティングをきちんとやっていくことが大切です。

--販売目標数は。

 具体的な数値は言えませんが、これまでに計画値を4回上方修正しています。営業も強気で、「作れるんですか」と心配するほどです。今は今年度の目標が達成できることよりも、早くみなさんの元へ行き渡るようにしたいと考えています。

--エアボードからロケーションフリーという名前に変えたことの効果はあったのでしょうか。

 (ユーザーや販売店にとって)商品特徴が分かりやすくなったと思います。ネーミングを変えたことで、ディスプレイだけでなくPCやPSPなど、どんな端末に入れても「ロケーションフリー」と呼べるようになりました。

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