リコーが写真サービス「Eyefiクラウド」を買収した理由--ビジネス戦略を聞く

 無線LAN機能を内蔵した、デジタルカメラ用SDメモリカードの先駆けとして知られるEyefiカード。2016年8月、米国Eyefiが事業を売却し、それに伴いアイファイジャパン株式会社も解散した。

「Eyefiクラウド」と「Eyefiアプリ」の名称を「Keenai(キーナイ)」に変更。アプリのアイコンも大きく変わった
「Eyefiクラウド」と「Eyefiアプリ」の名称を「Keenai(キーナイ)」に変更。アプリのアイコンも大きく変わった

 現在は、Eyefiカードと同等の機能を持つ製品として、EyefiカードのIP(知的財産)をライセンス協定を結んでいる東芝が「Flash Air」を提供。また、「Eyefiクラウド」と「Eyefiアプリ」の事業は、リコーの研究開発子会社であるRicoh Innovations Corporation(RIC)が継承。名称を「Keenai(キーナイ)」に変え、内容は従来のままでサービスを継続している。日本の企業がさまざまな形でEyefiの事業を継承し、グローバルに展開していく流れだ。

 従来からのEyefiクラウドユーザーの中には、ある日突然サイトのURLやアプリのアイコンが変わり、戸惑った人もいるかもしれない。Eyefiからリコー(RIC)に移行するまで、どんな経緯があったのか。名称を変えた理由、また今後の展開についてリコー 新規事業開発本部 SV技術開発センター 副所長の浅井貴浩氏に話を聞いた。


リコー 新規事業開発本部 SV技術開発センター 副所長の浅井貴浩氏

※なお、RICへの移行前の話はサービス名として「Eyefiクラウド」を使用した。また、新しい機能や今後の話については、「Keenai」としている。

Keenaiクラウド

「カメラ全体をデザインしたい」--リコーの戦略とは

--Eyefiからクラウドとアプリ事業を取得した背景や経緯を教えてください。

 デジタルカメラが主流になる前まで、基本的にはフィルムを使って現像し、家族や友人に見せていました。今はそういう時代ではなく、デジタルカメラによって使われ方が変わってきました。たとえば、家族や友人に見せるというほかに、Facebookに写真をアップロードして何万人もの人に見てもらうといったことです。このような状況では、カメラだけのビジネスというものは成り立たなくなってきています。

 そうすると、カメラ自体はもちろん重要ですが、クラウドサービスやストレージサービス、アプリケーション、共有の仕方など、カメラを取り巻く全体も重要になってきます。そこで、カメラ全体をデザインしたいと模索していたときにたまたま縁がありまして、クラウド事業とアプリを取得しました。

--Eyefi側から話を持ちかけたと聞いています。

 きっかけは、2016年1月5日にTHETA関連でCESの会場にいたところ、Eyefiから話がしたいと弊社社員宛に連絡がきまして、会うことになりました。

 そこで買収の話があったのですが、当然即断はできないわけでして、そこから数カ月検討して合意に至りました。会社全体(カード事業を含む)をという話も検討しましたが、結果、クラウドとアプリだけに落ち着きました。


「カメラ全体をデザインしたい」と浅井氏

 実はリコーサイドとしては、Eyefi Cloudサービスの買収には、サービス単体というよりも、もう一つの目的がありました。それはプラットフォームサイドの話で、Eyefi Cloud Platformの存在でした。

 2015年10月ぐらいに、私が担当しているデータサービス事業のための基礎部分を開発しており、世の中に出回っているプラットフォーム(Flicker、Google、Amazonなど)のベンチマークを行っていました。その中のひとつにEyefi Cloud Platformがありまして、とてもシンプルで、後発ということもあり良くできているという印象を受けました。実際に、それを手本に開発していた部分もありましたね。

 そうしたら、その後に買収の話があって、開発する必要がなくなると。買収を決断するにあたっては、その部分も大きかったのです。

--プラットフォームのベンチマークとはどのようなことをするのでしょうか?

 そのプラットフォームにおいて、APIでできること、できないことを調べたほか、デベロッパーにとってわかりやすいか、実際に使ってみて使いやすいかなどをチェックしています。各社アーキテクトがいるので、APIにそのアーキテクトの色がでてきます。規模は小さかったものの、Eyefi CloudのプラットフォームはAPIが大変よくできていました。

--Eyefi Cloud Platformをどのように活用されるのでしょうか。

 データサービスという面で広く見た時に、ドローンやセキュリティなど、フォトグラファー向けではないジャンルにも活用・応用できると考えています。リコーのビジネスとしては、そちらの方が大きくなると思っています。

--Eyefiクラウドを手に入れたことで、他事業にも好影響があるということですね。

 かなり良い影響があります。元々サービスをつくって、運用し始めるまでに1~2年かかることを考えると、3年は先行しているわけで。それだけでも買収した価値はあります。

--カード事業の何がネックだったのでしょうか。

 Eyefiが買収を持ちかけた背景には、われわれを含め、他社もカメラにWi-Fiを内蔵していますから、カード自体の需要がこれから先はあまり望めないという点にあったと思います。

 カード自体の売り上げも落ちているわけで、それを買収するというのは、Wi-Fi内蔵カメラを有するわれわれにとっては不要なものでした。

--話し合いはどんな印象でしたか。

 当時のCEO、Matt DiMaria氏が来ていました。彼は写真文化を大切にする人で、残る人達が一番幸せになるようにというポリシーで動いていたので、とてもよかったと思います。

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