音楽聞き放題「Spotify」が日本参入を“じっくり”待った理由

 世界最大の音楽ストリーミングサービスを提供するSpotifyが9月29日、日本に上陸した。世界で1億人以上が利用する音楽サービスで、配信楽曲数は4000万曲を超える。月額980円のプレミアムプランのほか、広告付きのフリープランも揃えている。

 Spotifyでは、ユーザーの視聴履歴から自動的にプレイリストを作成する「Discover Weekly」、ユーザー好みのアーティストの最新曲をまとめる「Release Radar」など、音楽発見のための独自機能が特徴だ。また、歌詞を表示しながら再生できる機能を世界に先駆けて日本で提供するほか、東京にもキュレーターチームを設置し、100万を超える日本向けのプレイリストを用意している。

 同社では2012年10月に日本法人を設立しており、たびたび国内市場参入のうわさが出ていた。このタイミングでのローンチとなった理由は何か、日本のユーザーやレーベルはSpotifyに何を期待しているのか、Spotify最高戦略責任者兼最高コンテンツ責任者のステファン・ブロム氏と、スポティファイジャパン ライセンシング&レーベルリレーションズディレクターの野本晶氏に話を聞いた。

(左から)Spotify最高戦略責任者兼最高コンテンツ責任者のステファン・ブロム氏と、スポティファイジャパン株式会社ライセンシング&レーベルリレーションズディレクターの野本晶氏
(左から)Spotify最高戦略責任者兼最高コンテンツ責任者のステファン・ブロム氏と、スポティファイジャパン株式会社ライセンシング&レーベルリレーションズディレクターの野本晶氏

――日本法人の設立から4年が経ちましたが、このタイミングでのローンチとなった背景を教えてください。

ブロム氏 私たちは、ローンチするマーケットを深く理解することからはじめます。日本でも、アーティストをはじめマネジメント側の人々、そのアーティストのファンなどにヒアリングを実施しました。どういったサービスを彼らが期待しているのか、それを入念に調査した上でローンチしましたので、今回が一番適切なタイミングだと私たちは思っています。

 米国に進出した際も同様に、ローンチの数年前にオフィスを開き、それから米国の音楽業界との関係構築をすべく、いろいろとヒアリングに時間を割きました。これはどの国でも実施していることです。やはりマーケットにきちんと合致しているサービスを提供することが重要で、多くのレーベルやパブリッシャー、アーティストと関係を構築することは、私たちにとって重要な学習のための時間なのです。

――日本市場をリサーチするにあたり、特徴的だったポイントを教えてください。

ブロム氏 日本のマーケットをきちんと理解することが最も重要だと考え、日本の音楽ファンがどのような人たちなのか、どの程度音楽に対する情熱を持っているのかを入念に調査しました。すると、かなりの時間を音楽に費やしており、多くの人がコンサートに足を運ぶことが分かったのです。また、日本では独特の音楽も多く、80%の人が国内の音楽を聴くことも判明しました。

 日本の音楽ファンを理解するために(日本法人の設立から)4年かけていろいろ学び、ようやくローンチのタイミングとなりました。ただし、ローンチはスタートでしかありません。ここからさらにいろいろなことを学び、改善し、ファンやアーティストにとって良いサービスとは何かを模索したいと思っています。

――スマートフォンが普及し、音楽のストリーミングサービスも複数提供されるなど、テクノロジの移り変わりもタイミング決定の一つの要因だったのでしょうか。

ブロム氏 日本に関しては、Wi-Fiなどの高速回線が整備されていますし、スマートフォンも多くの人がすでに所持していましたので、テクノロジに関してはすでに数年前から環境は整っていました。むしろ、日本のファンやアーティストの関係を知ることの方が、私たちにとっては重要でした。

 海外で展開しているSpotifyをまるまる日本に置き換えるだけではダメだと思っています。日本にとって必要なサービスを考えた際に、歌詞の表示機能(日本先行機能)が必要だと分かったのです。今後もこうした日本向けのサービスを提供していく予定です。

 テクノロジを駆使することも音楽配信においては重要な要素ですが、それだけでなく、気持ち、魂もきちんと備わっていなければ、アーティストにとって、ファンにとって心に響くサービスを提供することはできません。そうしたところは、“人々を知る”ところから必要だったため、日本のチームと一緒に学ぶことに時間を費やしてきました。

――音楽ファンやアーティストとの関係を入念に構築したことが、Spotifyがこれだけ注目された一因のように思えます。

ブロム氏 私たちも10年間かけて、音楽ファンを理解しようと努めてきましたので、ある意味当然かもしれません。ファンとアーティストをどのように結ぶと効果的なのかを考えてきたことが、コアとなってビジネスに繋がっています。今後もサービス向上に努めていきますが、このコアは常に忘れてはいけません。これが私たちの真髄だと思っています。

 ユーザーとアーティストがより深く結ばれることは、Spotifyにとって成功したと判断する一つの要素となります。また、アーティストやレーベルからすると、その関係性が今度は金銭的な価値として彼らのメリットになることも必要です。そういった意味では、私たちが展開しているマーケットの成長に貢献できたことは、私たちにとっても誇りとなりました。

――日本のレーベルにSpotifyの情熱を伝えるのは大変なことだと思いますが、実際の交渉はどのようなものだったのでしょうか。

ブロム氏  私は海外を見ていますので、日本では野本が交渉に当たりました。ただ、Spotifyが創設されてから最初のマーケットでのローンチまで2年かかりましたし、米国でも数年かかりました。新しいマーケットに進出する際は、学習サイクルを経て、どのような形がマーケットにふさわしいかを考えてプランを組み立てます。ですので、学ぶ過程の中で当初の計画を一部修正することもあります。

野本氏 CDの売上が日本は大きいですが、実際にCDだけで食べていけるアーティストの数が限られてきている現状は、一般の方も含めて感じていることだと思います。また、ライブビジネスも盛り上がってはいるものの、新人アーティストがどのようにして次の楽曲をリリースしていけば良いのか、ここ数年はなかなか見えていません。Spotifyでは、この部分で一番期待されており、フリープランとプレミアムプランが存在すること、「Discover Weekly」など新しい音楽を発見する機能に強みがあり、日本でも新人アーティストの育成に有効ではないかと思ってもらえるようにりました。

 ただし、そうしたツールの一つとして認識してもらえるようになったのはつい最近のことです。これは、世界中の新人アーティストの例を紹介したのもありますし、日本のインディーやメジャーの新人アーティストが海外で評価された実績も大きく影響しました。

 UQiYOというインディアーティストの例ですが、私たちが「UQiYOの曲が良い」と世界のキュレーターにピッチしたところ、ドイツのキュレーターが反応し、「Top of the morning」という朝向けのプレイリストに収録されました。すると、100人だったリスナーが一気に5万人に増えたのです。一旦ユーザーが増えると、そのユーザーの友達が好きになったりと、さらにリスナーが増えていきます。こうしたファンとアーティストをつなげられる事例を実際に見せられたのはとても効果がありました。

SoundCloud買収についてはノーコメント

――お答えいただけるかわかりませんが、9月28日には一部で「SoundCloud」を買収するという報道がありました。これは事実でしょうか。

ブロム氏 うーん、そうですね。申し訳ないですが、この件に関してはコメントできません。今は、日本でSpotifyをローンチできて嬉しいという気分でいっぱいです。

――今後、ほかの音楽サービスと連携することはあるのでしょうか。

ブロム氏 私たちは独自のサービスで、レーベル、パブリッシャー、アーティストなどが満足でき、そしてアーティストとファンが結び付けられる場を提供していくことに足場を置いています。私たちと同様のサービスは数多くありますが、ユーザー側から見ると多くの選択肢があるということです。それはそれで競争することの良い面であり、私たちは私たちなりにベストになれるよう尽力していきたいと思っています。

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