視聴率よりシビアな“残存率”に挑む--dTV×ロボットが確立したVOD時代の作品作り - (page 2)

VODの「いつでも見られる」は「いつまでも見ない」の裏返し

--VOD作品の制作は、通常のドラマや映画制作とどんなところが違いますか。

丸山氏 全く違いますね。例えば連続ドラマでも、1話目が流れた段階で結果が出るので、結果によっては配信時間、ストーリーなどを変えていきます。配信したもののリアクションを見ながら作ることが多いです。テレビドラマであれば、時間は決まっていますから変更はできませんが、VODは自由度が高いですから。

三宅氏 dTVでは視聴者の年齢、視聴端末、視聴場所、映像の視聴傾向をイメージした「ペルソナ」を用意しています。テレビドラマや映画は、作り手が面白いと思うものを視聴者に届ける流れでしたが、VODは真逆で、設定したペルソナに対して面白いと思われるであろう作品を届ける。ひと言でいうとマーケティングを徹底しているところが違います。

 例えば2時間のドラマでもVODなら、一気に見せる方法と複数話に分割して見せる方法の両方を配信できます。「残存率」と呼んでいますが、1話の中でも、何人が最後まで見ているか、何分で離脱した人が多いかを分析しています。その内容を制作プロダクションの方に共有することで、作品制作を進めてきました。

丸山氏 私自身、CMのプロデューサーも経験しているので、データに基づいた作品制作はとても共感できます。視聴者の趣向をきちんとつかんで作っていくのは、理屈にあっていますし、そのほうが作りやすいです。

 大事なのは、VOD事業者と制作会社がそのデータをきちんと共有できる体制を築けるかどうか。VODでの作品作りは徹底した分析がベースになっています。

--テレビ番組は視聴率が1つの基準になりますが、VODでは視聴者数や残存率など、より多くの指標で見ている感じですか。

丸山氏 大変シビアな世界ですが、わかりやすいともいえます。何に対して良い作品を作ればいいのか、ターゲットが明確ですから。

三宅氏 dTVでは、全コンテンツ中における該当作品の再生数の比率と、総会員数、アクティブ会員数の中で視聴しているユニークユーザー数を、初日、2日目、1週間、1カ月のタームで見ています。VODならではの数値としては、新規会員獲得数もわかるので、その番組を見たくて入会した人がどの程度いるのかも把握しています。いいものを作れば売れるという時代ではないですから、獲得できるデータを生かさない手はないですね。

丸山氏 この数値を見ながら、プロモーションも変えられるので、そこもVODならではだと思います。どこに届いて、どこに届いていないのか。それを見極めると、作品のてこ入れもできますから。

ロボットでチーフプロデューサーを務める丸山氏靖博氏
ロボットでチーフプロデューサーを務める丸山氏靖博氏。「いつでも見られるVODだからこそ、見たいと思える強い動機作りが必要」

--VODならではのメリットはどんなところでしょう。

三宅氏 自由度は高いですね。ただ、その分数字はシビアに出ますので、それぞれの作品に口は出します(笑)。長年培ってきたdTVの知見があるので、提案はします。これを“新しい作り方”として楽しんでいただける制作プロダクションの方と組んでいただいている感じですね。

丸山氏 VOD作品に関していえば、そうした作り方の提案は楽しみというよりも絶対に正しいと感じています。そこをきちんと捉えておかないと将来的に難しいと思います。VODは、結局映画やドラマの出先が違うバージョンと思っていたら成功はしないですね。全く違うものですから。

 "いつでもどこでも見られる”VODは、視聴の仕方もテレビドラマや映画とは異なります。シリーズモノや連続ドラマなどは一気見ができるメリットはありますが、作品を見逃すことがない分、視聴のモチベーションが薄れる傾向にあります。「いつでも見られる」は「いつまでも見ない」という状況を生み出しかねません。

 また、視聴デバイスの1つであるスマートフォンは、SNSやゲーム、ニュースアプリなどと同居していて、視聴に至るまでのハードルも高い。視覚も聴覚も使用する映像は、テキストコンテンツやコミュニケーションツールに比べ気軽さがないので、「映像を見たい」と思われるような強い動機作りが必要です。見るモチベーションまでどうつなげるかは1つの課題ですね。

三宅氏 その1つの答えが先ほども述べた視聴データだと思っています。ペルソナに基づいた好みを把握して作品を作り、細かい調整を加えて、より見られる作品に仕上げていく。展開は早く、長回しはきついといったVODならではの前提もありますし、ユーザーが視聴する場所や嗜好に合わせて作っています。

エイベックスが採用した制作会社に還元する仕組み「グッドシェア」

--配信サービスと制作プロダクションが一緒になって1つの作品を作り上げていく感じですね。

三宅氏 テレビドラマや映画だと、発注側と制作側が明確に分かれていますが、VODは両社の技術やアイデア、データを掛けあわせながら作っていく感じですね。ギャランティも映像作品は当初の取り決めの中で決まった金額を支払う形だと思いますが、dTVでは「グッドシェア」という、インセンティブ的な支払い方法を採用しています。

 製作費としてお渡ししている金額に加え、配信数に応じてお支払いをする方法で、導入して約7年が経過していますが、制作プロダクションやクリエーターの方などにきちんと分配ができる仕組みを整えました。これにより、良い作品を作ろうという気持ちをキープしていただけると思いますし、よいお付き合いをしていただけると思っています。

--以前のオリジナル作品は短尺のものが多い印象でしたが、最近の傾向はいかがですか。

三宅氏 インフラの発達もあり、長尺の作品が見られる環境が整ってきました。新たな提案として2016年夏からa-nationとタッグを組んで「VR配信」にも取り組みます。それに先駆けて「dTV VR」というVR視聴専用アプリをリリースし、コンテンツの配信も開始しました。スマートフォンのみですが、dTVのコンテンツとして人気の高い音楽ライブ映像などのVR配信も手がけていく予定です。

丸山氏 VRは今後のVOD作品として1つの大きな柱になると思います。ただ、単に360度映像になるというだけでは魅力的に見えないこともあるので、きちんと予算をうけて、人材も割いて作ることで大きな伸び代のある分野だと思っています。ちゃんとしたものを作ることで“跳ねる”分野だと思っています。

 制作プロダクションとしては、VRなどの新たな映像制作に目を向けつつ、ネットリテラシーを高めていくことで、VODサービスに強いプロダクションイメージをいち早く確立していきたいです。

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