スピードとニーズを重視する39worksのスタートアップ支援--4000年ぶりの革新も

 NTTドコモ・ベンチャーズは12月9日、7月にスタートした新規事業創出プログラム「39works」にて生まれた5番目の新サービス「39Hotels Project with Akerun」を発表した。

 一般的に、スタートアップの支援は起業した新規ベンチャー企業が生み出したサービスを評価し、優れたものに対して投資をしたりノウハウを提供したりすることが多いが、この39worksはそうした支援とは一線を画す独自の支援スキームを展開するのが特徴だという。39worksの狙いとそこから生まれた新サービスの特徴について、NTTドコモ・ベンチャーズ スタートアップ支援担当シニアディレクターの井上拓也氏にお話を伺った。

アイデアをスピーディに形にし、PoCを通じて世の中に問う

--まず、39worksの仕組みや特徴について教えてください。

NTTドコモ・ベンチャーズ スタートアップ支援担当シニアディレクターの井上拓也氏 NTTドコモ・ベンチャーズ スタートアップ支援担当シニアディレクターの井上拓也氏

井上:NTTドコモ・ベンチャーズではファンド事業とアクセラレーションプログラムである「ドコモ・イノベーションビレッジ」というプログラムを展開していますが、それに対して39worksはスタートアップとの共同事業開発プログラムという位置づけで開始した事業です。通常の投資やアクセラレーションプログラムは、既に存在しているスタートアップ企業やサービスへの支援を目的としていますが、39worksはアイデアの企画段階からスタートアップとNTTドコモ・ベンチャーズが一緒にやっていくというところが大きなポイントです。

 スキームの大きな特徴は事業化に向けたプロセスをスピーディに回していくという点です。アイデアを検討・共同企画したのち、3カ月ほどでサービスを開発し、そして3カ月から6カ月のPoC(Proof of Concept:仮説が正しいかどうかトライアルを行い検証すること)を実施し、サービスがお客様の需要を満たす価値があるかどうかを検証することで、本格的に事業化するかどうかを決定していくのです。

 サービスの開発からPoCに必要な事業予算はすべてNTTドコモ・ベンチャーズが負担をし、スタートアップがリスクの高い事業に挑戦しづらかったり、資金が集まりにくかったりといったハードルをクリアにしていきます。重要なのは、スタートアップがスピーディに世の中のニーズや課題を捉え、新しい価値を創造していこうとする情熱やアジリティなのです。それをNTTドコモ・ベンチャーズの資金力やノウハウといった強みと組み合わせることで、共同事業を生み出していけるのではないかと考えています。

--これまでに、どのようなサービスが生まれているのでしょうか。

井上:これまで、39worksでは4つのサービスが生まれてます。スマホ向けランチャーアプリ「correca(コレカ)」(12月15日でサービス終了)は、ユーザーの利用状況を学習してこれから使いたいアプリを先回りして提案してくれるというもので、「daily(デイリー)」はユーザーに届くメールの中から予約情報やネットショッピングの購入・配送などの情報を自動で見つけて、必要な情報を便利に整理してくれるというもの。またBluetooth Low Energy(BLE)を活用したジオフェンシングプラットフォームは、色々な場所にBLEのモジュールを置いておくことで「誰がいつこの場所を通ったか」という情報をコンテンツプロバイダーに提供するというスキームでPoCを展開しています。

 そして、「KAOTAS(カオタス)」は、レストランなどの店頭にBLEで通信するチップを設置して、サービスを利用しているお客さんが来店すると自動でお店にチェックインを行い、支払いもクラウドでできるというサービス。お客さんはお店で一切の決済をする必要がなく、お店はお客さんの来店履歴や注文履歴をネットで管理することができ、店頭ではお客さんとお店が“顔パス”のような付き合いができるというのが狙いだったのですが、実はもうサービスを終了しています。5月末にサービスをスタートさせたのですが、2カ月ほどPoCを行ってみて、当初想定していた過程と違うのではないかという印象があり、KPIの進捗も良くなかったので、その段階でサービスを終了しようということになったのです。

--「当初想定していた過程と違う」というのは具体的にどのような経緯だったのでしょう?

井上:プロジェクトの責任者が本当にやりたかったのは、「お店とお客さんのコミュニケーションをもっと活性化したい」ということでした。お店側が来店するお客さんの情報を把握できる環境を用意することで、もっとコミュニケーションを楽しくすることができ、お客さんとお店の関係が豊かになるのではと。しかし、実際には決済の利便性が目立ってしまい、コミュニケーションの活性化にはあまり繋がらなかったのです。このまま決済サービスとしてサービスを成長させるかという議論もされましたが、もともとの目的と違うということで、一度サービスを終了させて仕切りなおそうということになりました。

 サービスの終了は残念でしたが、KAOTASのトライアルは私たちにとって貴重な経験だったと考えています。これだけスピードの速い業界だと、新しくて良いものを作ろうと思ったらどんどんスピーディに新しいサービスを世に問うていかなければなりません。ドコモのような大きな企業だと安全・安心を第一に考え、じっくり時間をかけてサービスを開発していかなければなりませんが、一方アプリの世界ではアイデアをすぐに形にして公開し、多くのユーザーからの支持を得るという動きもあります。こうしたスピーディな取り組みに挑戦していくのが39worksの特徴ではないかと思うのです。

--それにしても、すぐにやめるという決断ができたのはすごいですね。

井上:スピーディにサービスを世に送り出すということは、スピーディにやめるということでもあると思うのです。スピーディにやめるということは簡単ではありません。しかし、スピーディに決断をしなければ、新たなサービス開発のためのリソースがどんどん奪われていくという状態に陥ってしまうのです。失敗することが素晴らしいと誇るつもりはありませんが、KAOTASについてスピーディにやめるという決断ができたことは、39worksのプロセスが健全に動いている証拠だと思います。

会社員でもプロジェクトに参加できる、低リスクな新規事業開発

--人材面において、39worksならではの特徴はありますか。

井上:会社に属している個人でも参加できるのが大きな特徴です。例えば、大企業に勤める会社員の場合には、まずその会社を辞めて起業して、資金を集めて、そしてビジネスを始めるのが一般的です。しかし、企業を辞めた時の雇用の流動性などを欧米と比べると、日本の環境はまだまだ、というところがあり、個人で起業してビジネスをはじめることのリスクはとても大きいのが現状です。ただ、そこをしっかりと支援していかなければ、日本のスタートアップは成長しないのではないかと考えています。

 39worksでは、個人の方でも企画アイデアを持ち込んでいただければ、優れたアイデアであればバーチャルなプロジェクトチームを結成して、そのプロジェクトリーダーとして参画いただきます。プログラマーやデザイナーといった人材についてはNTTドコモ・ベンチャーズから紹介させていただき、チーム作りからお手伝いさせていただきます。そのプロジェクトチームから生み出されたサービスは、39worksのブランドでリリースさせていただき、スタートアップ企業が行っているのと同じようにサービスを世の中に提供できる仕組みになっています。

 新しい事業アイデアにリスクが低い形でスピーディに挑戦していける場を作ることを目的に、そのためのプロセスを推進しているところです。

シェアリングエコノミーの新サービスをリリース

--では、12月にリリースされた新しいサービスについて教えてください。

井上:シェアリングエコノミーのサービスをリリースしました。スマートロックによるホテル宿泊サービスで、鍵ロボット「Akerun(アケルン)」を開発したPhotosynthというスタートアップと協業して、ホテル向けソリューションを展開していく予定です。「Akerun」はドアの鍵穴に特殊な両面テープで機械を取り付けると、電子カギを持ったスマホをかざすことでドアを開錠・ロックできるというサービスで、これをいろいろな業界で展開していきたいとPhotosynthが考えていたなかで、ホテル業界の領域で39worksが支援させてもらうことになりました。

 具体的には、39worksでいくつかのホテルとサービス導入に向けた提携の話を進めてまして、ホテルに宿泊する際に宿泊者がスマートフォンアプリを使ってチェックイン機でチェックインすると電子カギが付与され、あとはそのスマートフォンを宿泊する部屋のカギとして使用できるようになるというものです。ホテル側ではフロント業務の負担が軽減されるほか、多言語対応で外国人でも手軽に使用できるといったメリットが期待でき、ちゃんとワークするのか検証してみたいという関心も頂いているところです。海外では既にこのような動きは始まってきていますが、私の知る限りではまだ日本国内では存在しないサービスです。潜在的には数百億の市場規模がある領域で、海外進出も視野に入れてグローバルなサービスを作っていきたいですね。

 PoC期間については、いずれのサービスも無償で提供することを予定しています。その後はシステム開発費や運用に関する利用料などでの課金を検討しています。

 「カギ」は4000年前にエジプトで誕生したのですが、それ以来、実は基本原理は変わらないまま現代まで活用されてきました。ここにきて、今スマートロックが急速に発展しているのは、私たちのライフスタイルが変化して「シェアする」という感覚が当たり前になってきたからではないかと考えています。従来のカギでは不便さが出てきてしまい、カギも安全にシェアできる仕組みが求めれているのです。スマートフォンを電子カギとして活用するスマートロックは、まさに4000年ぶりのイノベーションだと言えるもので、私たちもその可能性に期待しています。

ドコモの枠組みにとらわれず、将来の市場を生み出していく

--今後の39worksの取り組みをお聞かせください。

井上:39worksで狙いたいことは、事業環境に合わせた新しいサービスや事業をスピーディに生み出し、ドコモの人材、技術、資金といったアセットを活用して外部企業との連携を進めながら形にしていくことで、ドコモの事業基盤強化を目指したいということです。ドコモの既存事業の枠組みにとらわれず、これから高まっていく世の中のニーズをとらえ、新しい市場を生み出していきたいですね。新規事業は10発撃って1発当たれば大成功という世界です。スピーディに動くことをまず第一に考えていきます。

--今後ニーズが高まる市場という点で、注目している分野はありますか。

井上:39worksは現在6名体制で、それぞれがビジネスプロデューサーという形でプロジェクトに携わっているので、人によってアンテナの張り方や興味のある分野は異なります。私個人の興味という点では、「シェアリングエコノミー」、「O2O」、「IoT」といった分野に興味がありますね。特にシェアリングエコノミーは宿泊、運輸、交通、不動産などいろいろな分野で動きが活発になってきていて、これからが楽しみです。リアルなサービスがネットと融合することで、新しい利便性がどんどん生まれるのではないでしょうか。既存の価値観や既得権益によって新しい価値が創造されないという状態で、ネットはその壁を越えて価値が創造できる可能性を秘めているのではないかと思います。

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