14年愛されたゲームの秘密--PS Vita「俺の屍を越えてゆけ2」ゲームデザイナー桝田省治氏に聞く

 ソニー・コンピュータエンタテインメントからプレイステーション用ソフトとして1999年6月17日に発売された「俺の屍を越えてゆけ」(「俺屍」(おれしか))。このタイトルは、当時の王道と呼ばれたRPGの概念を大きく覆す内容で、わずか2年で寿命が尽きてしまう“短命の呪い”と、人との間に子をなせない“種絶の呪い”の2つの呪いをかけられた主人公の一族が、神様と魂で交わる“交神の儀”によって子孫を残し、能力を受け継いで徐々に強くなっていく世代交代RPG。自分だけの遊び方を楽しめるのが特長となっている。

 発売直後は突出した販売本数でなかったものの、プレイしたユーザーから熱烈な支持を受け、その面白さが徐々に広まり、さらにファンの熱量も衰えることが無かった。そして2年前の2011年の段階までで積み上げた販売本数は、廉価版やPSPなどで遊べるゲームアーカイブスによるダウンロード販売も含め約40万本以上にまでに至った。この背景から同年に、改良や一部新システムを導入したリメイク版をPSP用ソフトとして発売。さらに続編の開発も発表していた。

 そして先日、この続編をPS Vita用ソフト「俺の屍を越えてゆけ2」(「俺屍2」)として発売することを発表。初代の発売15周年にあたる2014年の夏に発売予定で、東京ゲームショウ2013には試遊出展を行うとしている。

  • 「俺屍2」でも短命の一族が世代交代を繰り返し、能力を受け継ぎながら特定の目的を果たすという流れは変わらない

  • 迷宮などを冒険する「討伐」。時間とともに画面右下の火が消えていく、全部消えると1カ月が経過、帰還するか討伐を延長するかの選択を行う

  • 戦闘シーン。前作の雰囲気を残しつつもグラフィック面を強化。戦闘前にスロットによって戦利品が決まるというのは変わっていない

 「俺屍」が長年愛された理由や「俺屍2」について、開発の中心人物でゲームデザインなどを担当するマーズの桝田省治氏に聞いた。桝田氏は1992年に発売された「天外魔境II卍MARU」(PCエンジン)や1997年に発売された「リンダキューブアゲイン」(PS)など、数々のゲームにゲームデザイナーとして関わり、独特の世界観と斬新なゲームシステムにより、熱心なファンが付いていることでも知られている。また「鬼切り夜鳥子(ぬえこ)」シリーズなどを執筆する作家活動や「まおゆう魔王勇者」の総監修など多方面で活躍している。

桝田省治氏
桝田省治氏

--なぜ続編をこのタイミングで制作することになったのでしょうか。

 続編そのものは、早い段階から制作のアピールを行っていたんですがなかなか実現しなくて。PSPが出た当初も移植をアピールしたのですが、ゲームアーカイブスとして配信することから断られていたんです。しばらくして積み重なった数字が大きくなったのと、あとは発売当時に関わっていたSCEのスタッフが、年数が経過して社内で相応の立場になって発言力を持つようになったことがあって、まずは2011年にリメイク版を発売することになったんです。そのリメイク版も単なる改良にとどまらず、続編を見越して新しいシステムを入れました。続編の決定は、リメイク版での反響や販売本数などの相応な結果が出たからということになります。

--ちなみにリメイク版の反応や反響はいかがでしたでしょうか。

 悪くはないという感じで、あてが当たったのと外れたのがありました。あてが当たったのは、「俺屍」を遊んだユーザーが不満を持っていたところや、僕らが改良した方がいいと思って直したり改善した部分は、あらかた受け入れられたということです。

 あてが外れたのは、「俺屍」を遊んだユーザーが思ったより買わなかったことです。リメイクだとほとんど前作と一緒というイメージがあるんですよね。ゲームアーカイブスでは600円で配信されているものですから、リメイクでパッケージ版では4980円となっているものを買うよりは、続編を待つという方が意外と多かったことですね。

--今から見ると14年前のタイトルですが、長年熱烈なファンに支持されるタイトルとなった要因はどこにあると考えていますか。

 ベーシックなシステムのところで遊ばせているところかなと。「俺屍」って、でっかいマージャンゲームなんですよ。マージャンはルールはひとつだけど、配牌やツモする牌によって状況が変化して、最善手がそのときそのときで変わっていくじゃないですか。違う人と遊べば違う展開にもなる。好きな役が人それぞれあっても、かならずしもその役ばかり狙うというわけにもいかない。あと強い弱いはありますけど、1対局で見ればうまい人でも負けることはあるし、弱い人でも上がれるチャンスはありますよね。このイメージがすごく近い。「俺屍」についてはマージャンを意識してます。もっとスパンを長くしてキャラクターを付けてRPGのシステムをのっけてる感覚ですね。

 交神によって生まれる子は他の人と同じにはならないし、そこから紡がれる家系図も人とは違う。迷宮を冒険する討伐の方法やプロセスも変わってくる。その「他の人とは違う自分だけの遊び方」が楽しめるという点がポイントかと思います。

 ただ、それはわかりにくいというか「2年で主人公が死んで世代交代するRPG」といっても面白さが伝わらないじゃないですか。それが年数を経て、ブログや動画サイトが普及しだして情報発信する敷居が低くなったと同時に、自ら情報発信する人たちが増え、どのようなゲームかが見えるようになった。それで興味を持った方が、安価なゲームアーカイブスを購入するというのが、今日まできているからですね。また遊んだ人は、他の人が自分とは違う家系図や遊び方をしているのを見るという楽しみができた。ゲーム機の外の世界でも楽しめることを知ったことも大きいかと。

--続編を制作するにあたって意識した点はどこにありますか。

 2つあって、まずは続編の王道として、今までずっと楽しんでくれて支えてくださったユーザーさんの「続編を出してほしい」という声に応える感謝の部分。そしてもうひとつはネットを介して、今まで無かった楽しみ方について攻め込んでいくという、僕としての楽しみであり、新しい遊びの提案ですね。PS Vitaのカメラ機能を使ったり、ボタンが多いことによる操作しやすさとかもありますけど、PS Vitaならではということになると、ネットを介した遊びということになります。

 あとは続編ということを考えると、要素として何を残して何を切るかということですね。「俺屍」は何を楽しませるのかという本質の部分に合っているかどうか。逆に作るのが大変だった部分については切ってしまって、その労力を別のことに使おうと。たとえば、前作で使われていないような神様は外してます。

 そしてただの続編ではなくて、そこを越えていく部分を用意する上で、あまりに飛んだものだとユーザーが受け入れられないかもしれないし、前のを水増ししただけでなぞっても、作っていてつまらない。そのさじ加減には苦心をしました。

 前作を遊んだ方の意見を反映させたひとつとして、「俺屍」では容量の関係でセーブできるデータの数が1つだったのですが、兄弟で遊びたいとか、前にプレイした一族を残したいなどの意見が多かったので、「俺屍2」は4つに増やしました。また、同じく容量の関係なのですが、一族の人数上限が「俺屍」では256人だったのが、「俺屍2」では1024人にまで増えています。通常100人くらいでクリアできますが、クリア後もプレイし続けて頂いたユーザーから上限が少ないという意見をいただいたのが増やした理由です。

--ネットを介した遊びというのは、具体的にどういうものでしょうか。

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