ガンホー森下社長に聞く--脱パズドラで革新的なゲームを世に出したい - (page 3)

 運営に関しては成功事例がない市場だったんです。「ラグナロクオンライン」をリリースした当時は、オンラインゲームを運営している会社さんも少なかったですから、地雷という地雷は全て踏んできたと思ってます。経験がなかったので、よかれと思った施策が裏目に出ることも少なくなかったです。

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「ラグナロクオンライン」
(C)Gravity Co., Ltd. & Lee MyoungJin(studio DTDS). All Rights Reserved.
(C)GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.

 そもそも開発のGravityと運営が会社として異なっていて、さらに国も違うと。国が違えば思想も違うんです。不正ユーザー対策についても対応しきれなかった部分については、Gravityとは喧嘩したと言っていいぐらいに言い合っていました。例えば「売り上げが落ちてもかまわないから対策のほうが重要」と主張しても、韓国の開発サイドにはなかなか理解をしてもらえないんです。誤解の無いようにしてほしいのですけど、彼らが間違っているのではなく、それが彼らなりの正しさなんです。とはいえ、そのままにしていても状況が変わらないわけですから、自分たちの傘下に置かないと改善しないと思って子会社化したんです(※2008年2月にGravityを子会社化)。それから少しずつ変わってきました。

 当時一番つらかったのは、対応したいと思ったことができなかったことですね。そういう苦い思いがあるからこそ、面白いゲームを提供することを標榜していましたし、「ラグナロクオンライン」の運営に対して言われることもあると思いますけど、開発と運営がひとつになってサービスを提供することで、理想のサービスに近づけると思うし、それこそが本当にやりたかったことです。

――振り返ると日本でもPCオンラインゲームの波が訪れて、6、7年前ぐらい前に、韓国を中心とした諸外国のタイトルが多数サービスされましたけど、市場環境の変化もあるかと思いますが、結局ほとんど残りませんでした。

 各社さんは表にはできないと思いますけど、国の違いにおけるゲームのあり方や運営方針の壁に間違いなくぶつかっていたと思いますし、仮に言葉が通じたとしても理解するのは不可能だったと思います。それぐらい乖離があります。ただ、彼らなりの正義があった上での考え方で、悪意が無いのです。だから平行線をたどってしまう。

 こういった乖離がある事情をユーザーに公開しようという意見もあったんですけど、かといってそれはユーザーには関係のないことですし、全部自分たちで受け止めたんです。そういう環境で、「ラグナロクオンライン」は成功事例の無い中で運営を行ってきました。暗中模索でしたし苦しい時期でした。

 「パズドラ」が注目していただいてますけど、僕たちもポッと出ていきなり成功したわけではないです。苦い経験をしながらやってきて、自分たちは面白いゲームを作るという原点に立ち返ってやり続けることの大切さや幸せを感じています。それは、これまで「ラグナロクオンライン」を遊んできてくれたお客さんがあってのことですし、ガンホーにとって象徴的なタイトルというのは、この先も「ラグナロクオンライン」であることは変わらないです。開発と運営がセットで動けるようになって改善を進めていますし、さまざまな問題点に関しても粛々と対応しながらやっていきたいと思います。

――森下さんがタイトルのクリエイティブチェックを行っているとのことですが、面白さのポイントとなるものはありますか。

 理屈抜きに勘ですね。しいて言うなら「理屈抜きに面白いものが、本当に面白いもの」とは言えます。でも、それは何と言われても「自分の直感です」以上に答えようがないですね。勘はさまざまな経験のなかで自分の中に植えつけられているものです。企画を見たりプロトタイプを遊んでいるなかで、ゲームが出来上がっていく、あるいは世に出て遊ばれていくという意味でのストーリーが頭の中で描けたものはヒットしてますし、いい形になってます。それは何と言われても、頭の中で描くものなので説明しようがないですけど。

 どうしたら面白いゲームを作れるのかというのは、任天堂さんですら「わかりません」と言うぐらいですから、僕にも分かりません。ただ、あくまで個人的に考えるとするなら、思想にあるのかもしれません。技術の有無ではなく、ゲーム作りに対する思想や哲学。信念を持って作り続けられるかどうかが結果を決めるのではないかと思います。その意味では、答えのない市場だからこそゲーム作りは面白くて仕方がないです。

 数字的な法則や分析を基にゲームを作ることが好きな人はいると思いますし、それ自体を否定するつもりはありません。僕はそうしてないだけというか、そうできないんです。逆にIT企業さんとかがうらやましいと思えます。そのような思考回路を持ってないですし、直感だけで生きてきたようなものなので、そういう発想に至らないだけです。でも成功データに寄せた売り上げ至上のソーシャルゲームって、自分たちの思想でゲームを作ってないですよね。その思想が入ってないものがどうやって市場に受け入れられるのかと思うところもあります。それであれば、思想の入ったゲームを作れるほうが幸せだと思うし、その結果、ちゃんと儲かれば良いと思います。ただ、儲けだけを狙うのであれば、ゲーム屋である必要はないですよね。

 「パズドラ」でドロップを動かすことに議論していたように、いうなれば、たかが娯楽なのに、大の大人が揃ってワイワイと言いながらも真剣に作っていることって、本当に幸せなことですよ。ゲームを作れることの幸せを今年もかみ締めていたいです。

――クリエイティブのチェックはいつまでやろうと考えられていますか。

  自分でコンセプトやテーマを出しているものもあれば、上がってくるものをジャッジする形のものもありますけど、自分の中で直感とかが降りてくる感覚がある限りはやろうかなと。それがなくなったら手離れしないといけないだろうし、社長がここまで関与する形がいいか悪いかの賛否があるのかもしれないけど、今の開発ライン数であれば目が届きますし続けられるかなと。

 そもそもゲームを作りたくて、でもそのためには社長になるしかない状態だったので、ある意味仕方なく社長になったんです。だから、社長業に専念してゲーム作りに関わってなかった時期は本当につまんなかった。今が一番楽しいし、そう感じているということは、一番合っていることなんだと思います。

――森下さんが考える2013年のゲーム業界の動向や、今後の方針などはありますか。

 市場的にはスマートフォンがますます伸びていくだろうと思ってはいます。とはいえ、コンシューマーでも今までないような面白いゲームを作って出していきたいです。注力するところというなら、スマートフォンとコンシューマーという回答になりますが、あとはわが道を行くという、自分たちが信じた面白いゲームづくりをきちっと進めていくだけです。戦略としては「面白いゲームを作ります」というしかないです。

 今は10本ぐらいのタイトルを見ていますが、年末年始では自分の頭の中でゲームデザインの見直しなどをかけて、何本か面白いと思えるものが出てきたかなという感じです。その中にはAppleさんの審査が通るかなと心配するぐらいの斬新なゲームを用意しています。

 時代がスマートフォンに流れていますけど、やはりコンシューマーゲームが頑張ってほしいし、子供たちにゲームで遊んでもらいたいというのが、個人的な願いでもあります。アクションでもRPGでもいいので、感動させられるゲームを作りたいですね。スマートフォンでは凝縮された単純性のあるカジュアルゲームが最適だと思うので、そのようなゲーム体験のあるタイトルは難しいかもしれません。個人的にコンシューマーゲームが好きというのもありますけど、ちゃんとした作品と呼べるものを作りたいです。

――ちなみにガンホーとして、あるいは森下さん個人として、この先の野望や願望みたいなものはありますか。

 社長の立場としては、世界中の人たちに期待されるメーカーになりたいというのはありますね。そうなっているとしたら結果的に売り上げが上がっているだろうし。世界中の人に認められるゲームメーカーであることが希望ですね。

 個人的には、ゲームを作っていればそれでいいんです(笑)。例えばの話ですけど、僕はプログラムが書けないのでひとりでは無理ですが、小さなスタジオで数人集まってワイワイ言いながら世界に打って出るようなゲームを作りたい。スマートフォンならそれができる市場でもありますし、今はインディーズゲームという考え方も定着しつつあるので。肩の力を抜いて気楽な気持ちで、でもこだわるだけこだわった自分たちだけのゲームを世界に配信してみたいなと。くだらなく思えるかもしれませんが、やっぱりゲームを作っていることが幸せですよね。

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