2013年の展望

セガネットワークスの2013年--ベンチャー精神注入で差別化を加速

 大手ゲームメーカーのセガは、2012年7月にスマートデバイス向けコンテンツサービスを提供するセガネットワークスを設立した。スマートデバイスの本格普及にともない、ハイエンドなゲームコンテンツを投入するのが狙いだ。

 これまでもセガとしてスマートデバイス向けには、2010年に配信されヒットタイトルとなった「キングダムコンクエスト」をはじめとして、「ミクフリック」や「百鬼大戦絵巻」などオリジナルタイトルや自社IPを活用したさまざまなジャンルのタイトルをリリースしてきた。

 11月に行われたタイトル発表会では、ハイエンドかつソーシャル要素のあるフリーツープレイのネイティブアプリに定めてタイトルを投入していくことを明言。そこから12月にかけて「ドラゴンコインズ」、「クエプラ –Quest of Planet-」、「初音ミク ライブステージ プロデューサー」、「キングダムコンクエスト2」、「クイズ Answer×Answer Pocket」と一挙5タイトルを投入。さらに年明けから来春にかけても5タイトルをリリース予定としているなど、一気に攻勢をかけている。

 ほかにも、ポケラボとの協業タイトルで6月に配信した「運命のクランバトル」は、現在もセールスランキングの上位に位置。さらにf4samuraiと包括的な業務提携を結ぶなど、ベンチャー企業との協業施策も積極的に行っている。

 さらなる激戦が予想されるスマートデバイス向けゲーム市場。そこへ自らベンチャー企業化して挑むセガネットワークスを率いる代表取締役社長 CEOの里見治紀氏に、会社設立の経緯や戦略などこの1年を振り返っていただき、今後の展望や取り組みについて聞いた。

――まずこの1年を振り返って、里見さんから見たセガネットワークスの事業領域であるモバイルやスマートデバイス向けゲームの動向、そして自社の取り組みなどを教えてください。

里見治紀氏
里見治紀氏

 一番大きな変革だったと思うのは、フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行が本格化したことです。グリーさんやDeNAさんがフィーチャーフォンで展開していたタイトルをスマートフォン上でも展開して当たり始めていますし、ガンホーさんの「パズル&ドラゴンズ」のように、スマートフォンオリジナルゲームでもヒットタイトルが出ました。スマートフォン上でのビジネスが成り立つようになったのが今年だったと思います。

 セガとしてもこれらのことを見越して、ソーシャルゲームに対してはポケラボさんとの協業施策も行いつつ、スマートデバイスのネイティブアプリでしっかりと遊べるハイエンドなゲームをお客様に届けていこうと、会社設立前から仕込んでいました。設立してからはさらにドライブをかけ、11月から一気にタイトルを出せる状態になりました。

 この年末に出したタイトルについて、ダウンロード数に関して言えばどれも計画以上の結果を出せています。売り上げについてはまだまだこれからという状況ですが、運営面の強化や施策の実施も検討しています。サービスの出だしとしては手ごたえをとても感じていますし、プレイヤー層もタイトルそれぞれで違っているので、総じて幅広い方々に弊社のタイトルを遊んでいただいているという認識です。

――先のタイトル発表会では、スピードが課題だったとしていました。会社設立のきっかけとなった出来事を教えてください。

 2011年の冬ぐらいに、とある案件について、社内調整で時間をとられてチャンスロスしたことがありました。このときに「スピードを上げなければ勝てない」と強く思ったんですね。「ビジネスは人・物・金」と言いますが、セガはこれを全部持っていると考えています。でもなぜこのマーケットで勝てないのかと考えたとき、成功している会社を見て足りないと感じたのがスピード感です。そこでセガ自体がベンチャー企業になって、スピード感を持って事業を進められる体制になれば戦える武器が全て揃えられると。そのために2012年の年明けぐらいから動き始めました。

――会社を設立してスピード感を出すために、どこをどう変えたのでしょうか。

 現場に従来よりもかなり大きく権限をもたせています。ひとつの例としては、現場の判断でプロトタイプを制作する権限を与えています。パッケージゲームのときは、億単位で物事を動かす事例も少なくないので、プロジェクトを進行するかどうかをビジネス側も入り込んで各方面と調整をしながら慎重に検討します。分社前まではアプリゲームでも、同じような意思決定プロセスを踏んでいましたが、この業界でそれをやっていては遅い。時流を読み取って面白そうだと思えるものであれば、クリエイティブのメンバーでプロジェクトをスタートできる体制に変化させました。この権限は海外の現場にも与えています。

 そして私自身が持つ権限も、従来のグループ内の運用よりもかなり大きくなっています。これによって、現場レベルで深く取り組むような大型アプリゲームの制作において、私のところで進行や決裁判断ができるようになっています。物事を即時的に決定して動かしていく権限委譲が私自身にされましたし、現場にも与えたというのがビジネスとしてのスピード感の大きな変化です。これによって社内のプロセス部分はかなり改善しています。ですがこれはあくまで形式的なところであり、開発やマーケティングの施策を進めるスピードなど細かい実務レベルでは、まだまだ改善の余地があると考えています。

――発表会では「キングダムコンクエスト」がヒットして、今後の戦略に影響を与えたとまで話されていました。

 コアゲームユーザーに向けて作り込んだタイトルですが、それでも開発費はパッケージソフトに比べると遥かに少なく、それでいて多大な利益が出たことに驚きました。しばらくセールスランキングで1位になっていましたが、そのことが社内のモチベーションにもなっていました。

 当時のスマートフォン向けゲームはライトゲーマーが遊ぶものと見られていて、コアゲームは受け入れられないという評判もありましたが、「キングダムコンクエスト」のサービスを通してハイエンドなゲームでも受け入れられる素地があるとわかったことが大きかったと考えています。何よりマーケットでは初めてのジャンルを投入し、その道を切り開いたことがセガらしいのではないかと感じています。

――セガのイメージというと先端を行くというのがあり、タイトル発表会でも、スマートデバイスのスペックの進化は追い風になっていると話していました。

 フィーチャーフォンでもグリーさんがオープン化したタイミングで真っ先にタイトルは出したのですが、グリーさんやDeNAさんが中心のフィーチャーフォン時代のソーシャルゲーム1.0というべき市場の波には乗れませんでした。その状況からこの波に乗るという選択肢はリスクが高く、セガとしての強みを活かせないと判断し、1年ほど前にスマートデバイス向けにターゲットを絞りました。短期的には当時のマーケットでの利益が取れずに機会損失になったところもあったかもしれません。でももうフィーチャーフォンのソーシャルゲーム市場はすでに勝負が決まっている戦場であると判断しました。そこではなく、我々はターゲットを次の戦場に向けたということになります。

 フィーチャーフォンとスマートフォンではビジネスモデルが全く異なるものであると考えています。スマートフォンにおいては、1年前は少し違っていたかもしれませんが、現在そして2013年以降は、コンシューマやアーケードゲームを開発してきたノウハウが活かされる土壌になってきていると思います。グラフィックに関して言えば、もはやPS Vitaにそん色ないレベルに達しています。また、アーケードゲームは本来3分100円のビジネスモデルであり、筐体を置いて終わりではなく、バージョンアップを適宜行うという継続的な運営の概念を持っています。ハイエンドのフリーツープレイタイトルについては、そういったアーケードゲーム開発のノウハウが活きてくると考えています。

――ポケラボとの協業や合弁会社のSPG labo設立、さらには、f4samuraiと包括的業務提携など、ベンチャー企業との提携にも積極的な印象があります。

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