不安解消と品質向上を並行して進める--DeNAのスマートフォンアプリ「comm」

岩本有平 (編集部)2012年11月01日 11時30分

 NHN Japanの提供する「LINE」やヤフーとの提携で注目を集める「カカオトーク」に代表されるコミュニケーションサービスが注目を集めている。LINEはすでに世界で7000万ユーザーを集め、カカオトークもそれについで6500万ユーザーと、その成長ぶりには目を見張るばかりだ。そんな中、10月23日にはディー・エヌ・エー(DeNA)が国産コミュニケーションサービス「comm」の提供を開始した。

 DeNAが「Mobage」で培ってきたインフラ環境を生かした通話品質を売りにしたcomm。Facebookアカウントとも連携し、実名での利用を前提とした。

 しかしサービス開始直後からトラブルが続いた。会員規約6条3項にあった「当社は、すべてのcomm会員記述情報を無償で複製しその他あらゆる方法により利用し、また、第三者に利用させることが出来るものとします」という文言について、「通信の秘密を侵害するのではないか」という一部ユーザーからの声が挙がった。また、友人関係になっていないユーザーに対しても通話ができる、退会の機能がないといった仕様も、ソーシャルメディアなどで話題となった。

 規約については「運営側で監視や閲覧を行っていない」という旨のコメントを発表。またサービス公開翌日の10月24日には、問題となった規約について「当社は、すべてのcomm会員記述情報を本サービスの提供を目的とする範囲において無償で複製その他の方法により利用できるものとします。ただし、comm会員間でメール・チャットによりやりとりされる情報を、令状等による場合を除き、当社、第三者が閲覧することはありません」と改訂。退会機能も実装するなど、サイト上にも告知を掲載しアップデートを続けているという。同社の執行役員でソーシャルプラットフォーム事業本部本部長の松井毅氏にcommの狙いと、課題への取り組みについて聞いた。


DeNAの執行役員でソーシャルプラットフォーム事業本部本部長の松井毅氏

――このタイミングでコミュニケーションサービスを提供した意図について教えて下さい。

 大きなユーザーベース、グローバルに使ってもらえるサービスを作りたいというのは以前からありました。そのためにどういうものを作るか考えたとき、クローズなコミュニケーションであること、実名であることが重要だと考えました。実名でないと、ユーザーの人間関係が変わってしまった際、そのソーシャルグラフは過去のものになってしまいます。実名であれば、永遠に関係が続くサービスになると考えました。

 またMobageについてはすでに匿名でのコミュニケーションがなされています。実名でも匿名でも同一人物が利用しているにしても、一度成立したコミュニティを後から実名に変えてサービスを提供するというのは難しいと思います

 実名の人間関係を作ることが重要で、それを作るために流行のコミュニケーションの要素を取り入れたという考え方です。LINEもカカオトークも競合とは考えていますが、どちらかと言うと、電話帳やキャリアの電話サービスやメールといったクローズドコミュニケーション全般を意識しています。

 検討を開始した時期から考えると長いのですが、実際作り始めたのは約半年ほど前からです。コアとなっているのは10名に満たないメンバーでしたが、現在は70名体制。一気に体制を整えて開発に注力しています。

――なぜ実名での利用を前提としたのでしょうか。また、Mobageのソーシャルグラフと連携するといったことは選択肢になかったのでしょうか。

 以前からクローズかつ実名のコミュニケーションは大事だと考えていました。サービスの骨格です。実名でないと、ユーザーの人間関係が変わってしまった際、そのソーシャルグラフは過去のものになってしまいます。

――commでは通話品質をサービスの強みにうたっています。通話の品質は競合との差別化に繋がるのでしょうか。

 ユーザーにヒアリングをしていると「コミュニケーションサービスは通話の品質が悪い、よく切れる」という声が出てきました。最初にありきはユーザーのニーズです。あとはユーザーに対して分かりやすいメッセージを伝えていきたいということもあります。スタンプがどうだ、チャットがどうだ、というより分かりやすいメッセージを出したいと思いました。

――サービス開始から1週間弱ですが、反応はどうでしょうか。

 ご迷惑をおかけして申し訳ない状況ではありますが、手応えは感じています。プロモーションをしない状態でしたが、リリースした瞬間に(ダウンロードの)想定を超えていたので、そこは驚きました。ユーザーの利用頻度も高く、無料通話の品質について評価されています。もう少しサービスを煮詰めてからマーケティングをやっていこうと思っていたが、比較的早いタイミングから反応を頂いています。

――通話品質の話がありましたが、実際ユーザーはどの程度通話を利用していますか。

 まだまだサービス内での人間関係が少なく、利用のハードルも低いということがありトーク(チャット)のほうが多いです。ただし現時点で見えていることが続くかどうかは分かりません。

――サービスの反応は想定以上とのことですが、改訂前の規約に関して懸念するユーザーも少なくありませんでした。

 厳密な話になるのですが、とあるユーザーAが別のユーザーBにメッセージを送るとします。AのメッセージをBの端末に到達させるためには、一度弊社のサーバでデータを保持する必要があります。もちろんBにメッセージを送ったあとはその内容を破棄するので、AとB両者の端末にしかメッセージは残りません。ですが一時的には我々がデータを持っているため、リスクや可能性を考えて当初の規約を定めました。しかしその詳細を説明できていませんでした。

 ユーザーの情報や写真のタグなどはサーバに保持しますが、チャットの内容は保持しません。また、ユーザーのメッセージを外部メディアで使うような想定も現時点ではしていません。

――ユーザーがサービスを退会する手段も用意されていませんでした。(編集部注:現在はアプリ内のヘルプメニューから退会可能になったが、取材時点で機能が提供されていなかった)

 もちろん「退会させません」というわけではありません。規約にもあります。ですが手動で対応していました。我々の都合なのですが、commはスマートフォンのアプリケーションなので、「削除する」ということで(退会処理が)担保されるという考えでした。それでも退会したいという方は問い合わせしてもらえばと思っていました。

 サービスを大きくしたいといった全般的にサービス側の理屈を考えてしまって、お客さんのニーズとのバランスが崩れてしまいました。優先すべき順位を間違っていました。

――友人関係にあるユーザーの「友だちリスト」がありますが、これに登録されていないユーザーからの通話について着信を許可したり、写真へのタグ付けするといったこともできました(現在は友だち以外の通話はできない)。実名制をうたうサービスとして、ユーザーが不安視する可能性は考えていたのでしょうか。

 ユーザーのcomm内での基本的な友だちの探し方(電話帳やFacebookの連携を除いて)は、まず検索して、友だちリストに追加して、チャットや電話をするという流れです。通話はチャットよりハードルも高いと思っていたので、正直なところ知らない人に通話するユーザーが出てくると思っていませんでした。実際のところ問題になったケースは多くはありませんが、受けたユーザーの不安感は当然大きいと思います。

――私の友だちリストには、ユーザー名をハンドルネームに変更するなどして実名を表示していないユーザーがいます。今後は、たとえばFacebookのように、実名に関しては徹底していくのでしょうか。

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