「ユーザーのボランティア精神にひっかかるようにする」--ニコニコ動画運営のコツ

永井美智子(編集部)2007年12月20日 08時00分

 ドワンゴと子会社のニワンゴが共同で運営する「ニコニコ動画」は、ユーザーが動画をアップロードし、それに付いたコメントやタグ、Amazonなどの関連商品を見たり、自分でコメントを書き込んだりして楽しむというサービスだ。サービス提供者はユーザーに参加を促しつつも、場の空気を維持し、サービスの方向性を逸脱しないようにする、難しいかじ取りを迫られる。

 運営者はどのような点に注意をし、どんな仕掛けをすることでニコニコ動画というサービスを作り上げているのだろうか。ニワンゴ 代表取締役で、ドワンゴ ニコニコ事業部 部長を務める杉本誠司氏に聞いた。なお、杉本氏はニコニコ動画事業において、運用面のほか、営業面や動画の権利問題、他社との提携などの責任を持つ立場にある。

――ニコニコ動画ではある種の「ゆるい」空気が特徴になっています。場の空気を作る上でどういった工夫をしていますか。

 そうですね。格好いい言葉で言えばユーザージェネレイテッドな部分――ユーザーが、ユーザーの手によって、ユーザーのためにやっていくという、ボランティア精神に基づいた作り方というのは結構気をつけてやっています。なるべくテレビのように一方通行にならないように、なおかつ完成品を届けるということをあまり意識しないようにしています。

 要するに、素材を提供して、それをどういう風に加工するのか、考え方も含めてどう活用するのかというのをユーザーに委ねるということですね。

 当然その時には、例えばそのまま使ったらこうだよね、裏をかかれたらこうだよね、というのを、裏の裏まで含めて何パターンか想定しながら提供していきます。ただ、「これはこうやって使うものです」というのを決めつけないようにはやっています。

――それは、怖くないですか。

 怖いですよ(笑)。でも、それはリスクと考えるか、チャンスと考えるかだと思うんですね。リスクは当然ヘッジする方法を考えながらやります。ただ、これはチャンスだと思うんです。新しい、今までにないものを生み出すのはチャンスじゃないですか。

――ニコニコ動画を運営する上でのこだわりは。

 ユーザーの、いろんな意味でのボランティア精神のアンテナにひっかかるようなサービスを提供するというのはけっこう意識していますね。

 例えばニコニコ市場の場合、普通は動画に対してサービス提供者が選んだ商品を提案するものだと思うんですけど、そこはユーザーの自由に任せて、ユーザーが好きなように商品を貼りつけられるし、好きなようなコミュニケーションを取れる。

 それで、ここがポイントなんですけれども、それに対するインセンティブは、通常のECサイトではユーザーに還元されるんですが、ニコニコ動画の場合はユーザーに還元されません。ニコニコ動画に対して還元されていく。

 ユーザーが作っているサービスであるからこそ、みんなが楽しんだことによって得られた利益がニコニコ動画に還元されることによって、ニコニコ市場が充実していったりとか、ユーザーに対するツールやサービスが拡大していくように演出する、というのはすごく意識していますね。

 ユーザーもそれを宣言されているわけではないんですけれども、あえてのみこんで、お互いにそういう共通認識を持ってやる。これはユーザーの特性としても面白いと思いますし、我々なりにもそういうのは演出しているつもりなんです。

――ニコニコ市場の売り上げがユーザーではなくニコニコ動画の運営収入になるという仕組みは、「ニコニコ動画の運営が赤字である」という状況下であれば、ユーザーは一種の義援金のようなものだという感覚を持つのでうまく回ると思います。ただこれは、事業が黒字化すると崩れる危険性があると感じます。

 そこはなんて言うんだろうな、僕らは儲かった分はユーザーに還元するものだと思っているので、その儲かった部分で新たな機能を実装していったりとか、回線を拡張するとか、そういったものに充てさせていただくという方向性ですね。それは当然ユーザーが増えるほど終わりはなくなっていくので、この状態でいくのかなという気はしています。

 もし事業が黒字に転換するとなれば、何か違うモチベーションをユーザーに対して示していく可能性はあります。たとえば、直接利益が還元されるわけではないですけれども、ファンドのように(計画していたサービスが)ここまで来ました、といったものを示してみんなで盛り上げていこうとか。(ニコニコ動画の黒字化による)その成果はみんなのものであるといった演出と、そういうものを成り立たせたいというユーザーの意識によって、我々のサービスは成り立っているのかなと思っています。

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