デザインから見るデジタルプロダクツ--第3回:ウィルコム「9(nine)」携帯電話

インタビュー・文:木村早苗2006年12月22日 21時23分

現在、唯一のPHSキャリアであるウィルコムが12月14日に発売した「9(nine)」は、ウィルコム SIM STYLEに対応した9番目の音声端末だ。通話・メール・Webブラウザという割り切った機能を体現するかのように、デザインもシンプルで潔い。とはいえ、W-SIMという挿抜可能なPHSモジュールにより、高度化PHS規格W-OAMの「RX420AL」にも対応した優れものなのである。WPCエキスポでもエディターズチョイス賞を受賞したという話題のモデル「9(nine)」について、担当デザイナーとマーケッターから話を聞いた。

完璧を目指す「大人向け」の携帯

--まず、「9(nine)」のデザインコンセプトについて教えてください。

堀田峰布子 氏 株式会社ウィルコム
プロダクト統括部 課長補佐
堀田峰布子 氏

堀田 「大人が持ちたい」と思えるデザインの携帯電話を作りたいということが発端でした。そのためには「成熟」「シンプル」などがキーワードになっていますが、これはウィルコムのブランディングにもいえることなんです。通話、メール、Webブラウザとあえて機能を限定したのも、ウィルコムのブランドイメージとユーザーニーズの両方を照らし合わせた結果です。

--ある意味ユーザーターゲットをものすごく絞り込んだデザインだと思いますが。

堀田 そうですね。ここまで突き詰めたシンプルデザインを実現できた背景には、機能別に幅広く端末を揃えるウィルコムならではというか、音声端末という視点でデザインできるSIM STYLEだからこそだと思います。SIM STYLEとは、通話やデータ通信、メールといった携帯電話としての機能を、ウィルコムコアモジュール「W-SIM」側に持たせるもの。これにより端末側の技術開発における負担を軽減させられるといったメリットがあります。さらに規格自体をオープンにしていますので、新規参入メーカーを受け入れやすい。そのため、短いスパンでバラエティに富んだ端末を作り出せます。

W-SIM W-SIM(ウィルコムシム)は、通話やデータ通信などの無線通信技術と電話帳などの個人情報を持つ多機能通信モジュール。対応端末であれば、W-SIMを入れ替えるだけで通話やアドレス帳機能が使える。新規端末への移行が行いやすいほか、複数の端末を機能に合わせて、併用することができる。

シンプルでミニマル。「好きな人が納得してくれればいい」

--「9(nine)」というネーミングも大変シンプルですが、どんな意味が込められているんですか?

田尻圭史郎 氏 株式会社ウィルコム
プロダクト統括部 主任
田尻圭史郎 氏

田尻 元々は“W-SIM端末として9番目に登場した”という個体番号です。端末のデザインコンセプトがシンプル・ミニマルなので、余計な印象をつけないためにも、個体番号をそのまま製品名にしています。

--直線が目を惹く形状ですが、一番のこだわりポイントは?

堀田 “一枚の板から切り取った形”です。角が“.5a(コンマ5アール)”というこだわりも含めて、もう「これがいい!」と言ってくださるユーザーのためだけに作りました。ただ、この“切り取った”感を出すのは金型の制約もあって大変でしたね。物を形のまま押し出した形というのはすごく作りにくい。そのためにどうするかというと、下から上にかけてなだらかな台形にするんです。プリンを容器から抜くことを思い浮かべていただけるとわかりやすいんですが、ある程度台形の形でないと抜けないんです。もちろんコストをかければ、完全な四角を保っても抜けるのだと思いますが、コンシューマープロダクトだけにコストと量産を両立させる必要があります。だから機構設計をご担当いただいたKESの方にはずいぶん無理をお願いしました。

--細かな部分での工夫などは?

堀田 薄く見えるように、側面のパーティングライン(型と型の合わせ面)を下部に配置して錯視効果を狙っています。それから、各パーツのラインをすべて延長線でつなげることで、精緻な印象を与えるようにしました。これは人間の認知力に負うところが大きいですね。

--デザインする際、インスピレーションを受けたものはありますか?

堀田 「こういうものが欲しい」という自分の思いの方が強かったかな。デザイナーズ携帯が発売された時、スクエアデザインの携帯電話ってたくさん発売されましたよね。そのどれとも違う「私ならここまでやる」というデザインをずっと考えていたんです。その気持ちがW-SIMという受け皿ができてようやく形にできたなと。


PICK UP ITEM
ウィルコム/9(nine)WS009KE(携帯電話)


9(nine)

独自の多機能通信モジュール「W-SIM」カードを採用したW-SIM STYLEケータイの最新モデル。直線と直角から成る潔いデザインが特長で、多機能化が進む携帯電話製品群において、通話、データ通信、メールと機能自体も大変シンプルだ。本体薄さは11.5mmとスリムボディながら、2インチの液晶モニタ、リチウムイオン電池、W-SIMカードと内蔵する。フルブラウザ「NetFront」の採用、最大204kbpsの高速通信と機能面も充実だ。

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