フィオリーナ氏:HP追放は取締役会の「感情的な決定」 - (page 2)

文:Ina Fried(CNET News.com) 翻訳校正:編集部 2006年10月19日 08時00分

 HPは競合企業にどんどん後れを取っていました。官僚的で、非常に内向きで、顧客のことは忘れ去られていました。IT企業でありながら、何のイノベーションも行っていませんでした。合併は不可欠でした。合併が抵抗を引き起こしたことは確かですが、変化とはそういうものです。HPは変化に激しく抵抗しましたが、合併は避けられない選択でした。

--当時のいざこざをふりかえって、もっと違う方法を使えばよかったと思うことはありますか。それとも、他にやり方はなかったのでしょうか。

 変化は抵抗を伴うものです。偶像視されてきた企業、伝説的な創設者たち、抜本的な改革がシリコンバレーや自分たちを変えてしまうのではないかという不安、否定的な環境と猜疑的で悲観的な人々--このような条件がそろえば衝突が起きるのは必至です。しかも、激しい衝突です。私はHPがこの戦いを立派に戦ったこと、難しい選択をしたことを誇りに思っています。こうした道筋を経て、HPが今、本来のリーダーの座を取り戻したことを誇りに思っています。

--HPの再生は、特に情報漏えいスキャンダルが明るみに出るまでは称賛の的になっていました。しかし、必ずしもあなたの功績が認められたわけではありません。HPの再生にご自身が果たされた役割をどう評価しますか。

 まず、これは再生ではありません。企業がわずか12カ月で再生することはありません。それは不可能です。HPは1999年から徐々に姿を変えてきました。この変化の大部分は私がCEOを務めていた時代に起きたものです。

 もちろん、すべてが私の功績ではありません。しかし、私の功績もある程度は認められるべきだと思います。

--情報漏えいスキャンダルは、過去の取り組みや努力を台無しにしていると思いますか。

 非常に残念なのは、現在の状況が従業員を動揺させていることです。今回の出来事はHPの名声にも影響を及ぼしていますし、取締役会と経営陣はビジネスとは何の関係もない問題で手一杯になっています。これはHPの倫理と体質に関する問題です。

--HPにとって、この事件は解決可能なトラブルの1つにすぎないのでしょうか。それとも、この事件はHPに深刻なダメージを与えることになるのでしょうか。

 どんな企業も倫理や体質、手法の問題に直面することがあります。私は本書でも、HPにいた頃も、何をするかと同じくらい、どうやるかが重要だと主張してきました。会社の体質や行動に関する問題が起きた時は、腰を据えて対応しなければなりません。問題を隠し、何も起きなかったようなふりをすることはできないのです。

--本書ではMichael Capellas氏(Compaq Computerの元CEO)をかなり厳しく批判されていますね。これは多くの人が意外に感じるのではないでしょうか。HPとCompaqは補完関係にあり、どちらも合併に満足しているように見えました。実際はどうだったのですか。

 信頼できるビジネス書を書こうと思ったら--それが本書で私の目指したことですが--自分の経験や関係者の行動をありのままに書き記す必要があります。相手が著名人だという理由でうやむやにすることはできません。

 私は若い頃から、仕事仲間をおとしめるような行為は許されないと考えてきました。他者には敬意と威厳を持って接するべきです。そのような態度が望ましくない結果を生むなら、難しい選択をしなければなりません。

--つまり、Capellas氏があなたをそのように扱ったということですか。それとも、社員をそのように扱ったのですか。

 本書を読んでいただければ分かると思いますが、自分の扱われ方に関しては、私は非常に我慢強い人間です。社会に出たばかりの頃、ある弁護士と知り合いました。彼は絶えず周囲の人間をののしっていました。私も被害者の1人です。彼は1日中でも私を怒鳴りつけていたでしょう。

 私は立ち上がりました。しかし、それは自分が怒鳴られたからではありません。彼が何の力もない人々を怒鳴りつけるのを目の当たりにしたからです。権力の座にある人間が無力な人間を攻撃すれば、それは2倍の力を持ちます。私は立ち上がって声をあげることができます。しかし、すべての人がそうできるわけではありません。

--ビジネスにおける不平等--特にジェンダーに関する不平等を是正するためには何を変える必要があると思いますか。

 私は常に他の人と同じルールで仕事をしようと奮闘してきました。誰もが同じルールで働く機会を与えられるべきです。女性を特別扱いしたり、男性より甘やしたりするべきではありません。女性は男性と同じ扱いを受け、男性と同じ基準で評価されるべきです。現在の世界はまだ人間を人種や性別で区別しています。ビジネスの世界では言うまでもありません。

--それは初期の教育の問題なのでしょうか、それともビジネスの仕組みの問題なのでしょうか。科学、ビジネス、技術の領域には、十分な数の女性が進出していると思いますか。

 統計を見れば、答えは当然ノーです。今は進化の途中であり、変化には時間がかかります。しかし、本書がビジネスやその仕組みに関する対話を促進するものとなることを期待しています。

 本書を機に企業の体質や取締役会のガバナンスに関する対話が始まること、「なぜ女性を男性とは違うものと見なし、滑稽化して描くのか、なぜ男性と女性は別のルールにしたがうのか」に関する対話が始まることを期待しています。

--本書の読者に最も伝えたいことは何ですか。

 読者には、特にビジネスの世界にいる読者には、「ああ、これが現実なのか」と感じてほしいと思います。変化がいかに難しく、いかに必要とされているかを理解してほしいと思います。一歩引いた視点から、企業の体質や倫理の重要性を考えてほしいと思います。そして、風刺画の登場人物としてではなく、1人の人間としての私を知っていただきたいと思います。

--その意味では、HPを去ってからの数週間が特に過酷だったようですね。

 ショックでしたね。青天の霹靂でしたから。何の会話も説明もなく、突然、会社を追われたのです。その後は何週間にもわたって公の場で徹底的にたたかれました。愉快な経験ではありません。おっしゃる通り、大変な時期でした。

--この経験によって自分は変わったと思いますか。もしそうなら、どのように変わったと思いますか。

 変わっていないと思いたいですね。これまで通り、私は非常に楽観的な人間だと思います。ただ、人間の善と悪に対する考え方は、この経験によってさらに強固なものとなりました。

 エピローグにも書きましたが、私がこれまでの人生で信じてきたもの、HP時代に迫られた数々の苦しい選択--こういったものはすべて、この18カ月の間にさまざまな意味で正当性を証明され、再確認されたと思います。本書の巻末には私の信念を書きました。私は感謝しています。さまざまな意味で、この18カ月間は天からの贈り物だったと思います。

--次に何をするかはまだ決めていないとのことですが、心の準備はほぼできているのですか。来年くらいには何か新しいこと、これまでとは違うことに身を投じていると思いますか。

 この18カ月間、いくつもの新しいこと、これまでとは違うことに取り組んできました。とても忙しい毎日です。次に何をするかは折を見て決めるつもりです。その時が来れば分かるでしょう。そうですね、それほど先の話ではないと思います。

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