多様性に対応できるものだけが生き残る--スクウェア・エニックスの危機感 - (page 4)

永井美智子(編集部)2006年09月22日 03時27分

--松下電器産業とも提携しました。

 現状ではテレビをさまざまな用途に使おうとすると、セットトップボックス(STB)が横に必要になります。代表的なのは衛星放送のチューナーやゲーム機ですね。しかしそろそろ、そういったものがなくても、テレビだけである程度のことができるようにしたい。解像度が上がってネット対応になったときにSTBがなくてもユーザーがいろいろなコンテンツを楽しめるという状況が作れるはずです。

--ゲーム機がなくてもいい世界を作るということですか。

 ゲーム機はハイエンドマシンですから、テレビにゲーム機並みのことはできません。ただ携帯電話が電話だけでなくいろいろなことができるようになったのと同じような進化はテレビにもあると思います。

 松下電器はあらゆるデジタル家電で共通の統合プラットフォームを利用しようとしています。スクウェア・エニックスではこの統合プラットフォームに対して、どうやったらさらにグラフィックスの表現能力が上がるかといった部分の技術協力をしていきます。

--スクウェア・エニックスはさまざまな手を打っているようですが、最終的に目指す姿とはどういったものでしょう。

 「スクウェア・エニックス」という名前を聞いたときに、ぱっと思い出が浮かんだり、楽しかった、かっこよかったといったような感情が思い起こされるような会社にしたい。Disneyなどがそれにあたるのかもしれません。

 そういう会社になりたいので、ユーザーとの接点は増えれば増えるほど嬉しいんです。ただ、接点が増えるとコストパフォーマンスは落ちます。集中すればするほどコスト効率は上がるものです。いかに効率を落とさずにユーザー視点を広げていけるかが問われます。

--経営課題は。

  腹の底から意識を変えることですね。スクウェア・エニックスには強烈な成功体験があります。それを否定はしませんが、変わることによる成功イメージよりも、これまでの成功体験のほうが強烈なので、ここの意識をどう変えるかが課題です。

 多様化というと当たり前のように聞こえるかもしれませんが、ゲーム業界にとっては当たり前ではないんです。「ゲームとはこういうものである」とゲーム業界が一番定義してしまっている。ユーザーが「これもあれもゲームだ」と思っているにもかかわらず、「ゲームはこう作って、こう売らなければならない。なぜならばそれで今まで成功してきたからだ」という思いがものすごく強くある。

 「大作主義」という言葉がありますが、そもそも大作が良いか悪いかという問いかけ自体が変なんです。そういうゲームが欲しい人には提供して、いらないという人には別のゲームを出すという話だと思います。なぜ大作主義という単語があるかというと、過去何十年もの間、業界がみんな同じベクトルの上で競争していたからなんですね。これまで1本の筋に沿って進化してきたものが今後は多様化する。そこでは大変な意識変革が必要です。

--開発現場は大変ですね。

 お客さんに喜んでもらいたいという純粋な気持ち以外は全部捨てる必要があります。そのためには、「この人に遊んでもらいたい」というターゲットの人をじーっと1日観察するんです。そうすると、朝から晩まで携帯電話を持っているから携帯電話向けのゲームにしよう、といった発想がでてくる。何も見ずに「ゲームとはこういうものだから」といって作って「さぁ買ってくれ」といったところでうまくはいかない。ユーザーのライフスタイルや好みに従ったコンテンツを提供する必要があります。

--いま一番欲しい人材は?

 ビジネスを組み立てられる人が欲しいですね。開発陣が非常に強い会社なので、逆にビジネスを組み立てられる能力は低い。ここは喉から手が出るほど欲しいです。いままではいいコンテンツを作ればそれでいいだろうという感じでした。しかしそれは、誰かが売ってくれる--つまりビジネスモデルが変わらないという前提だから言えることで、ビジネスモデル自体を変えないといけないとなると話が違う。名前がないから売るのが大変なのではなくて、収益モデルを組み立てるところからやっていかないといけないから大変なんですよね。

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