IDEOが教える「イノベーションを生む秘けつ」 - (page 2)

インタビュー: 坂和敏(編集部)
文: 坂本和弘
2006年08月07日 08時00分

 通常、クライアント企業は新商品を開発する「開発費」という名目で依頼料を払うんですが、松下電器は、「商品開発費としてではなく、3人のデザイナーをトレーニングする費用として払います」とおっしゃいました。そして、「自分が欲しいのは商品という魚だけではない。その魚を捕まえられる網も欲しいんだ」と続けました。網があれば、次からは自分で魚を捕まえられるようになりますよね。つまり、彼が求めていたものは商品だけではなく、それを生み出せる人材でもあったのです。

--そういった依頼は増えてきているんでしょうか。

 1990年代では非常に珍しかったんですが、今では当たり前になってきましたね。富士ゼロックスやKDDIのほか、大手の自動車会社など、人材トレーニングに強い興味を持つ日本企業はかなり多くなりました。

--ほかのコンサルティング会社とIDEOは、何が違うのでしょう。

トム・ケリー氏 Kelley氏はインタビュー中も常に板書やメモでアイデアを形にしながら説明した

 例えば、有名な総合コンサルティング会社のMcKinsey & Companyは、教科書で学ぶような一般論を個別の案件に当てはめていくというスタイルをとっています。

 しかしIDEOは、McKinseyとはちょうど反対の視点から、自分たちの知恵を引きだすというやり方をしています。つまり、個別の案件で得たノウハウを理論化していくという方式です。そもそも、1つ1つのクライアントが必要とする商品に、一般的な例などありませんからね。

--多くの企業は、イノベーションの大切さをわかってはいるものの、組織が成長するにつれうまく発揮できなくなるというジレンマを抱えています。特にベンチャー企業で多く見られる、社員が多くなるにつれて発生する「成長の痛み」をどう乗り越えればいいと思いますか。

 そうですね、ジェームズ・C. コリンズ著「ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則(原題:Built to Last)」や「ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則(原題:Good to Great)」が参考になると思います。

 例えば、Googleや3Mといった非常に優秀な企業は、発足する当初から社員全員がイノベーションを起こすことを前提とし、それを固持してきました。

 だからこそ、発足したばかりのベンチャー企業にいる人たちは「非常に贅沢な状態にいる」と思って欲しいと思います。すでに大きくなってしまった企業が決して立ち戻ることはできない時期にイノベーションを基本理念に据え、それを維持していけば、いずれGoogleや3Mのような強さが身につくことでしょう。

IDEOが手がけた幅広いイノベーションの形

 もちろん、最初からイノベーションを前提にするには、ある程度のメソッドが必要です。しかし、最初からきちんとしたメソッドを用いなくても、「こんな案はどうだろう」「あのやり方はどうだろう」と自由に話し合う環境を作るところから始めてもいいのです。

 それから、とにかくプロトタイプを作って形に落とし込むこと。新たなことを試みる実験精神と、新しいものに対して興味を持つ子供のような好奇心も必要です。固定観念や先入観にとらわれては真のイノベーションは生まれません。あとは、イノベーションのための場所を用意することです。

--具体的には。

 Procter & Gamble(P&G)は、「The GYM」と名づけられたイノベーションセンターを設立し、自由な環境や斬新な空間を通じて、新たなアイデアを引き出しています。GYM(体育館)は体操をするところですが、The GYMは体操をする代わりに、頭脳の訓練をするのです。

 もちろん、社長であるとか、新人であるといったことは関係なく、そこにいる全員が、まったく同じ立場で力を発揮できるような状態にしておくことも必要です。

 6月に日本で発売した「イノベーションの達人!」の中に、「舞台装置家」というキャラクター(人材のタイプ)が出てきます。このキャラクターは、当社の企業理念全体に組み込まれているほど重要なもので、新たな舞台や空間の作成、人材の配置転換などで組織の活性化を図ります。今までのような固く狭い会議室では出なかったアイデアも、空間を変えたら出てくるといったことは珍しくありません。その意味でも、イノベーションには欠かせないキャラクターだと言えるでしょう。このようなキャラクターを発掘、育成するのも非常に大切なことだと思います。

イノベーションを起こすための5ステップ IDEOで使われている、イノベーションを起こすためのステップ。理解、観察、視覚化、評価と改良、実現の5つからなる。

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