「ロングテール理論」の提唱者クリス・アンダーソン氏に聞く

文:Daniel Terdiman(CNET News.com) 翻訳校正:尾本香里(編集部)2006年07月28日 19時14分

 2004年10月、Wired Magazine誌に「The Long Tail」と題する記事が掲載された。すると、このロングテールという理論は、Malcolm Gladwellが提唱した「The Tipping Point」にも匹敵する勢いで、あっという間に広く認知されるようになった。

 記事を書いたのは、Wired Magazine誌の編集長Chris Andersonだ。「ロングテール」というのは実は、もともと存在していた当たり前の現象を指しているのだが、Anderson氏はそれをシンプルな枠組みで展開して見せた。Netflix、Amazon.com、AppleのiTunesなどのサービスが、いわゆる死に筋の曲や本、映画を消費者の見える場所に陳列し、少数ながら立派に売れるようにもっていった、その方法について説明する。

 こうしたアグリゲーションサービスでは、消費者から好みの音楽や映画といった情報を収集し、その情報を活用して消費者に関連アイテムを勧めるといったことが可能になる、というのが彼の主張だ。こうして消費者はヒット商品からどんどん離れ、いわゆる「ロングテール」の領域に入っていく。Netflixでは、販売数が5万位の商品でも利益を上げることが可能だという。

 一方、消費者から見ても、こうしたサービスには利点がある。品揃えが実店舗とは比べものにならないくらい豊富なのだ。こうしたロングテールの概念自体は別段驚くものではなかったのだが、エンタテイメント業界のウォッチャーたちは、ヒット作品だけが売れると思いこんでいた。いわゆる死に筋と言われる作品も売れるというのは思いがけないことだった。

 Wired Magazine誌の記事で成功したAnderson氏が、今度、その理論を拡張して本を出版することになった。

 そのAnderson氏に電話で話を聞くことができた。ちなみに、この日は彼にとって死ぬほど忙しい一日だったと思われる。というのは、彼が自分の本について発表したその日に、Wired Magazine誌の親会社であるConde Nast社がオンライン技術ニュースサイトWired Newsを買収したからだ。これにより、8年ぶりにWiredの2つの部隊が再統合されることとなった。

--「ロングテール」という用語はどのようにして思いついたのですか。

 この言葉は統計学からきています。2004年にスピーチで使用するデータを収集しているとき、デジタルメディア関連企業のデータを調べていたのです。製品を横軸に販売数または人気度を縦軸にとって販売数の多い順に並べたグラフを描いてみると、スキー場のスロープのような形になります。これは、「べき法則」(Power Law)と呼ばれます。ヒット商品は大方、グラフの左寄りに、ニッチ商品は右寄りに表示され、カーブは右側にずうっと下がりながら伸びていきます。通常店舗であれば在庫がなくなるところでも、オンライン店舗だと相当にニッチな商品でも在庫が確保されています。

 で、そうしたニッチ商品に注目してみると、どれ1つとして数量は売れていないのですが、商品の種類が相当な数にのぼっている。ですから、市場規模としては、ヒット商品に匹敵するくらいの規模に近づいていたわけです。こうした分布のことを、ヘビーテール、ファットテール、あるいはロングテールと呼びます。要は陳列スペースに制限がないために生じた効果であり、これを私はロングテールと呼んだわけです。そして、その呼称が広く普及することになりました。

--確か、(Netflixの創設者である)Reed Hastings氏が、ロングテールという名前を使うように勧めたのですよね。

 そう、私はPowerPointで作ったプレゼンテーションをいくつか用意していたのですが、その中で「98%ルール」という表現を使っていました。つまり、オンラインショップでは、どんなに多くの在庫を抱えていても、全体の98%の商品が最低月に一度のペースで売れてゆくというルールです。これは予想外のことです。それまでは、80/20ルールにより、販売数の多いものから上位20%に入らない商品は、ほとんど需要がないと思われていましたから。しかし、ほとんどすべての商品に需要はあることが分かってきた。13枚目のスライドだったと思いますが、べき法則のグラフの中で右側のしっぽの部分に注目していて、そこで「ロングテール」という用語を使ったわけです。この理論は本当に注目を集め、Hastings氏には「これで君も一躍有名人だね」と言われました。

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